本連載の3回目では、実際に「しまの塾」で講師を受けてくださった方へのインタビューを行いました。年間10回の講師の方々の多くは、仕事の話をしていただいた中で、異色だった地域団体の「美水(みみず)くらぶ」。お声がけさせていただいた理由と共にお送りします。

「美水(みみず)くらぶ」とは?

2004年立ち上げ。地域住民や土庄町へIターン・Uターンをしたメンバーで構成された会員が、保育所や幼稚園だけでは体験できない、田んぼという場所で土や水に触れて、自然体験ができる場を提供。休耕田を活用し、田植え前のどろんこ遊びや、田植え、稲刈り、餅つき等の体験を小豆郡内の保育所や幼稚園等、また移住してきた家族向けに実施している。泥んこ遊びは100名規模に。収穫を祝う人形劇には280名の園児が参加し、子どもたちにとっても、なくてはならない存在になっている。

自然体で生きるストレスフリーな人たちの集まり

私自身が2011年に小豆島に引っ越してきて、良い時も悪い時も含め色々な時期を経る中で、心がしんどい時にデトックスしたのがこの場所でした。山と田んぼに囲まれた自然豊かな場所もさることながら、「美水くらぶ」の方は本当にストレスフリーで自然体で生きている。そんな彼らの在り方に触れる事で、働く中で感じるストレスとうまく付き合っていってほしいと思ったのが、異色ながら講師を依頼させていただいた理由です。

「しまの塾」の具体的な活動内容②講師インタビュー「若い人たちに伝えたかった事、山本さん(左)、山口さん(右)
今回お話を聞かせていただいた山本さん(左)、山口さん(右)

野草をとって天ぷらにして食べる、五感で感じる

企業で働いていると「感じる」より「考える」ことが多く求められます。ただ、「考える」事が必要なのは、事業の形がある程度出来上がってからのことが多く、0から1を生み出す創造フェーズでは「感じる」ことも大切。そんな想いから「五感で感じる」体験を入れました。参加者の方の中には「今日の日のことは、人生の節目節目で思い出すと思います」と発言した方もいたほど。それくらい、自然と触れ、自然に生きる行為が、小豆島で暮らしていても難しいのだと感じました。

「しまの塾」の具体的な活動内容②講師インタビュー「若い人たちに伝えたかった事、2017年5月第1期しまの塾写真
野草を採って揚げた天ぷらと、山口さんが無農薬栽培したお米を窯で炊いていただく(2017年5月第1期しまの塾)

「美水(みみず)くらぶ」の山本さんと山口さんへのインタビュー

講師を受けてくださった理由は?

僕らにとって、声をかけられたら受け入れるのは特別なことではなく、いつもの日常。「来るもの拒まず」で、この場所には今まで1000人以上の色々な人たちがやって来ました。

若い人に参考になればと、自らの経験から学んだことを伝えています。

長い目で見ると、偶然というのはなくて物事は全部必然。嫌なことがあったから今があるというのはよくある。そういう不思議な力が自然にはある。僕は95%は他力で動いていると思っています。自分の力でやっているようで、周りの力で自分たちは生かされている。昔の日本には全ての物に感謝するという風習があった。いつの間にかそういう風習が無くなってきている。どうして感謝するのかと言ったら、感謝せざるを得ない。人から助けられて生きているから感謝する。人は素晴らしい力を持っていて、その力は人によって全部違う。だから比べなくていい。それよりもまず自分の素晴らしい力を持っていることを信じなさいと。表に見えているのは5%くらい。その判断だけで自分を限るな、95%を見る努力をしなさいと。昔のひとは座禅を組んだりしたけれども、自然を見つめれば見えてくるのが「美水くらぶ」の考え方。自然を大切にする生き方ではなく、自分を大切にするから自然を大切にする生き方。とにかくあまり頭で考えないこと。頭のいい人ほど中々抜けきれず、自分の経験や知識をなんとか活用しようとする。5%のことで、世の中のことがわかるはずがない。自分も東京本社の会社で勤めてきたけれども、自分で自分を苦しめていたことがわかった。その当時は他人が悪いと思っていた。全部原因を周りに求めていた。自分の思い方・考え方が自然の流れに逆らっていたことがわかりだしてから、楽になった。そういうことで、原因わからずに苦しんでいるのであれば参考にしてください、できれば実行してくださいと。私みたいに50年間苦労しなくていいよという想いはあるんです。

