株式会社野村総合研究所(NRI)の未来創発センター2030年研究室室長として、イノベーターの支援をおこなう齊藤氏。従来のシンクタンクとは異なるアプローチで、近未来型のビジネスモデルを考察する「革新者プロジェクト」の概要から、始動の経緯、新規事業のリーダーシップ、プロジェクトのこれまでの成果などを伺いました。

中編では、革新者プロジェクトを進めてきた中で、齊藤氏のこれまでコンサルタント組織のマネジメントと新規事業のリーダーシップの違いや、革新者プロジェクトのこれまでの成果について伺いました。

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地位や権限に頼らないリーダーシップとは

Q:これまで齊藤さんは、アメリカでのワシントン支店長やコンサルティング事業本部戦略企画部長などを歴任され、本流の事業のほうでもマネジメント経験が豊富でいらっしゃいます。一方で、今回は小さいチームから徐々に取り組みを大きくしていく役割でした。過去の大きな組織のマネジメントと、今回の新規プロジェクトのマネジメントでは何が一番違いましたか?

齊藤 義明さん(以下、齊藤):

僕はマネジメント経験が豊富というより、失敗して反省した回数が多いだけです(笑)。

これまで、一番大きいときは600人ほどのコンサルタントが所属する本部の戦略企画部長として全体を見る仕事をさせていただいたことがありました。コンサルティングの組織というのは、一般的な企業組織とはちょっと違った特性を持っています。各コンサルタントの所属部署はありますが、プロジェクトは部署を超えて組成されることがしばしばあります。よくも悪くも、人単位で動く組織であり、個々人のモチベーションや成長が非常に重要になります。

コンサルタントは基本的に有能で、自己成長能力(セルフ・モチベート能力)も高いため、細かな指示など要らない自律した集団だと言えますが、他方で、組織として定めた方向に一丸になって向かうほど従順な人材でもありません。ある意味みんな一匹狼みたいなところがありますから、マネージャーは苦労します(笑)。こうした個人ベースの複雑な組織を動かすには、目標設定、成果管理、インセンティブ設計などの明示的なルールやしくみによってPDCAを回していくのが一番わかりやすいのですが、逆に数字が重視され過ぎると、短期成果志向、個人主義に傾きがちで、長期的なミッションや、チームとしての独自の文化、プロジェクトに対する思い入れなどが薄れていくことが気がかりでした。そんなことであれこれ悩みながら、僕はあまり上手に大組織をマネジメントできたとは言えなかったと思います。

一方、今回の革新者プロジェクトでは、専任は私ひとりで始めました。兼務で現場のコンサルタントの仲間が6名ほど加わり一緒に進めてくれました。ただしチームといえども、彼らの評価権限は僕にはありません。つまりは肩書きや権限によって、このプロジェクトに対するメンバーのやる気をドライブすることはできない立場にありました。

そうなると結局、自分の仕事で見せていくしかありません。今回のプロジェクトで強く感じたことですが、自分が面白い仕事をすれば、人事権や評価権がなくても人は集まってくれるということです。お金が充分にもらえなくても、このプロジェクトに関わりたいと言ってくれる人がいる。そういう原理でチームが動くときは本当に嬉しいし、楽しいです。

Q:革新者にお会いする中で刺激を受けたり、影響を感じたりというのはあったでしょうか?

齊藤:

革新者との対話からは毎回本当に刺激を受けました。革新者は、事業の展開も、何か決めるスピードも、あるいは「新しく何かをやってみようか」と動き出すのも、すべてのスピードが非常に速い。企業のステージからいっても、もはや組織人としての振る舞いではないように感じました。とにかく、やりたい、つくりたいという思いが強く、個性が強く出ている。

私がこれまでNRIのコンサルタントとしてクライアントに関わっていたときは、仕事の相手は経営者や役員、経営企画担当の方々が中心で、対する我々はコンサルタント全員のチームワークがあってビジネスが成り立っていました。そこでは組織力学への配慮や調整能力が非常に重要になります。コンサルティング・ビジネスはそうして、数千とか万単位の組織に切り込んでいくのですが、それとは全く異なり、むしろ既存の常識の破壊的創造を通じて新しいものを切り開く世界が、革新者たちとの対話の中心にあり、非常に刺激を受けました。

Q:3年間での具体的な成果は何ですか?

齊藤:

ひとつは、革新者との出会いから発見した新しい価値創造の方法に関する情報発信です。「コンセプトブック」という小冊子を毎回3000部ほど刷り、クライアント企業の経営層を中心にお配りしました。社会のエッジで起こっている事を大企業の経営者により知っていただき、大企業と革新者とのコラボレーションを促すツールとして活用していただこうという狙いです。

また、幸いにもダイヤモンド・オンラインから連載寄稿のご依頼もいただき、「2030年のビジネスモデル」というテーマで、19本の革新者たちのストーリーを社会に発信することができました。

また現在は、100名の革新者とともに地方創生に挑戦する動きにも着手しています。全国レベルのイノベーターである革新者と、地域で新しい事業創造に挑戦しようとする人材を化学反応させ、地域からイノベーションを生み出す試みです。全国各地域に革新者を増殖させる構想といっても良いかもしれません。このための若い人材が中心となった挑戦のための場づくりを、実践的な産学官金連携によって各地で進めており、既に北海道十勝を始め、全国3地域で革新者を刺激源としたイノベーション・プログラムが動き始めました。

革新者の「実現力」は経験に裏打ちされている

Q:革新者の考え方のパターンや志向性について。それから働き方や仕事に対する取り組み方など、何か感じ取られているところがあればお伺いしたいと思います。

齊藤:

革新者の方々は、順風満帆にこれまでの人生を歩んできたわけでなく、自分の弱点や苦境や挫折などを逆に利用して立ち上がっている人が多いなと感じています。人生のマイナスも含めた経験が土台になって、「これをやる」と決意している。実体験が伴っているので、洞察が深くなっている。

たとえば、シェアハウスを専門に扱う不動産サイト「ひつじ不動産」を運営する北川大祐さんは、ご自身でもシェアハウス生活の経験があって、そこで体験したマイナスも含めてきちんとノウハウを積み上げ、業界をリードしています。安易にやってもシェアハウス事業はできてしまいますが、必ず人間関係上の問題が起こる。北川さんはそうした人間くさい課題と山ほど向き合いながら、それをクリアするノウハウをどんどん積み上げています。負の経験が、差別化の武器になっているんです。

後編に続きます)

・【オープン・イノベーション】「革新者プロジェクト」に見る、イノベーターの可能性(前編)

・【オープン・イノベーション】「革新者プロジェクト」に見る、イノベーターの可能性(後編)

取材・インタビュア/株式会社サーキュレーション 代表取締役 久保田 雅俊

齊藤 義明
未来創発センター2030年研究室 室長
1988年野村総合研究所入社。NRIアメリカ ワシントン支店長、コンサルティング事業本部戦略企画部長などを経て、現在、未来創発センター2030年研究室室長。専門領域は、ビジョン、イノベーション、モチベーションなど。
著書に、『次世代経営者育成法』(日本経済新聞出版社)、『モチベーション 企業の研究』(東洋経済新報社)、『コーポレート・アントレプレナーシップ』(NRIアメリカ)などがある。
ノマドジャーナル編集部
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