株式会社野村総合研究所(NRI)の未来創発センター2030年研究室室長として、イノベーターの支援をおこなう齊藤氏。

従来のシンクタンクとは異なるアプローチで、近未来型のビジネスモデルを考察する「革新者プロジェクト」の概要から、始動の経緯、新規事業のリーダーシップ、プロジェクトのこれまでの成果などを伺いました。

従来のシンクタンクの限界に挑む「革新者プロジェクト」

Q:まずは、「革新者プロジェクト」の内容と社会に対する意義・ミッションについてお聞かせください。

齊藤 義明さん(以下、齊藤):

2012年の9月に、弊社の「未来創発センター」という組織の中に「2030年研究室」という少し変わった名前のチームを立ち上げました。日本が将来より活力ある国になっていくために、新しい価値創造パターンを模索していくことがミッションです。

その発足と同時にスタートさせたのが、「革新者プロジェクト」です。

このプロジェクトでは、まず、社会の様々な領域で従来とはかなり異なるタイプのビジネスモデルや価値創造を実践している経営者の方々を探し出します。そして、その方々に直接お会いし、対話をします。そこで得た新しい価値の生み出し方に関するインサイトを様々な形で社会に発信していくことが狙いでした。これをまず100人になるまでやろうというプロジェクトです。

100人のユニークなビジネスモデルを横断的に見るなかで、日本の新しい未来における価値創造の切り口が見いだせるのでは、と取り組んできました。

予測するだけに留まらない。従来のシンクタンクとは異なるアプローチ

Q:「革新者プロジェクト」の発足の背景についてお聞かせください。従来のシンクタンクとは異なるアプローチで進められていると伺っています。

齊藤:

従来のシンクタンクは「予測をして終わり」になっているのではないかとの問題意識を持っていました。

シンクタンクでは通常、人口、財政、福祉、あるいは各産業のマーケットを、数値で定量的に予測する手法をとります。これは趨勢的未来の客観的な認識として重要ではあります。しかし、2030年を展望すると、技術的な変化は断続的に起きるだろうと思われること、また、日本の人口構造の変化から考えて、いくら精緻にシミュレーションをしてみても、暗い未来像がより明確に見えてくるだけではないかと感じていました。

単なる予測ではなく、暗い未来を変えていく社会変革のトリガーはどこにあるのか。それを見出すアプローチをしたほうが面白そうだなということで始まったのが、「革新者プロジェクト」です。

また日本の社会課題を解決するにあたり、できれば財政に依存した政策手法ではなく、ビジネスを通じたソリューションを見つけたかった。新しい社会課題解決のアプローチになるビジネスモデルを、農業、福祉介護など様々な領域から探し出していきたいと思っていました。

こうした背景で「革新者プロジェクト」はスタートしました。そして、プロジェクトの開始から3年かけて独自に選定した100人の革新者とのインタビュー・ディスカッションを達成しました。独自の切り口から社会課題に挑戦する100のモデル、パターンが集まりました。

「自分の経験軸を超えたところで貢献してくれ」新たな挑戦を求められて出した、答え

Q:そもそも、NRIの中で、齊藤さんがこのプロジェクトに取り組むことになった経緯を教えていただけますか?

齊藤:

私はシンクタンクやコンサルティングという領域で、25年間、多種多様なプロジェクトに従事してきました。その経験や手法も活かしながら、しかし今までとは違ったやり方、その先の新しいイニシアチブを仕掛けたい、それは何だろうかとずっと考えていました。できればNRIらしく新しいこと、日本の中長期、近未来に貢献できる何かを、と考えていました。

でも、それって簡単に答えが出るものではありませんよね。だから当初は、もともと現場で培ってきた自分の専門領域である事業開発、組織開発、人材開発などのテーマの延長上で、新しく取り組むべきテーマを探していました。しかし、そうした守りの気持ちを見透かしたかのように、上司から「君の領域はともかくとして、NRI未来創発センターとして新しいブレークスルーがしたい。自分の経験軸を超えたところで事業を構想し、貢献してくれ」
というような主旨のことを言われ、ハッとしました。そこから、悩んだり、もがいたりしながら、試行錯誤の末に現在のプロジェクトに辿りつきました。

Q:これまで培ってきた経験軸ではないところでの貢献ということだったのですね。プロジェクトをかなり能動的に進められている印象がありますが、もがき苦しみは大きかったですか?

