俳優として、また映画監督・アーティストとして華々しい活躍を続ける伊勢谷友介さん。

その活動領域はビジネスの場にも広がっています。「人類が地球に生き残るためにはどうするべきか?」をビジョンに掲げ、2009年に株式会社リバースプロジェクトを創業。社会課題の解決に向け、地域や企業と連携してプロダクト開発を手掛けてきました。

2020年までに1000万人の雇用制服を環境配慮型に変えていくことを目指す「全日本制服委員会」では、これまでに伊藤忠グループやヤマト運輸といった大手企業の新たな制服をプロデュース。

また、従来は色や形が不ぞろいであるために廃棄されてきた「規格外野菜」を首都圏の企業食堂に供給し、売り上げの一部を貧困家庭の子どもたちの食生活向上に取り組むフードバンクなどへ還元する活動も行っています。

こうしたさまざまな事業への共感のもと、『nomad journal』を運営するサーキュレーションでは、外部プロフェッショナルの力を結集してリバースプロジェクトのビジネスを応援する新プロジェクト「Social Nomad Project」を立ち上げました。

ソーシャルノマドプロジェクトの概要図

第一弾として、この記事では伊勢谷さんとサーキュレーション代表・久保田雅俊の対談の模様をご紹介します。

なぜ伊勢谷さんは社会課題の解決を目指すのか。「Social Nomad Project」はどのような世界を実現しようとしているのか。2人の経営者がじっくりと語り合いました。

「ピュアな動機で動く会社」があってもいいんじゃないか

久保田雅俊(以下、久保田):
伊勢谷さん、今日はよろしくお願いします。
僕たちは伊勢谷さんが掲げる「社会課題の解決」に深く共感しています。同時に、社会へ広くインパクトを与える事業を広げていく難しさも知っているつもりです。そこに専門的な知見を持ったビジネスパーソン、プロフェッショナル人材が多数関わっていくことで、新たな成果を出していければと。今日は、伊勢谷さんが現状感じている課題などもお聞きしたいと思っています。

伊勢谷友介さん(以下、伊勢谷):
ありがとうございます。よろしくお願いします。

久保田:
伊勢谷さんは2009年にリバースプロジェクトを立ち上げて、経営者としての活動を続けてきたわけですよね。なぜ会社を設立したんですか?

伊勢谷:
もともとは「映画を撮りたい」という夢があって、芸大に通いながら俳優活動をしていたんです。そんな中で力を貸してくれるプロデューサーさんとの出会いもあって、映画作りの世界にのめり込んでいきました。脚本作りにも関わるようになって。でも、2作目の映画を撮ろうとしていたときに大きな疑問を感じたんですよ。

久保田:
疑問?

伊勢谷:
脚本を書きながら人間の生き方みたいなものを考えているうちに、「俺は人間として何をやりたいんだろう?」と思うようになって。
そんなときに「エコロジカル・フットプリント」というものを知りました。人間が消費するエネルギーや水、食糧などを供給したり、人間が出す廃棄物を吸収したりするために必要な陸地と海の面積を計算した指標です。分かりやすく言うと、「今の日本人と同じ生活を地球人全員がするなら、地球が2.4個必要」という話があります。

久保田:
地球の環境や資源は、みんなが先進国として生きようと思っても足りないということですね。

伊勢谷:
そうです。今までの生き方をみんなが続けていくと、いずれは地球がダメになってしまう。地球に生きるヒトという一種族である以上、いかに地球を大切にしていくかを考えなきゃいけない。自分が生きているプリミティブな目的はこれなんじゃないかと思いました。

久保田:
とてもピュアな視点ですね。

伊勢谷:
芸大生らしいなぁ、と自分でも思います。
その視点で日本を眺めてみると、社会はお金を中心とした資本主義の力で動いている。そんな中に「ピュアな動機で動く会社」があってもいいんじゃないかと思って。水とかエネルギーとか政治とか教育とか、考えるべきことはたくさんありましたが、とりあえず芸大生ができるのはモノづくりだったので、身近な衣食住に関わるプロダクトを生み出す会社を立ち上げたんです。

スケールしなければ、働いているスタッフさえも救えない

久保田:
本来的に、社会は何のためにあるかというと「人間の生活や未来を良くするため」にあるはずですよね。社会の構成員の一つである会社も、根本的には人間の生活や未来を良くするための機能に過ぎなくて。

伊勢谷:
その通りだと思います。

久保田:
だけど1社の視点のみになると営利ばかりを追い求めてしまって、社会のことを忘れがちです。
僕自身も今、会社を経営していて、「どんな風に社会に役立つか」を考え続けなければいけないと感じています 営利だけを追いかけ始めると、何のために会社をやっているのか分からなくなるんですよね。

