「世界中の経験・知見が循環する社会の創造」というビジョンを掲げる株式会社サーキュレーション。Business Nomad Journalでは、個人が複数の企業に同時参画して持てる力を生かす「新しい働き方」と、企業が外部人材を活用することで実現する「オープン・イノベーション」についての情報をお届けしています。

 

「新しい働き方」と「オープン・イノベーション」は今、地方の中小企業が新たな活路を見出すために欠かせない要素となりつつあります。本連載では「”人”が変える地方創生」と題して、サーキュレーション代表の久保田より、この2つの潮流についてじっくりお伝えします。

 

第1回のテーマは、人を通じた中小企業支援、地方創生に取り組む久保田の「原体験」。人材による地方創生という想いに至った経緯を語ります。

 

本記事はサンケイビズの連載「”人”が変える地方創生」との連携企画です。サンケイビズの記事についてはこちらから

波平さんはいくつ?に見る、日本のパラダイムシフト

これからの働き方や企業のあり方をお伝えする際、私はいつも初めに「サザエさんのパラダイムシフト」について話しています。講演の場であれば、来場者に「漫画の『サザエさん』に登場する磯野波平さんは何歳に見えますか?」と問い掛けるんです。半分ぐらいの人が「60歳以上」と答えるんですが……実は波平さんは54歳という設定なんですよ。

 

2015年時点でいえば、波平さんは俳優の佐藤浩市さんと同い年。ものすごく大きなパラダイムシフトが起きていると思いませんか? 『サザエさん』の連載が始まって間もない頃((※1 サザエさんの連載がスタートしたのは、終戦の翌年の1946年)は、日本人男性の平均寿命は50代でした。
それが今では80歳(※2 昭和22年(1947年)の男性の平均寿命は50.06歳、平成26年(2014年)は同80.50歳)。皆が知っていることですが、改めて考えてみると、「人生の真ん中」は随分と変わってきているんです。「働き方」や「企業のあり方」、そして本連載のテーマである「地方創生」を考える際には、ぜひこのことを頭の片隅に置いてほしいと思っています。

大学生で経験した「会社の清算」

私は、地方創生において重要なのは「中小企業の支援」であると考えています。そう思うようになったのは大学生の頃でした。地元・静岡県で学習塾を経営していた父親が、ある日階段から落ちて、昏睡状態になってしまったんです。目を覚ましてからも10年間、ずっと家族で介護していました。

 

地域最大手の学習塾でしたが、父が倒れたことで一気に大混乱に陥りました。トップに何かが起きて、トップが欠けてしまうと、中小企業というものは見るも無残な状態になるんですよね。それを自分自身が目の当たりにして、肌で感じました。

 

それからは母とともに、父の会社の清算処理と向き合うことになりました。5人兄弟の長男なので、承継も検討しなければいけなかった。でも冷静に考えれば、「学生が学習塾を承継できるわけがないじゃないか」と。母は運営のサポートをしていただけだったので、承継を考えるまでには至りませんでした。それで会社を清算することにしたんです。

社長である父以外に、プロ経営者がいなかった

「会社の経営って難しそうだけど格好いいな」などと考える余裕もなく、非常事態に直面して会社の蓋を開けることになりました。でも、その蓋がなかなか開きません。

 

金庫の鍵の番号を知らないし、「顧問税理士が誰なのか」も父しか知らない。所有する土地の権利関係がどうなっているのかも分からないし、遺言が準備されているわけでもない……。混乱の中、手探りで清算を進めていきました。

 

当時私は21歳。普通なら経験しない苦労を味わった後で、父の会社に、中小企業に何が足りなかったのかと考えました。痛感したのは「プロ経営者がいなかった」ということ。父をサポートし、いざというときには経営を担ってくれるような人がいなかったんです。「お金のことは銀行さんに」「税務のことは税理士さんに」といったパーツごとの外部パートナーがいても、それらの情報を社内で掌握し判断できる人が、父の他にはいませんでした。

「企業は人なり」を痛感

同じように相続や承継、M&Aというパターンに収まらない会社は、日本中にたくさんあるのだと思います。日本の会社の99.7パーセントが中小企業で、ほとんどが家族経営で成り立つ「ファミリービジネス」です。

 

我が家の場合は、まだ子どもがいるだけ恵まれていたのかもしれません。でも今後、少子高齢化が進む中では、「後を託せる親族さえいない」ということにもなりかねません。「企業は人なり」だということを強く感じました。

 

その経験から、私は総合人材サービスを手掛けるインテリジェンスに入社しました。同じような悩みを持つ中小企業を支える仕事がしたい。それができる可能性が最も高いのは人材業界ではないかと。ありとあらゆる業種を対象に、「人」の領域で中小企業の課題を解決していくことで、かつての父のように地方で頑張る経営者を支えられるのではないかと考えました。このときの思いがサーキュレーション創業につながり、現在の地方創生に向けた取り組みへの原動力になっています。

 

取材・記事作成:多田 慎介

 

(注釈)

※1 サザエさんの連載がスタートしたのは、終戦の翌年の1946年。(一般財団法人長谷川町子美術館

※2 昭和22年(1947年)の男性の平均寿命は50.06歳、平成26年(2014年)は同80.50歳(厚生労働省「完全性名標」、「簡易生命表」 http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/10-2/kousei-data/PDF/22010102.pdf

 

*次回へ続く→第2回 従来型の「雇用」では、地方に人は来ない。地方創生の真の課題は、「雇用を創生する」こと

久保田雅俊

サーキュレーション代表取締役。1982年生まれ。
総合人材サービス大手を経て2014年にサーキュレーションを設立。
設立2年半で、国内最大規模となる1万人の独立専門家ネットワークを構築、経営支援実績1000件を突破。
15年、高い志を持つベンチャー起業家に贈られる「北尾賞」を受賞。