株式会社野村総合研究所(NRI)の未来創発センター2030年研究室室長として、イノベーターの支援をおこなう齊藤氏。
従来のシンクタンクとは異なるアプローチで、近未来型のビジネスモデルを考察する「革新者プロジェクト」の概要から、始動の経緯、新規事業のリーダーシップ、プロジェクトのこれまでの成果などを伺いました。
後編は、革新者がなぜ新しいことをやり遂げられるのか、大企業との違い。そして外部人材活用で生み出すイノベーションについてお考えを伺いました。

前編中編はこちら)

目次

革新者はなぜ、やり遂げられるのか?

Q:多くの革新者と対話されてきた中で、見えてきたものについてお伺いしたいと思います。何か彼らの際立った特徴といえるでしょうか?

齊藤 義明さん(以下、齊藤):

イノベーションを起こすには、着眼・着想だけでは成り立ちません。ぜったいやり抜く、”実現”という要素があります。
アイデアソンやハッカソンでいくら面白いアイデアを考えついても、結局その場限りの人が多い一方で、なぜ、革新者はイノベーションをやり抜けるのか。実現する人は何が違うのか。

その答えのひとつは、「Wants主導」であることだと思います。他の誰かのNeeds対応ではない。
革新者は、自分が欲しいもの、見たい世界、助けたい人とか、自分自身が実現したいものに対する内的動機付けや必然性が強い。だから投資家やコンサルタントや周りの人たちに何を言われてもつぶれない。つぶれるわけにはいかない理由を持っています。

それと、負けたふりをするのが上手です。
本当は周りより実力や鋭い問題意識をもっているのに「僕は、まだまだですから」と言いながら下手に出る。負けたふりをしながら、あきらめずに裏で準備を進め、次のタイミングをうかがう。そういうところに長けている気がします。

外部人材活用で生み出すイノベーション。革新者は同時に複数の種を仕掛ける

Q:現在、弊社サーキュレーションでは、外部の人材を活用したオープン・イノベーションを企図した依頼が増えてきています。中堅から大手企業まで、新規事業を立ち上げたり、新領域に挑戦したいという意欲が高まっている印象を受けます。
大手企業の豊富なコンサルティング経験と、革新者との対話という両者の視点をもった齊藤さんは希有な存在だと思います。齊藤さんから見た、それぞれの立場をふまえての、イノベーションについての考え方をお聞かせください。

齊藤:

例えば革新者の特徴として、同時に複数のビジネスの種を仕掛けていることがあります。
PDCA(プラン-ドゥ-チェック-アクション)のサイクルのうち最初のP(プラン)とD(ドゥ)だけを並列に高速化している人もいます。高級イチゴ生産で知られる、農業生産法人 株式会社GRAの代表の岩佐大輝さんはPD-PD-PDCAで事業を進めると言っています。PDを複数並走させて、その中からC(チェック)とA(次のアクション)に起こすものを選ぶという方法です。

これが、大企業と真逆です。大企業のような、組織の内部でリソースを確保してからようやく事業開始、という進め方ではない。大企業は社内でがっちり合意がとれないと、投資も出来ないし勝手な動きもできない。

革新者と大企業は、判断基準が異なる

齊藤:

革新者と大企業、この両方はかなり違うという認識を持つべきです。
革新者は、Version.0から Version.1を生み出す存在であり、その破壊的創造力によって評価されます。対して大企業の経営管理者は、一般に、Version.50くらいのものをVersion.51にアップデートして、コストをより低く、より利益をあげることによってその有能性を評価されます。
革新者と大企業経営管理者では、置かれた立場やミッションが違う。

大企業から見ると、革新者のビジネスプランは突っ込みどころ満載で、未熟で幼稚にさえ見えます。Version.1への試行錯誤だから当たり前なのですが、その創造性や破壊力よりも、足りないものや実現課題ばかりが見えてしまう。
一方で革新者は、どれだけ突っ込まれようが腹の底で大企業に対し「でも、あなたに新しいことをやる力はない」と思っているふしがあります。

企業としてのバージョンや規模が違いますので、守るべきものの大きさも、抱えているリスクも、求められる収益規模も異なります。両社を同じ土俵に載せて比較し、互いに足りないところを批判してもあまり意味がありません。むしろ、互いに足りないところが、互いが欲するところであり、化学反応の鍵になります。

革新者の破壊的創造性、スピード、柔軟性、つまりは「試行錯誤する力」と、大企業の人的資源、顧客網、信用力など全国・世界に「スケールさせる力」を、いかに効果的に組み合わせることができるか。異なる判断基準とビジネスシステムを持つ両者をいかに結び付けられるか。
ここが難しいところであり、多くが失敗するところかと思います。

このプロデュースは、結論から言えば、両者を結びつけられる「つなぎ屋」としての人物にかかっていると言えます。オープン・イノベーション・ファンドを何十億円準備しても成功するものではありません。

トップが自ら関わることが、成功の条件。新規事業が社内圧力に屈しないために

Q:オープン・イノベーションと銘打って大きな投資をしたのに、外部人材が一人もいない。または、合弁やジョイントまではできても、人材の交流になった瞬間にマネジメントが働かなくなる、そういう事例が多く見受けられます。
コンサルタントを入れてタスク単位やミッション単位で切り分けることはできますが、それでも最後はやはりリーダーシップがないと成就しない。
そうした壁を乗り越えるための条件とは何ですか?

齊藤:

ベンチャーとのコラボレーションに成功している大企業の条件として、「トップが自ら意思表示し、責任をとっている」ということがあります。

トップが直接関わっていないと、社内圧力に屈してしまうことが多い。「そのベンチャーと組んで、儲かるの?」「いつ投資回収できるの?」「うちの事業に関係あるの?」新規事業部は、こういった声に勝てず、たいてい3年以内につぶされてしまいます

そうならないためには、トップとしっかり握ることが必要です。冒険してもいいリスクの範囲、期待される成果と時間軸をしっかり握り、あとはその下で思い切って突っ込める体制が必要。大企業の既存のコア事業から見れば、生まれたばかりの子供のような事業の種ですから、既存の事業評価基準や会議体制、こまごまとした社内での報告連絡相談をやっていては、種がつぶされてしまいます。
オープン・イノベーションには、既存のコア事業の管理体制とは違ったガバナンスが必要ではないでしょうか。

おっしゃる通りですね。オープン・イノベーションで、両社の社内組織のルールや権威も、自然に削れる部分がわかってきて、無駄なものがなくなっていく。フェアマネジメントが働くということができるかもしれません。
融合のやり方を設計すれば、イノベーションはもっと面白くなっていきますね。

・【オープン・イノベーション】「革新者プロジェクト」に見る、イノベーターの可能性(前編)

・【オープン・イノベーション】「革新者プロジェクト」に見る、イノベーターの可能性(中編)

取材・インタビュア/株式会社サーキュレーション 代表取締役 久保田 雅俊

齊藤 義明
未来創発センター2030年研究室 室長
1988年野村総合研究所入社。NRIアメリカ ワシントン支店長、コンサルティング事業本部戦略企画部長などを経て、現在、未来創発センター2030年研究室室長。専門領域は、ビジョン、イノベーション、モチベーションなど。
著書に、『次世代経営者育成法』(日本経済新聞出版社)、『モチベーション 企業の研究』(東洋経済新報社)、『コーポレート・アントレプレナーシップ』(NRIアメリカ)などがある。
ノマドジャーナル編集部
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