政府の働き方改革を受け、企業と人の在り方も刻々と変化しています。特に、経営・人事部門の方々にとっては、社員のエンゲージメントを高め、組織を活性化させることは喫緊の課題と言えるでしょう。

しかし、変化の激しいビジネス環境において、競争力のある人事戦略・組織戦略を推進していくには様々な課題があるのも事実です。それでは、人事戦略・組織戦略に成功している企業は、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。

本記事では、社内だけではなく社外の専門家とともに検討するオープンイノベーション型の人事改革プロジェクトに取り組み、成長を続けているマーケティングエージェンシーのFICC様の事例を参考に、持続可能なエンゲージメントを構築する人事戦略のポイントを解説します。なお、本記事はサーキュレーションで行われた人事戦略・組織戦略のパネルディスカッションイベントの内容をもとに構成しています。

戸塚省太氏

変革をリードした企業の責任者:戸塚省太氏

株式会社エフアイシーシー 取締役。イギリスでの留学後、2005年にFICC入社。デザイナー、クリエイティブディレクターとして数々のブランドのデジタルプロモーション施策に携わる。執行役員を経て、2016年に取締役就任。現在はミドル・バックオフィスのリーダーとして、コーポレート部門を管掌。

細川瑛司氏

変革の支援に入った専門家:細川瑛司氏

株式会社ユニセル 代表取締役。2009年に株式会社リクルートに新卒入社。営業企画・商品企画・事業企画・人事企画など企画職を歴任。その後2016年株式会社クラウドワークスに転職し、事業企画・事業人事に携わる。現在はメディアコンテンツ制作の株式会社ユニセルの経営をしながら、人事・組織改革やRPA導入プロジェクトなどのコンサルタントを並行した複業家として活動を行っている。

石山真知子氏

変革の支援に入った専門家:石山真知子氏

人事コンサルタント。1997年アパレル企業ファーストリテイリングに入社、店長として店舗経営全般を学び、2007年より同社人事部にて制度設計や情報統括を経験。その後、ITベンチャー企業オズビジョンで人事部を立ち上げ、業績重視から理念重視の組織へ方向転換するための組織・制度・採用など、人事業務全般の戦略設計から遂行をする。カフェ・カンパニー、フィンテックベンチャー企業ZUUの人事部を経て人事コンサルタントとして独立。

大野行康

変革のコーディネートをしたコンサルタント:大野行康

株式会社サーキュレーション ITチームリーダー コンサルタント。総合商社に新卒入社。法人営業に従事した後、新規事業統括としてパートナー企業とのアライアンス提携や営業戦略を推進。その後、インターネット広告代理店にてマーケティング戦略から広告運用までを経験。全社MVP受賞。現在は、株式会社サーキュレーションにて、オープンイノベーションによる経営コンサルティングプロジェクトを推進。

組織体制の強化に向けたFICCの挑戦

株式会社エフアイシーシー戸塚取締役
実施した人事制度改革のプロジェクト概要を説明するFICC戸塚取締役

働き方改革が叫ばれる中、残業がなかなか減らなかったり、一部の社員にしわ寄せが来たりして職場環境が悪化しているという悩みを経営や人事の方々からよく聞きます。

今回ご紹介するマーケティングエージェンシーのFICC様も、数年前までは、退職率や残業時間、また組織のアライメントなどに課題を感じている状態でした。そこで組織体制をさらに強化していくために、サーキュレーションのコーディネートのもと外部から人事の専門家細川瑛司氏に参画してもらい、オープンイノベーション型の人事改革プロジェクトを発足させることにしたのです。

サーキュレーション大野
プロジェクト組成のポイントを語るサーキュレーション大野

仮説構築と調査から突破口を見出したプロジェクト

まず行ったのは、組織の課題を浮かび上がらせる社員の満足度調査でした。細川氏と社内のプロジェクトチームがディスカッションを重ねながら、仮説形成や調査設計を行いました。

設問は下記のように、職場満足度だけではなく、ビジョンの浸透度や入社動機など100問にも及びました。組織の課題は仕事内容だけではなく、働き方や組織風土、マネジメントや経営方針の浸透、入社動機とのギャップなどとも深く関係しているという仮説があったからです。

組織の課題を浮かび上がらせる社員の満足度調査約100問

調査結果から打ち出した方針

調査結果からは、中間管理職や女性社員などの特定のポジションで先に挙げたような課題が高まる傾向が見られました。

一方、良好な人間関係や風通しの良い風土は強みであることも明らかになり、打ち手を講じやすい環境が整っていることもわかりました。

これらの結果を踏まえて打ち出したのが、下記の5つの方針です。

調査結果からの5つの方針

細川氏が調査結果を分析するうえで重視したのは、結果を他社と比較するのではなく、FICC様の現状をデータで正しく把握することでした。データで現状の課題を明らかにし、それに対応した方針を立てたことが、その後の社内コンセンサスの形成や実行につながったと言えます。

