オープンイノベーションの取組が活発化しています。今回は、ソニー会長兼グループCEOを退任後、次世代の産業創出を目指しクオンタムリープ株式会社を設立した出井氏に、外部人材の活用と、そこから生まれるオープンイノベーションについて伺いました。

今一番変化しないといけないのは人事部

Q:弊社は人によるオープンイノベーション、要するに社外の人材、フリーランス、インディペンデント・コントラクター、といった方々を活用するビジネスを推進しています。外部人材の活用から生まれるオープンイノベーションについて、今後どのようになっていくとお考えですか?

出井 伸之さん(以下、出井):

外部人材の活用を考えるにあたって、社内人材の働き方について整理していきましょう。

例えばソニーの場合、働き方が2種類あります。一つは一般の日本企業と同じように定年まで働いて、退職時に退職金をもらうような働き方。もう一つは、退職金の出ない年俸契約制社員です。年棒契約制は3年や5年の契約が多いのですが、あたかも普通の社員として働いているから周りからはわからない、そのように様々な働き方、雇用のされ方を混ぜていくのがいいのではないかと思います。

例えば、「5年間」と決めて働いて、そのあとは全く別の会社に行く。そうすれば移る先の会社に、とっても魅力的な人がやってくるようになります。日本では最近まで、そういう働き方の多様性はほとんどありませんでした。

僕の考えでは会社が新入社員を採り、会社の枠にはめて教育して、中堅になるまでは安い給料で使うという今のやり方は早くやめたほうがいいと思っています。人材はもっと流動性を上げていくべきでしょう。

Q:そのような人材の流動性を上げていくには、例えば企業側にどのような変化が必要でしょうか?

出井:

今、一番変化しないといけないのは人事部だと思います。

「この会社は近く、IT分野に進みそうだ」となると、その事業分野に関心のある人が寄ってくる。そのようなときに人事がどうフレキシブルに対応するかが大切なのです。

グリーの田中さんも、C-Channelの森川さん (元LINE) も、DeNAの南場さんも、全員別の形でソニーに関わりのある人たちです。例えば森川さんの場合、テレビ局勤務を経験して、ソニーに移って、その後ハンゲーム (LINEの前身) に転じたように、自分のキャリアを異なる業界の会社を渡り歩くことによって作っている。そういう人は普通の企業1社だけの中で育つわけがなくて、人事が柔軟にこうした人材をとっていかないといけないと思います。

複数社で働くというのは、どこか1つ成功してから

Q:30〜40代でも外に出て、同時に3社、4社で働く、そういった働き方を実際にやっている方々がいます。そういう方は自分の専門性を活かす場を求めている。こうした働き方を選択する人も今後増えてくると考えています。

出井:

ここで1ついいたいのは、同時に複数社で働きたいというのは、それはどこか1つ成功してから言ってほしいということ。

1社だけで働いて成功できない人が複数の会社に手を広げて成功するなんて事例は見たことがありません。1社で成功せずに、複数社で働いているようなことは、ただの自分勝手といえます。結局どれも本気になってないような人が、調子良く3つくらいプロジェクトやっていて、それで成果出せるほど世界は甘くない。

Q:そうですね。どこかで成功体験を持っているというか、基本的にはベースとなるスキル・専門性を獲得した方が複数社で働いている場合が多いです。こうしたスキルがある人材はアメリカなどでは外部人材のマーケットにたくさんいて、1人のプロが何社も同時に入っている。こうした流れから、「法人や会社から個の時代へ」といわれますが、この点についてどうお考えですか。

出井:

プロジェクトマネジメントをきちんとやるのはいいですね。しっかりやるっていう人が、プロジェクトをいくつか引き受けるのはありうると思う。例えば、いくつかの映画を並行して撮影しているような俳優さんの場合もそうです。

でも俳優さんの場合でも、例えばNHKの毎朝の連ドラにでているときに、他の連続ドラマの出演が継続的にできるでしょうか?恐らく、そのドラマだけで手いっぱいになると思います。それを同時に3つも4つも並行して引き受けたら、どれも中途半端になって、とても役者失格なことしかできないでしょう。だから若い人には、1つの仕事を甘く見てかからないで欲しいのです。

プロジェクトの期間についても、短期間では仕事なんてできません。やっぱり準備があって、チームを作って、チームからもリスペクトされて、実行して、そうして1年や2年で形にしていくのは相当の思いがないとできない。

Q:日本の人のオープンイノベーションが遅れている理由として、一種のビジネス・ディベロッパーと、プロマネが足りていないと思います。そういう方々を社内で育てるのが難しいと言われています。

出井:

それについては、プロデューサー的な仕事をする人をもっと意識して育てるべきです。プロデューサーというのは、とても難しくて、企画の立案から、チームでの実行まで全ての流れを描かなくてはいけません。映画の世界などがいい例でしょう。

オープンイノベーションが遅れているのも、そもそも日本の経営者の望みが小さすぎると感じています。少し事業が成功して上場して、2~30億円程度の資産ができて、その次のセカンドアクトがなくて、その後はひっそりと過ごすような、そういう人をよく見てきました。志の小ささが感じられて、そういう経営者を見ると残念だなと思いますね。