齊藤:

あまり辛い、苦しいと思ったことはありません。新しいことを始めるには、道に迷い、あちこちに頭を打ち付けながら進むのはつきものですし、そうした試行錯誤は嫌いではありません。ただ、具体的な方法についてはいろいろ迷いました。

たとえば、革新者と対話するに場合、あえてインタビューの項目や方式をきっちり決めるということはせず、その場の化学反応を引き出すような対話のあり方を志向しました。

こうしたやり方は、通常のリサーチではタブーかと思います。あらかじめ決めた項目にしたがって回答を得ないと、個別のインタビューごとにばらつきが生じ、後でまとめたり分析したりする時に困るためです。チームメンバーからも、インタビューの項目や進め方を共通に決めて欲しいという要望が上がったこともありました。しかしインタビューを定型にしてしまうと、聞く側も受動的になってしまいます。それだともはや「作業」になってしまい、生きた対話ではなくなってしまう。予想外の発見を引き出せる可能性が減ってしまいます。革新者の話に傾聴しながら、こちらが面白いと感じた部分にのめり込むように食いついていくやり方にこだわりました。

ただしこのようなやり方でインタビューをプロジェクトメンバーで分担すると、対話者の個性が強く出ますので、100人の革新者全体を俯瞰したときの共通特性は何かといった分析が難しくなることが予想されました。したがって本プロジェクトでは、全てのインタビューに私が同行することにし、少なくとも私は革新者全員を俯瞰できるポジションを維持することにしました。

それから、革新者の100人を選ぶ基準についても良く質問を受けますが、実は、最初から明快な評価基準や定義があって進めてきたわけではありません。

基本的にはチームメンバーで、「面白くて、未来の可能性がありそう」だと感じる革新者候補をそれぞれが探し出してきた上で、ディスカッションしながら絞っていきます。さらに、インタビューした革新者からも「もっと面白い革新者がいる」と紹介が紹介を呼んでくるようになりました。

特定の仮説がありそれを検証する調査の場合は、あらかじめサンプリングするのが有効だと思います。しかし今回の革新者プロジェクトは、「革新者とは誰か」すらわかりません。独自の切り口から未来のパターンを創り出す革新者たちは、一定の経営指標分析などから自動的に抽出できるものではないので、チームメンバーの情報網と眼を通じて試行錯誤で発見するしかないと思いました。この革新者発掘についても、基準がはっきりしないものですから、チームの中ではいつも喧々諤々の議論になりました。論理的じゃないからコンサルタントはきっとイライラしてくるんですね、(笑)。しかし思い返せば、何を面白いと感じて選んだのか、その評価軸をぶつけ合う議論のほうが、知的刺激にあふれた良いチームといえるんじゃなかと思っています。

中編に続きます)

・【オープン・イノベーション】「革新者プロジェクト」に見る、イノベーターの可能性(中編)

・【オープン・イノベーション】「革新者プロジェクト」に見る、イノベーターの可能性(後編)

取材・インタビュア/株式会社サーキュレーション 代表取締役 久保田 雅俊

齊藤 義明
未来創発センター2030年研究室 室長
1988年野村総合研究所入社。NRIアメリカ ワシントン支店長、コンサルティング事業本部戦略企画部長などを経て、現在、未来創発センター2030年研究室室長。専門領域は、ビジョン、イノベーション、モチベーションなど。
著書に、『次世代経営者育成法』(日本経済新聞出版社)、『モチベーション 企業の研究』(東洋経済新報社)、『コーポレート・アントレプレナーシップ』(NRIアメリカ)などがある。
ノマドジャーナル編集部
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