
2015年12月、東京大学が主催する「高齢者クラウド」第5回シンポジウムが開催されました。「高齢者クラウド」とは、超高齢社会におけるシニア層(65歳以上)の社会参加と就労を支援するためのICT基盤を構築する取り組み。シニアの経験・知識・技能を活用することは、人口減少社会での労働力確保という目的だけでなく、広くイノベーションを創出していくためにも欠かせないポイントであると考えられます。
後編では、株式会社サーキュレーション代表取締役の久保田雅俊より講演させていただいた、「シニアワーカーの新たな働き方」についてお伝えします。
時代は「雇用」から「外部プロフェッショナル人材の活用」へ
サーキュレーションでは、シニアワーカーの新しい働き方を推進しています。実際にクライアント企業とのマッチングを図り、高度な知見・スキルを擁するシニアの方々に経営参画してもらっているのです。その経験から、今後考えられるシニアワーカーの新たな働き方について、そして企業がどのようにして多様な人材を受け入れていくべきなのか、お話できればと思います。
そもそも私たちは、シニアワーカーの経験や知見をもっと好循環させる必要があると考えています。シニアの力を必要とする中小企業は多いんです。しかし正社員という雇用形態にこだわってしまうと、シニアの転職は極めて困難になってしまう。そこで、「週3時間」とか「ひと月に5日間だけ海外に行く」といった新しい働き方によってマッチングを図るという事業を展開しています。
これは言うまでもないことですが、人口構造の変化と長寿化によって、日本はシニアを中心とした社会に転換しています。「若者の街・渋谷」という表現は、果たしていつまで使われるでしょうか? そんな風に世の中が変わっているのに、日本の正社員の働き方は98%が「9時から18時まで」。グローバル化によって市場は365日・24時間眠らずに動いているのに、働き方は一切進歩していません。既存の働き方の常識にとらわれず、新たなワークシフトを実現することが求められています。
弊社がシニア登録者にアンケートを取ったところ、就業を希望する理由としては「定年後も社会に役立ちたい」という回答が圧倒的な数でした。「自分の経験・知見をもっとアウトプットしたい、それができないのはもったいない」という思いを、多くのシニアが持っているのです。こうした方々を活用していくためには、「雇用」ではなく、「外部のプロフェッショナル人材を迎え入れる」という発想に転換していかなければならないでしょう。
かつての日本では、40年間のビジネス人生を1社のみで勤め上げることが常識でした。それが今は、「3回の転職は当たり前」という時代です。これから先はさらにワークシフトが進んで、プロフェッショナルとして貢献できる能力を持つ人なら、「同時に3社で働くことが当たり前」といった時代が来るのではないかと考えています。これは、人口減少社会の中で企業が労働力を担保していくためにも必要なことです。
シニアの専門性を活用してオープンイノベーションを生み出す
それでは、外部人材を活用してオープンイノベーションを起こしていくためには何が必要なのでしょうか? 弊社はクライアント企業から、オープンイノベーションの専門会社としての期待も寄せられています。オープンイノベーションとは、「企業内部のリソースと外部のアイデアや技術・ノウハウを有機的に結合させ、新たな価値を創造する」ということです。
実際に弊社が行っているサービスの実例をご紹介しましょう。新規事業を作りたいと考えていた、重厚長大な組織を持つ大手企業のケースです。
まずは外部の専門家を集め、リサーチ作業をぐるぐると回していきました。クライアントに対するヒアリングの項目を各論に落とし、その会社と生み出せるシナジーの可能性を絞ってから、専門家の知見をインプットしていきます。新規事業の方向性を定めていくため、多忙な社長との限られた時間にコミットできる専門家をアサインしました。実際にマーケティングと販路の拡大を進めるフェースでは、事業開発のプロを5名、10名という単位でアサイン。クライアントが雇用リスクを負うことなく、外部専門家によるプロジェクトを組成することで課題を解決していくのです。
社会が成熟し、労働人口が減少していく中で、優秀な人材を確保することはどんどん難しくなっていきます。優れた経験・知見を持つシニアは、唯一残された人的資源であると言えるでしょう。企業の経営課題に合わせてシニアの専門性を見極め、ノマドワークという新しい働き方でマッチングしていく。これによって新たなソリューションや、新しい働き方の実現を目指していきたいと考えています。
弊社では現在約3000名の専門家データベースを保有していますが、このうち約60パーセントがシニア人材です。こうした方々は、一般的な企業の「雇用」という方法論の中では、人事部による年齢スクリーニングによって一発で落とされてしまう。私たちは企業の課題分析を行い、経営者とのディスカッションを重ねて最適な人材をマッチングしていますので、シニア人材が活躍する場は広がり続けています。
企業側のメリットはとてもシンプル。シニア人材は今現在どこかに雇用されているわけではないので、来週の月曜日からでも活用できます。また、他の人材データベースにはない高度な経験・知見を有する人と出会えます。そして、「週1日」「月4日」といったフレキシブルな働き方で経営を支えてもらうことができます。
これまでに累計約650のプロジェクト稼働実績があり、常時200から300の案件が動いています。成果をベースにしてリピートしていただくクライアントも増え続けており、メディアからも注目を集めるようになってきました。今後もこのスキームによるマッチングを通じて、より多くのオープンイノベーションを生み出していきたいと考えているところです。
シニアエグゼクティブの活躍は、地方創生やグローバル展開へ
最後に、「”シニア×働く”を科学する」というテーマについてもお話をさせてください。私たちはシニア人材のことを「シニアエグゼクティブ」と呼んでいます。この方々にどの業界で、どんなテーマで、どんな立ち位置で活躍してもらうのか。社長の隣なのか、部長の上なのか、プロジェクトリーダーなのか。そうしたポジションを定義して、課題解決のステップをシニアエグゼクティブの専門家とともに考えていくのです。
こうしたプロセスにおいて、弊社コンサルタントの暗黙知とビッグデータをつなぎ合わせ、案件が自動マッチングされる仕組みを東京大学・IBMとともに開発しています。一般的な転職であればレジュメと求人票でマッチングするのですが、「プロジェクト案件と人の職能」のマッチングはより複雑。より本質的な、課題を抱える企業とエグゼクティブシニアのマッチング精度向上に向け、未来への仕掛けとしてこの取り組みを継続していきたいと考えています。
サーキュレーションはまだ設立3年目ですが、これまでに3本のWebサービスをリリースしてきました。その一つにマイクロコンサルティングサービス「Open Research」があります。1時間のマクロコンサルを、高度なスキルを持つ専門家がスカイプや電話、コンサルを通じて提供しています。また、エンジニアを対象とし、CTOとして週1日とか、デザインアーキテクチャとして3日間だけプロジェクトに参加するという「flexy」というサービスも展開中です。
これらのソリューションにより、東京に暮らすプロフェッショナルが月に4日だけ地方に出向き、地方創生に貢献するという新たな価値を創出することも可能となりました。このスキームはグローバル案件にも生かされていくでしょう。新たなワークシフトを推進することでオープンイノベーションにつなげていく。このサイクルを、今後も拡大していきたいと思います。
取材・記事作成:多田 慎介