人生というのは自分という会社をどうナビゲートしていくか

Q:人材育成についてはいかがお考えでしょうか?新卒はどこかで鍛えられなければならない。でも入った会社では育成できないとなった瞬間に、複数の会社で研修を受けてやってくという教育システムができていく可能性もあると思っています。

出井:

普通の能力で、普通の大学を出て、自分の大学を出た時のレベルが世界的に通用するかどうか考えもしない人が、会社にぽっと入って、歯車として働いて。そのまま次の会社にいったとしても、やはりなかなか使える人材にはならないと思います。

そういった意味では、大学の制度そのものに欠陥があるのかもしれませんね。要するに記憶をベースとして、サーチするのが速い、論文を書くのが速い、そういう人ばかりが出てきても、今の社会にはうまく噛み合っていかない。寧ろそういう人にはちょっと外国に出て、色々なことを感じさせる機会を作ってあげた方がいいと思います。

東京大学のトップの人でも、例えばケース教材の多読が求められるアメリカのMBAに行ったら読むのが遅くて苦労しているそうです。疲れ切って打ちひしがれて帰ってくる人が多いと聞いています。みんな「辛かった」とは言わないけど、「本当にMBAが楽しかった」という人をあまり聞いたことがありません。

Q:今の若者たち・これから働く人たちにとって、働く前にどういう意識を持ってキャリアを考えるべきですか?

出井:

結局人生というのは自分という会社をどうナビゲートしていくかということでしょう。

大げさに言えば何でもいいと思います。人生を航海に例えると、生きるということは船と同じようなもので嵐に巻き込まれることもあるし、何が起こるかわからない。その都度どうしていくかを考えるべきです。

例えば、コンピュータの黎明期では、それを使用するためにはプログラミング言語を覚えることを必要としてきましたが、今ではもはやPCは誰でも使えるインターフェースになっている。結局何をするべきか時代によって違うし、何をするにしても自分で決めなければなりません。

「自分が何をしたいのか」これをベースに考えるべきでしょう。日本の教育は会社に入ることを前提に教えていますが、学校と会社では相当の差があります。

人の寿命を1サイクル25年で考えると、50歳からが第3楽章

Q:現在の30代〜40代は、今いる企業で部長などの役職に就くよりも、自分の職能を磨いていきたいという考えの方が多いと思います。

出井:

新しい企業と古い企業では考え方に相当のズレがあります。

昔の働き方ではいい学校を出て、いい会社に入って定年まで迎えるのが普通でしたが、現在の人は働き方が違ってきています。

僕は基本的に人の寿命を25年で1サイクルとして考えています。0~25歳が第一楽章、25~50歳までが第二楽章、50歳からが第三楽章。

交響曲において第一楽章では主題が多数あることが多いです。そして第二楽章ではそれが徐々にセレクトされていき、第三楽章ではさらに発展していく。第二、第三が重要。人生でも同じく、中でも特に40代あたりが重要だと思います。だから、そのあたりで軽い気持ちの転職などをしてしまうと、自分が何をしていいのかわからなくなる。20代などではどの企業に入っても何とかなるが40代ほどにもなると、そうはいかないでしょう。

専門にもよりますが、基礎を固めていくことが大事です。

例えば、数学者だったらアルゴリズム、芸術家ならセンス。高校生などと話をすると、思いもよらない考えが集まるこ
とがあります。何か一つに定まった方法で決めてしまうと面白くない。色々な試行錯誤を重ねていくうちに新しい発見があります。それがクリエイティブということ。そのために第一楽章で訓練しないと輝けないのです。

何年かに一回は環境を変えるべき

Q:最近の傾向としては、30代ぐらいで人事なら人事と決めてひたすらそれを極めていく、そうして専門性を確立して独立する人が増えていくなど、徐々に働き方も多様化していっています。一方で、大企業出身者は社外に出ることなくまだまだ保守的な方が多い印象です。

出井:

大企業はなるべく変化を起こさず、とにかくディフェンシブな考えが定着しています。

そこにいる人間も、なるべく失敗しないように、リスクをとらないようにしてしまう。一番顕著なのが人事部門。会社外の人々と交わることなく、業務が完結してしまいます。

何年かに一回は環境を変えることもいいでしょう。まずは会社ではなく、部署・部門を変える。時代の変化に自分を変化させて対応していくのが大事なのではないでしょうか

取材・インタビュア/株式会社サーキュレーション 代表取締役 久保田 雅俊

出井 伸之(いでいのぶゆき)
クオンタムリープ株式会社 代表取締役 ファウンダー&CEO

1937年東京都生まれ。1960年早稲田大学卒業後、ソニー入社。主に欧州での海外事業に従事。オーディオ事業部長、コンピュータ事業部長、ホームビデオ事業部長など歴任した後、1995年社長就任。以後、10年に渡りソニー経営のトップとして、ソニー変革を主導。退任後、クオンタムリープ設立。NPO法人アジア・イノベーターズ・イニシアティブ理事長。『変わり続ける ―人生のリポジショニング戦略』(ダイヤモンド社)を2015年12月に発刊したばかり。『日本大転換』(幻冬舎新書)『日本進化論』(幻冬舎新書) 他、多数出版。
ノマドジャーナル編集部
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