明確になった50〜100名の壁の存在

株式会社エフアイシーシー戸塚取締役と株式会社ユニセル細川代表取締役左:人事制度改革をリードしたFICC戸塚取締役。右:支援に入ったユニセル細川氏

実際に支援に入ったユニセル細川氏によると、FICC様は典型的な50〜100名の壁にぶつかって乗り越えられない状態だったと言います。組織が大きくなると、30名・50名・100名の壁といわれるものにぶつかり組織が機能しなくなっていきます。FICC様の場合は、組織体系としては階層化して50-100名の規模の設計になっていたのですが、実際は階層間のコミュニケーションなどに課題があり「社長の考えがアライメントされない」などを筆頭にした問題として表面化されていたのです。

持続可能なエンゲージメントにフォーカスした人事戦略

現状の課題と方針が明らかになったところで、いよいよ戦略人事の実行フェーズに入ります。ビジネスの成長においては、優秀な社員の定着や行動意欲の向上などに大きく関わるエンゲージメントの向上が欠かせません。そこで、本プロジェクトでは、一過性ではないサステイナブルなビジネス成長のために、持続可能なエンゲージメントにフォーカスすることにしました。

持続可能なエンゲージメントを構成するのは下記の5つの要素です。そこで、これらを実現できるような全体設計とプロジェクト化を進めていきました。

持続可能なエンゲージメントを構成する5つの要素

プロジェクトの方向性と実施内容

プロジェクトは下記の4つの方向性で構成しました。

FICC様の事例で特徴的なのが、単にミドルマネジメントの強化や権限委譲という一般的な50名の壁の乗り越え方はもちろん、風通しの良さの強みを生かし持続可能なエンゲージメントに着目して相互理解や帰属意識を高めることなど、会社の仕組みとして風土醸成に取り組んだところです。

プロジェクトの方向性-全体設計とプロジェクト化

プロジェクトの方向性-FICC IDENTITY

これらの方向性に基づいて、人事の専門家であるユニセル細川氏もワークショップに参加するなど、オープンイノベーション型でプロジェクトを実行していきました。実行フェーズでは、いかに具体的な項目に落とし込んで着実に実行できるかが成否をわけます。

情報共有

情報共有のために毎月全体共有会を実施して社員全員が会社の状況を理解できる状況を作り出しました。

毎月、全体共有会を実施。経営/現場からそれぞれの情報発信の場として、社員全員が会社の方向性を理解できる状況をつくる。'

マネジメント

マネジメント層への教育については外部の人事の専門家であるユニセル細川氏が参画することで、より納得度が高い企画を進められました。

マネジメントの重要性を伝えるワークショップを複数回に渡って実施。またwevoxを導入し、分析とマネジメントFBのサイクルを確立。

相互理解

相互理解のためにワークショップやシャッフルランチを開催して関わりの少ない社員同士の交流を促したりしました。シャッフルランチや1on1などは、社員が自主的に発案、実施するなど、全社を巻き込んだプロジェクトになりました。

社内ワークショップの実施。シャッフルランチや1on1を通じて、普段関わりの少ない社員同士の理解促進を促す。

制度・環境

制度・環境面では、会社として社員が長く働けるような環境を作ったり、全社で集まれるような空間を用意したりしました。

ライフイベントのサポートに向けた環境や制度設計のためのプロジェクトチームを発足。また東京オフィスの移転に伴い、機能面/エンゲージメント面の環境改善。

プロジェクトの結果

その結果、プロジェクトの結果からご紹介します。本プロジェクトではサステイナブルなビジネス成長に欠かせない持続可能なエンゲージメントにフォーカスすることにしたのですが、プロジェクトの結果、社員一人ひとりの会社に対するエンゲージメントが向上しました。エンゲージメントの向上は、社員による主体的な企画が数多く立ち上がったことや、退職率が改善したことからも証明されています。これらの成果は継続しており、持続可能なエンゲージメントの構築ができていることがわかります。

プロジェクトの結果-退職率の低下

 

プロジェクトの結果-社員による主体的な取り組み

オープンイノベーション型の改革の背景にあったのはFICC様の学際的なカルチャー

今回、FICC様が選択したのはオープンイノベーション型の人事改革でしたが、その背景にはFICC様に根付く学際的なカルチャーがありました。

変化の激しい時代において、クライアントに高いレベルの価値を提供するためには、マーケティング、心理学、統計学、デザインなどさまざまな分野の知識を融合させ、新たな価値を創造することが重要であるとFICC様は考えています。

そのため、FICC様では、社員一人ひとりの得意分野や興味を尊重し、自由研究的な活動が行える環境や、そこで得られた成果や多様な価値観を掛け合わせる文化が醸成されてきたのです。

このように、多様な価値観のなかで様々な分野の知識を自由に融合させ、新たな価値を創造していく学際的なカルチャーを持つFICC様にとって、外部の知見を取り入れ、社内外で連携して新たな価値を創出する「オープンイノベーション」の取り組みは、方向性が合致するものだったのです。