「しまの塾」の具体的な活動内容②講師インタビュー「若い人たちに伝えたかった事、山口さん(左)と城石(右)
山口さん(左)と私、城石(右)。山と田んぼに囲まれた山口さん家にて。

しまの塾に来ている人たちは、どこかの企業に属している。企業は企業の理念があって、最大の目的は利益を上げることだけれど、自分のポリシーと会社のポリシーの重ならなかった所をどうカバーするかだと思う。重なる部分はOK、重ならない部分でストレスになったりする。企業に限らず、どんな会にしても、「何のためにやるのか」が大事。どっかで「何のためなの?」というのがぶれてきて、目的が見失う事がある。素直な皆さんの意見を吸い上げようという努力が大事ですよ。企業は人なりというのが世の中の常で、社員を育ててその結果利益が上がる。目先の収益・結果をウエイトを置いている企業も多いけれど、そういう企業は永続性がなく、30~40年は大丈夫だけれど、50年を超えてきたり社長が変わったりするとダメになることが多い。会社にモヤモヤを持ったとしても、まだまだお互い、自分も相手も成長過程だということを認識して、経営者も勉強して、自分も勉強していくという考え方が大切。自分も素晴らしいけれども、相手も本質は素晴らしいんだということを何とか理解しようとすると、その人が言っている言葉でも受け取り方は変わってくる可能性がある。表に見えている5%で、相手の95%のレッテルを付けるな、全てのことはうまくいっている。全ては必然。余裕がある時はそういう考え方ができる。

自分を認めてくれる人もいれば、認めてくれない人もいる。よく人は運の悪い上司にあったとかいうけれど、そこは多様性の部分。色々な考え方があって、一人一人の価値観も多様。ここができてありがたいのは、色々な人がいる。全然合わない考え方の人ももちろんいるけれど、そういう人がいることで、何かあった時にも受け入れやすい。自然の話をすると、4月頃の雨の日の夜(20時頃)、水中にいるホタルの幼虫が上陸して土にもぐる。なぜ水中にいて雨がわかるんだろう?なぜ蝉は7年も土の中にいて、なんでもうそろそろ出る頃だとわかるんだろう?自然界では目に見えない部分が大きくて、人間も自分で何もかも何とかしようと思うのではなく、自分は生かされていると思うと、心がラク。自分で何とかしようと思ってしまう。蛍を知って、成虫になっても1週間や10日しか飛べないと思うと、やはりこの子たちの1週間、10日生きられる環境を残したいと思う。そう考えると弱い立場にいる人の目線に立って共創すること、多様性がわかると多様性を受け入れられると思うんです。

インタビューを終えて

今回インタビューさせていただいた「美水くらぶ」の皆さんも本当に素敵な方々。経営者含め、小豆島で活躍される多岐にわたる色々な方々が「しまの塾」に関わってくださるのは、本当にありがたいことです。地域で地域のひとを育てていく取り組みは、どんな地域にも汎用できます。大事なのは、地域側に中心となって取り組み続ける人がいるかどうか。小豆島では、高校生と「しまのみらいプロジェクト」も始めており、地域を上げて動き出しました。今後は、これらの取り組みを他地域でも汎用化できるような事業も展開していけたらと考えています。さて、次回は実際の受講者にもインタビューを行います。お楽しみに!

専門家:城石 果純

1984年生まれ、愛知県出身。小豆島在住、リクルート出身の3児の母。24歳で母親になり「自然がある場所で子育てしたい」と思うようになり2011年に小豆島に家族で移住。3年間高松への船通勤を経て、2016年個人事業主として独立。2017年株式会社DaRETOを起業。現在は、しまの塾・企業研修・各種ワークショップ開催を通し、地域の課題を地域で解決するスキーム作り「知の地産地消」に取り組むとともに、ひとりひとりが主役の世界を創るための活動を実施している。