今注目を集めている、マネジメントコーチ(経営者コーチ)。

グローバル企業のインテル在社(21年)中は、オペレーション部門全般(管理/経理/予算)から、技術標準・新規事業開発など幅広く15以上の職務を歴任され、現在は複数の企業やエグゼクティブのマネジメントコーチとして活動される板越正彦さんによる連載です。

第1回は、「時代とともに変わるリーダーシップのスタイル」についてです。

大量生産時代は、商品もシンプルで、上に立つ人がなんでも一番よく知っているので、部下に対しては、指示・命令を出すだけでよかった。しかし、商品サイクルや顧客の嗜好がめまぐるしく変化する現代では、上司が命令するだけでは、現場に起こっている全てを把握できません。現場の人がその変化や最新の情報を自発的に、すぐに関係者につたえてくれないと、せっかく開発しても売れないものができてしまう。PCやITの世界でも同じことが起きました。

筆者が経験したインテルの中でのリーダーシップスタイルの変遷から話してみたいと思います。

経営スタイルの変化が組織に与える影響

私が約20年前に、入社した時期のインテルも非常に激しい経営スタイルの会社でした。

当時のCEOである、アンディ・グローブは、なんとハンガリーのユダヤ難民からハードワークでキャリアアップしてきたので、頑張りと執着心は半端なかったです。「偏執症(パラノイア)という心配性・妄想しか成功しない」、「ハイ・アウトプット・マネジメント」などの著作にもあるように、会社の戦略や方向性に対して圧倒的に厳しい経営スタイルで、部下に規律をもって行動させました。ある意味激しくて野蛮(Brutal)なマネジメントスタイルで、そのためエグゼクティブ層も似たように(いい意味で)激しい人が多かったです。

その中で私は、たまたま2年間のサンタクララ本社在任中に、予算やリストラ責任を受け持つ、ファイナンスコントローラの下で働く幸運に恵まれました。その時には、まさにその激しいマネジメントを目の当たりにする機会がありました。

例えば、そのコンロラーが受けとった、真っ赤な大きいフォントで、「I do not like your answer.」と書かれたVPからのメールをみたり、大勢の前で、「I do not understand.」と激しく怒られて泣き出す人のケースも見ました。「このポリシーに納得できないなら、バッジを置いて部屋から出て行け。」ということもありました。

When generation change, Management style change

しかし、そのインテルでも、10年ほど前から、 リーダーシップスタイルを変え、部下の意見を聞く時間を増やせとか、成果だけではなく失敗へのプロセスを評価するようにと人事政策が変化してきました。私は、その変化について直接CEOに質問したことがあります。

「昔の経営陣は激しかったじゃないか。なぜ最近部下に気をつかえと言い出したんだ」と。その時のCEOの解答は明解でした。「昔は、宇宙飛行士のように、上を目指すものはワークハードだった。それを期待する若者が、アップ・オア・アウト(昇進できなければ会社を去れ)も納得していたのだが、今の優しい若者は、それではついてこない。だから、When generation change, Management style change(時代が変われば、マネジメントスタイルも変わる。) だ。自分がされてイヤなことは、相手にもしないようなマネジメントに変わらないといけない。自分が厳しい上司にきたえられたから、自分がきびしい上司になってきたえなければいけないという考えはもう通用しない。それだと、今の世代の若者はついてこない。いい人も取れないのだよ」と説明したのです。

「あー、アメリカでさえそうなのか」と、ビックリしたのを覚えています。

成果主義が行き過ぎると現場の声が枯れる。

米国の有名なエグゼクティブコーチから聞いた話では、映画「ウォールストリート」の主人公のモデルにもなったあるトップマネジメントは、「部下をケアしているか」という項目についての部下からの評価は、100点満点中最初0.1点であるほど、ひどかったそうです。

給料はいいんです。何十億円もインセンティブだけでもらいますから。しかし究極の成果主義で、報酬やインセンティブだけで部下を管理すると、最終的にはその会社はつぶれてしまうそうです。