CROSSTHINKの招待状
社員に向けて送られた、専門家を招き学際的な学びを体験するイベント「CROSSTHINK」の招待状

今回の取り組みで生まれた「社員による主体的な企画」の中にも、学際的なカルチャーを象徴するものは多数あります。例えば、学際的な考えをより理解するために始まったワークショップ「Interdisciplinary AMIDA(アミダ)」。このワークショップでは「マーケティング×心理学」「マーケティング×気象学」など、マーケティングと他分野を掛け合わせた議題を設定し、くじで決まった議長や専門家などのロールになりきってディスカッションするものです。ただディスカッションをするだけでなく、実際にロールの視点に立った詳細なリサーチを行い、ロールならではの専門的な知見を持ってディスカッションを行うため、現場での施策に反映されるようなアウトプットや気づきが得られることも多いと言います。

また、学際的に学びを拡張する試みとして、専門家を招き皆で対話しながら学ぶイベントも生まれました。「マーケティング×心理学」「マーケティング×哲学」など、社内外の知見を活用して、新しい価値を生み出していけるような内容になっています。

このように、外部の知見を取り入れ社内外で連携して新たな価値を創出する「オープンイノベーション」の取り組みが、FICCの学際的なカルチャーをさらに深めていき、組織基盤をより強化していくことにもつながりました。

今回の取り組みで生まれた「社員による主体的な企画」の中にも、学際的なカルチャーを象徴するものは多数あります。例えば、学際的な考えをより理解するために始まったワークショップ「Interdisciplinary AMIDA(アミダ)」。このワークショップでは「マーケティング×心理学」「マーケティング×気象学」など、マーケティングと他分野を掛け合わせた議題を設定し、くじで決まった議長や専門家などのロールになりきってディスカッションするものです。ただディスカッションをするだけでなく、実際にロールの視点に立った詳細なリサーチを行い、ロールならではの専門的な知見を持ってディスカッションを行うため、現場での施策に反映されるようなアウトプットや気づきが得られることも多いと言います。

また、学際的に学びを拡張する試みとして、専門家を招き皆で対話しながら学ぶイベントも生まれました。「マーケティング×心理学」「マーケティング×哲学」など、社内外の知見を活用して、新しい価値を生み出していけるような内容になっています。

このように、外部の知見を取り入れ社内外で連携して新たな価値を創出する「オープンイノベーション」の取り組みが、FICCの学際的なカルチャーをさらに深めていき、組織基盤をより強化していくことにもつながりました。

CROSSTHINKの招待状

社員に向けて送られた、専門家を招き学際的な学びを体験するイベント「CROSSTHINK」の招待状

まとめ:持続可能なエンゲージメントを構築するために

最後に、FICC様が組織を立て直すことができたポイントを振り返ります。

外部の専門家の支援を受けてスピーディーにプロジェクトを組成、実行

まずサーキュレーションのコーディネートのもと、人事の専門家の細川氏の支援を受けてオープンイノベーション型の人事改革プロジェクトを実行したことが成功に結び付きました。細川氏の支援によって社内だけでは気づかなかった課題が可視化され、細川氏の豊富な経験をもとにFICC様にあった解決策を提案することができました。そして、調査で明確になった課題に対して、組織のアライメントを図り、その結果社員が一丸となって解決に向けて動き出したことが、持続可能なエンゲージメントの構築につながった大きなポイントです。そこには、多様な価値観のなかで様々な分野の知識を自由に融合させ、新たな価値を創造していくFICC様の学際的なカルチャーが背景にありました。

組織フェーズによって課題が異なる人事領域は外部の知見をうまく活用できるかが重要

FICC様では内部人事制度改革の成功を受けて、サーキュレーションがコーディネートさせていただいた人事コンサルタントの石山真知子氏とともにコーポレートの他部門でも変革を起こすプロジェクトを始めています。

石山真知子氏
FICC様のコーポレート部門全体の組織改革を支援する人事コンサルタントの石山真知子氏

石山氏は、コーポレートは基盤であり、基盤が整わない限り大きなジャンプはできず、未来も描けなくなると言います。そこで現在、石山氏の支援のもとFICC様では組織の状態を見極め、現場を巻き込みながら理想的な体制を構築しているところです。

このように、組織フェーズによって課題が異なる人事領域では、外部の専門家の知見をいかにうまく活用できるかが重要と言えます。

人事や組織に課題を抱えている企業の経営・人事の方々は本記事の事例を参考に、外部の専門家とともに検討していくオープンイノベーション型の人事改革を検討してみてはいかがでしょうか。

サーキュレーション大野、人事コンサルタントの石山氏、FICCの戸塚取締役、改革の支援をした細川氏
<敬称略>左から順に、サーキュレーション大野、人事コンサルタントの石山氏、FICCの戸塚取締役、改革の支援をした細川氏

なお、本記事はイベントでお話しいただいた内容から一部を抜粋したものです。ほかにも人事の専門家による戦略人事の推進ポイントなどたくさんのトピックスについてお話しいただきました。もっと詳しく聞きたい方は、次回の開催をご期待ください。