人手不足などを背景に、物流コストの上昇は社会的にも大きな課題となっています。物流コストを削減したいと考えている経営者の方も多いのではないでしょうか。また、EC事業の拡大やオムニチャネル化に伴って物流が年々複雑化している企業も多く、物流改革は多くの企業にとって喫緊の課題と言えるでしょう。

しかし、物流は専門的な知識が必要だからと担当者任せにしてしまっている経営者の方が多いのも現状です。本来、物流改革とは経営者の方が率先して取り組むべきテーマです。SCMやフルフィルメントなどの言葉に惑わされずに、経営者が行うべき物流改革とは何かという本質を理解することが重要です。

本記事ではサーキュレーションで行われた、物流のプロによるセミナーの内容をもとに、物流改革の課題や進め方のポイントを解説します。今すぐ取り組んで、物流改革を成功させましょう。

セミナー登壇者様:川鰭 泰洋(カワバタ ヤスヒロ)氏

アクセンチュア→事業会社1社ターンアラウンド→独立→事業会社2社ターンアラウンド→独立。アクセンチュアではSCMコンサルタントとして大手企業のSCM改革プロジェクトに従事。その後赤字体質の事業会社3社にて、SCMや現場生産性、製品価格など幅広い切り口からメスを入れ、利益率アップのターンアラウンドを成功させる。理論だけでなく現場目線での改革ができ、改革に伴う人事制度、評価制度変更などにも対応可能。BtoB、BtoC向け商材、小売り、ECなど幅広く経験し、コンサル側と事業会社側の両面での知見を保有している。

物流改革とはロジカルに物流にメスを入れること

まず初めに経営者の方にお伝えしておきたいのは、物流改革とは極めてロジカルな世界であるということです。したがって、今からお伝えするポイントを理解して物流にメスを入れ、ひとつずつプロセスを実行していくことで実現できるのです。まずは物流改革とは何か、そのプロセスについて基本的な考え方を押さえておきましょう。

物流機能の前後に注目する

物流コストを削減するには、いかに無駄を省くかということに尽きます。もちろん簡単ではありませんが、無駄を省くことは、キャッシュフロー改善効果が約束されている取り組みと言えます。無駄なものを作らない、運ばない、ためないということを常に意識しておきましょう。それでは、実際にどの部分で無駄を省けばいいのでしょうか。まずは下記を見てください。

物流改革の基本的な考え方〜物流機能の前後に注目する〜

上記は小売業とネット通販の一般的なバリューチェーンを表しています。これを見ると、商品企画やプロモーション、アフターサービスなど、物流機能の前後の機能が大きく物流に影響を与えることがわかります。つまり、物流改革を成功させるためには、物流そのものだけではなくその前後機能まで含めてメスを入れる必要があるのです。範囲が広がる分ハードルはありますが、その分効果も大きくなります。

コストコントロール部門を意識する

同じように、コストコントロール部門はどこかという発想を持つことも重要です。下記のように、要素を分解することでどこがコストコントロール部門になっているかを明確にすることができます。物流改革を的外れなものにしないためにも、コストコントロール部門を常に意識することは重要です。

物流改革の基本的な考え方〜コストコントロール部門を意識する〜

物流改革は自社の経年変化や売り上げに着目

次に、自社の現状把握が必要になります。具体的に何に着目すればいいのでしょうか。他社との比較もいいですが、環境などが大きく異なる他社との比較を行っても、自社にとって効果的な発見につながらない場合も多いでしょう。それよりも「自社での経年変化や売り上げとの比較」をすることをお薦めします。代表的な指標をご紹介します。

BS・PL

BSやPLは経営者だけではなく、従業員にとってもわかりやすい指標です。したがって、具体的な行動に移しやすいというメリットがあります。まずは、自社のBS、PLの各項目での経年変化や売り上げとの相対比較を行ってみましょう。例えば、下にあるようなグラフになれば、変動費化が難しい人件費が売り上げにシンクロしているのに対して、販売物流費が下げ止まりしていることがわかります。

自社の経年変化や売り上げに着目する手法〜BS・PLに注目〜

在庫回転率

物流改革の課題は何と言っても在庫です。下記のように、品目・月単位で売り上げと個数を把握し、在庫回転率を押さえることが重要です。

自社の経年変化や売り上げに着目する手法〜在庫回転率に注目〜

どの商品も季節変動による一定の変化はありますが、商品によって在庫月数水準に大きな差があります。まずは在庫月数の目標設定をしましょう。そのうえで、ロットやリードタイムを考慮した調達方法の検討を行うのがよいでしょう。

ロス率

毎月棚卸しをすれば、製品在庫個数-棚卸し個数=ロス個数となります。下記のように品目単位の出納帳を作成し、ロス率を明確にしましょう。

自社の経年変化や売り上げに着目する手法〜ロス率に注目〜

ちなみに、在庫管理がよくできている企業のロス率は、0.01%程度です。モニタリングするだけでも、牽制機能が働き、ロス率は改善されていきます。

物流改革のプロセスは自社の状況に応じて実施

ここまで準備ができたら、実際の物流改革のプロセスに入ります。とはいえ、物流改革とは「売り上げ」と「利益」の一挙両得をすぐに実現するものではありません。経営者として、先を見据えバランス感覚を持って判断することが重要です。物流コストの削減と言えば、まずパートやアルバイトなどの人件費を削減しようとする経営者の方も多いのですが、人を減らすことで逆に生産性が悪化する場合もあるので気を付けましょう。

下記は、改革プロセスの一例です。重要なのは他社と比較することではなく、自社の課題や経年変化を見据えたうえで、一つ一つのプロセスを着実に実行することです。

物流改革のプロセス

まとめ〜物流改革とは経営者の役割が大きい取り組み〜

ここまで読んで、早速物流改革に取り組もうと考えている経営者の方は多いのではないでしょうか。最後に、物流改革を成功させるために経営者の方に注意していただきたいことを4点お伝えします。

1.現状を把握しても、物流担当者を責めない!

物流担当者は、問題なく処理して当然と思われがちなポジションです。物流担当者のモチベーションを向上させることを意識しておきましょう。

2.物流現場は労働集約型の極致だからこそ、技術革新の恩恵を取り入れる!

配送の無人化やドローンの活用などの検証も進んでいます。AIなど最新技術は積極的に取り入れるといいでしょう。

3.ITリテラシーの高い人材に参加してもらおう!

AI化も進み、物流改革にITリテラシーは不可欠です。専門知識を持つ外部の人材に参画してもらうのもひとつの方法です。

4.品目マスタ単位で把握をしよう!

どのような方法であれ、物流改革を進めるのに必ず必要になるのが品目マスタです。できるだけ小さな単位で把握できるようにしておきましょう。

これまで見てきたことからわかるように、物流改革とは経営者の方の役割が非常に大きい取り組みです。ここで挙げたポイントを押さえて、経営者の方は今こそ物流改革の一歩を踏み出しましょう。

なお、本記事はセミナーでお話しいただいた内容から一部を抜粋したものです。セミナーでは、ほかにも在庫適正化の考え方や品目単位での営業利益率の算出方法などたくさんのトピックスについてお話しいただきました。もっと詳しく聞きたい方は、次回の開催をご期待ください。