伊勢谷:
「俺は何のために生きているんだろう?」という疑問を会社単位で感じてしまうと。

久保田:
はい。だから、ビジネスパーソンの営利的な視点だけでなく、伊勢谷さんのようにマクロな視点から事業に取り組んでいくことは大切だと思うんです。ただ、伊勢谷さんの視点から行くと「なかなか儲からない」というのも事実で。

伊勢谷:
そうなんですよ(笑)。そもそもビジネスの「ビ」の字も知らない芸大生がやり始めたことなので、根本的にずれている部分はあると思います。
でも、例えば僕に社会を変える能力がないとしても、「社会を変えたいという意志」を持つことは僕を含めて誰にでもできるじゃないですか。そのときにどんなアクションができるか。学生の立場から見て、大人が人類の未来を本気で考えて作っているような会社は見当たらなかったんですよね。

久保田:
営利目的の会社ばかりだった?

伊勢谷:
どんなにきれいな理念を掲げていても、会社というものは結局のところ、資源的なバランスを崩すことばかりしているのだと思っていました。

久保田:
だから自分で会社を起こすしかなかったわけですね。

伊勢谷:
はい。やる気も意志もある。変えたい方向性もあるけど、どうすればいいか分からない。で、起業という方法を取ってはみたものの、なかなかスケールしないので社会にインパクトを与えられない
「地球を救う」という大志を掲げているのに、スケールしなければ働いているスタッフさえも救えないかもしれないんですよ。ここが本当に難しいところで……。

久保田:
そうやって営利に走り始め、社会のことを置き去りにしてしまっている企業もたくさんあると思いますよ。そうなるとスタッフも仕事のやりがいを感じられないですよね。

伊勢谷:
僕は会社を作って9年になりますが、同じようなキャリアの経営者でも、ちゃんと会社をスケールさせて社会にインパクトを与えている人がたくさんいます。そんな経営者、会社のことを考えると、僕もこれまでの歩みを反省すべきタイミングに来ていると思っていました。

Social Nomad Project(ソーシャルノマドプロジェクト)のキックオフインタビューにおける伊勢谷友介さん1

「軽自動車人材」と、「ゼロイチを生み出せる人」の違い

久保田:
先ほど伊勢谷さんは「ビジネスの『ビ』の字も知らない芸大生」と言っていましたが、社会を変えていく人は誰なのかと考えると、僕は案外、ビジネスを知らない人にこそ可能性があるんじゃないかと思っているんです。というのも、日本の企業は今、新規事業をなかなか生み出せないんですよ。その理由は「人材の軽自動車化」にあると考えています。

伊勢谷:
軽自動車?

久保田:
そうです。大学を出て、たくさんの人が大企業に就職しますよね。企業は迎え入れた人材を軽自動車にしようとするんです。燃費が良くて、荷物もまあまあ積めるので優秀だけど、スペックが似ていてあまり違いが際立たない。そんな、均質で便利な人材に育てようとしている。同じようなスペックを持つ人材が協力し合うほうが、かつての製造業主体のこの国では都合が良かったのだと思います。

伊勢谷:
でも現実には、製造業はどんどんシュリンクしていますね。

久保田:
そんな環境では、それこそ芸大生が考えるような「ゼロイチのビジネスの種」が必要だと思いませんか? 均質な教育しかされていない軽自動車人材には、残念ながらそれは生み出せません。そもそも、社会課題の解決をビジネスにするという発想も持てないんじゃないですか。
一方で、ゼロイチでビジネスの種を考えることができても、「ビジネスとして実行するのは苦手」という人もいます。伊勢谷さんももしかするとそうかもしれない。もし「ガンガン営業して」と言われたらどうですか?

伊勢谷:
それは結構きついですね(笑)。僕はビジネスを人との偶然の出会いからしか広げられていないので。

久保田:
社内の人材を充実させて解決するというのも、なかなか難しいですよね。伊勢谷さんのやりたいことを実現するには、従来のような「正社員を何人も雇う」というスタイルでは難しい。企業として、つぶれるわけにはいきませんから。
だからこそ、僕たちが取り組んでいる「スポットでビジネスパーソンの経験・知見をうまく活用する」という方法が効果的だと思うんです。

伊勢谷:
まさに、僕もその可能性に期待しています。

久保田:
もちろん外部から関わる人たちにも、リバースプロジェクトのビジョンや思いを共有し、共感してもらった上でスケールさせていく。普段、僕たちは独自に築いたプロフェッショナル人材のネットワークから外部の力を借りているのですが、今回はできれば公募で知見を集めたいと考えているんですよ。広く思いを発信しながら、伊勢谷さんの考えるプロダクトを広げていくためのアイデアを一緒に練っていきたいと思います。