出井氏は、2005年にソニー会長兼グループCEOを退任後、2006年にコンサルタント会社クオンタムリープ株式会社を設立。日本のベンチャー育成に尽力している。

今回は、GMネスレ等の社外取締役を歴任し、現在もレノボグループ、マネックスグループ等の社外取締役を務める出井氏に、社外取締役のあり方を語っていただきました。

海外企業と日本の起業のガバナンスの違い

Q:現在と過去を含めて、社外取締役としてさまざまな国の企業に関わっておられると思います。その中で感じられた、アジアの企業、アメリカ、ヨーロッパ、そしてもちろん日本の企業と、それぞれの国におけるコーポレート・ガバナンスの違いについて教えてください。

出井 伸之さん(以下、出井):

大きく見ると、コーポレート・ガバナンスは米国方式や欧州方式などの違いがあり、それぞれが一つの体系をなしています。

欧州方式は、細かく見ていくとドイツ式もあれば英国方式もあるのですが、例えば英国方式というのは、イギリスだけじゃなくて、香港やアイルランドも含めて世界に広がっていて、「コモンウェルス・コーポレート・ガバナンス」といわれています。

米国方式のコーポレート・ガバナンスよりも欧州方式の方が長い歴史をもつのですが、この2つでは会計にしても契約にしても、概念からそもそも違うし、『売上と利益の区別がつかない時代だからこそ、企業統治が必須 ソニー元代表・出井伸之氏【前編】』で話したような、何が売上で何がコストかという考え方も異なっている。日本は主に米国方式を取り入れていることが多いんです。

国で分けるとすると、僕が経営に関与している中国の会社は、日本の企業よりよっぽどグローバル。例えば百度公司の場合、登記上の本社はケイマン諸島で、上場がニューヨークのナスダック。オペレーションのメインは北京にあります。

レノボグループは香港に上場をしていて、英国方式のコーポレート・ガバナンスで経営していますが、登記上本社はノースカロライナです。こんな企業は日本にはほとんどないでしょう。そう考えると、コーポレート・ガバナンスを国でわけること自体、グローバリゼーションの中であまり意味をもたなくなっているんですね。

会社の主な戦いの場がどこかということを大事にするほうが良い。

会社の成長ステージによって社外取締役の役割は異なる

Q:これからの日本企業の社外取締役には、どのようなキャリア、人物、スタンスの方を選べばいいのでしょうか?

出井:

社外取締役については、独立性が重要です。

社外であることを強調するのが日本ですが、中国や他の国の場合は、「独立取締役」として独立性を重視しています。取締役になったら、社長の友だちとしてというよりは、その会社のことに関して長期的な外部から見たアドバイスをしてくれることが重要。だけど、日本ではみんな社長の知り合いを入れてしまう。カリスマ的な経営者がいると、社外役員は言いたいことも言わず「仰せの通りです」となってしまいます。

会社の成長ステージによっても、成長期の社外取締役の役割と、不況期、特に変革期の社外取締役の役割ではぜんぜん違う。成長期でも、例えば次の社長は誰にするかという議題になると、その議論をリードする人の立場が非常に大事になってきます。

日本でいえば、社外取締役自身も会社の中での本当の自分の役割がわかっていないことが多いです。重要な戦略会議においても、社内の決裁要員みたいなものになっていて、本当の社外役員としての価値の出し方を間違っている。それもあって、日本では社外取締役に対する報酬もグローバル企業に比べて安いのでしょう。初めからその社外役員の持っているノウハウや能力を使う気が無いから、形式的に頭数がそろえればいいと思っている会社が非常に多いです。

だから、社外取締役にはきちんと期待をして、報酬もきちんと準備して、しっかりと使いこなすべきだと思います。そうでないと社外役員もやる気もおこらない。

Q:社外役員のマーケットでもう一つ問題があるのが、社外役員側の意識です。縁故で誘われたから就任するといったケースが往々にしてある。社外取締役になる側はどういった意識をもてばいいですか。

出井:

経営のオペレーションに入っていくほど時間を使ってないわけですから、会社の経営が変に踏み外さないようにきちんとオーバーサイト(監視、監督)しているのが社外取締役の立場。

社外役員として、自分の担当する範囲がどこにあるかについてしっかりと立場を明確にすべきです。

僕の場合は戦略以外で口を出さないようにしています。例えば財務についてはその専門家、法律のことは法律の専門家に任せる。監査役の人に営業売上のことを色々指摘されても、それは別の話でしょうとなる。

社外役員は、戦略的なこと、法務関係、会計関係、主にこの3分野に分かれて役割を決めて見ていくべきです。

取締役会は、社内会議の延長ではない

Q:2014年6月の会社法改正では、社外取締役の設置が実質的に義務化されたといわれています。このようなコーポレート・ガバナンス強化の取組についてどのようにお考えですか?

出井:

その話については、「取締役会とは何ですか」ということから入る必要があります。

取締役は株主に一番近い立場でもって会社の経営を見る人たちです。

ですから、社内会議の延長ではないことを心に留めておくべき。言うなれば社外会議、つまり社外の目でもって会社を見ることです。

一般に日本の会社は社内会議の延長線上に社外取締役を入れがち。取締役会では社内の会議を社外の人に分かるようにちゃんと説明することが求められます。社内の人達が社長にプレゼンテーションするように説明したところで、結局は株主総会の時には社長が話さないといけない。その時に社外の人が分からない言葉で説明をされても、全然分からないですよね。だから社外取締役が「それじゃ全然理解できないよ」と言ってあげる。これも社外取締役の役目の一つだと思います。

つまり、社外の目で見るっていうところが大事。今は一歩一歩近づいていっているとは思うけれど、やはり本質的に社内の会議と社外の会議っていうのを分けないといけません。

日本人はシステムが好きだから、「社外取締役に2名以上置く」というようなことは決めますよね。だけれども、その2名以上がその社内会議なのか、社外に出すための戦略会議なのか、そこはもうどうでもいいように扱われています。

何を取締役会議の議論や決裁事項に入れて、何を入れないのか。そこの訓練から始めないといけません。

後編に続きます)

取材・インタビュア/株式会社サーキュレーション 代表取締役 久保田 雅俊

出井 伸之(いでいのぶゆき)
クオンタムリープ株式会社 代表取締役 ファウンダー&CEO

1937年東京都生まれ。1960年早稲田大学卒業後、ソニー入社。主に欧州での海外事業に従事。オーディオ事業部長、コンピュータ事業部長、ホームビデオ事業部長など歴任した後、1995年社長就任。以後、10年に渡りソニー経営のトップとして、ソニー変革を主導。退任後、クオンタムリープ設立。NPO法人アジア・イノベーターズ・イニシアティブ理事長。『変わり続ける ―人生のリポジショニング戦略』(ダイヤモンド社)を2015年12月に発刊したばかり。『日本大転換』(幻冬舎新書)『日本進化論』(幻冬舎新書) 他、多数出版。
ノマドジャーナル編集部
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