たとえば、リーマンショックの時のリーマンブラザーズの倒産です。ワンマンのトップダウン経営だと、部下が自由に意見をださなくなってしまうので、本当のリスクや失敗などの共有ができなくなってしまうのです。燃え尽きてしまって、働くことにモチベーションがわかなくなって、そして最終的にはチームや組織が壊れてしまうのです。

日本の年功序列志向もリスクがある。

「なんとかしろ」、「チャレンジしろ」、「利益をあげろ」。東芝のケースでも、実行の仕方については問わず、結果だけを出させると、うまくいかなかったときに最後は表面化します。

利益操作、コンプライアンス違反、クレーム対応、違法行為、みんな失敗を報告できない風土と、ギブアップできない習慣に原因があります。リーダー自ら、悪い情報や、本当のリスクを話させ、それを理解する度量をもつこと。今ほど、リーダーシップにガバナンスと部下から信頼されるコーチング力が必要な時期はないかもしれません。

負けず嫌いだけではチームをリードできない

私も、非常に激しい上司や「虎の穴」に育てられたので、上司や顧客以上に、部下に気をつかわなければいけないということが理解できるまでかなり時間がかかりました、(今でもイライラする時はあります)。

最初の5分で、企画書や提案書の意味が明確でないと、印刷したものを破いてしまうような上司だったので、同じように、最初で意味がわからないと、自分のやり方を押しつけたことがよくありました。インテル20年間の間で、2回ほどチームの雰囲気が悪くなり、リーダー失格であると評価されました。

リーダー失格。では、どうすればいいのか

しかし、インテルの中で、一番役に立ったのは、非常に優秀なグローバルリーダーと一緒に仕事が出来たことと、そのリーダーからのアドバイスや、反面教師です。

私は、特にその中でもキャリアとして成功し、信頼されていた人たちに、「あなたが自分のキャリア育成の中で、一番大切にしていることは何ですか?」という質問を好奇心から問い続けました。そうした質問を重ねることで、私自分のキャリアを見直せ、大事な場面で方針転換できました。

最も印象に残っているものは、高専卒でインテルに入社し、最年少でVPに、そしてCTOも歴任した、インテルでも伝説的なある上司(今では別の会社のCEOをしています)が答えた言葉です。それは次のようなものでした

「自分の仕事や上司が好きでも嫌いでも、今の仕事にベストを尽くせ。そして次の仕事の勉強・準備をしろ。ダイナミックに変わる環境ではそれが一番価値がある(1.Do a great job at current job, even if you do not like job or boss -2.Learn and prepare the skills you need for a next job – whenever it is to be. In a dynamic environment like Intel, this rewards you.)」です。

次回では、そう言ったインテルでのグローバルリーダーたちのキャリアについての成功哲学を、ケース別・タイプ別に振り返りたいと思います。

【専門家】板越 正彦

(マネジメントコーチ・事業開発メンター)新卒入社の石油化学会社でコテコテの国内営業を学んだ後、国連(UNESCO)、インテルと24年間グローバル組織でのリーダーシップを学ぶ。インテル在社(21年)中は、オペレーション部門全般(管理/経理/予算)から、技術標準・新規事業開発など15以上の職務を担当。2013年 インテル株式会社 執行役員事業開発本部長。2015年退社。
現在、ビジネスコーチ株式会社クラウド担当顧問兼エグゼクティブコーチ、ヒトクセ(リッチ動画広告ベンチャー)マネジメントコーチ つくば在住21年 九州大や、 筑波大学の起業家養成講座などで、講義をおこなっており、2015年は、筑波大学ヒューマンバイオロジー講座でもプロジェクトマネジメントを講義(英語)。IT、事業開発、ファイナンスという3つの職務経験から、コーチング・事業開発メンターなどを行う。「地雷」を未然に防ぎ、リーダーの成長を加速させることを使命とする。「気づきハック」というコーチングブログを連載している。
ノマドジャーナル編集部
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