今注目を集めている、マネジメントコーチ(経営者コーチ)。インテルにて、オペレーション部門全般から、技術標準・新規事業開発など幅広く15以上の職務を歴任され、現在は複数の企業やエグゼクティブのマネジメントコーチとして活動される板越正彦さんによる連載。

第5回は、「コーチングで獲得するリーダーシップ・スキル」です。

前回では、グローバルリーダーの「振り返り力」の重要性についてお話ししました。今回はその「振り返り」によって、自己認識を高めるための具体的ステップについてお話しします。

振り返り、向き合い、直すためにコーチをつける。

グローバル企業では、上に行くほどリーダーシップはスキルであり、経理やMBAのように、後天的に身につけられるものだと考えられています。そのため、将来性のある上級経営者には高額なエグゼクティブコーチがついて、その第1歩である「傾聴力・質問力」を養うことが、リーダーになるための必須スキルとされています。

まず「傾聴力・質問力」が重要というのは、現場の相手の話に真摯に耳を傾ける力(特に悪い情報)がないと本当の情報がわからず、判断が遅れてしまいます。つまり、そうした力が欠如しているのは、経営においては致命的なことになりかねません。

しかしながら、この「スキルとして」リーダーシップを身につけるという意識が、日本の経営者や政治家には多くの場合欠けています。こうした日本では馴染みがない一方でグローバル企業では「当たり前」のコーチングですが、現実にはどういったように行われるのか、そのステップを具体的に見ていきましょう。

行動変革の第一歩。自分の行動や振る舞いへの気づき

部下から上司には直接言いづらいことがあります。例えば「あなたは人の話を聞きませんね」、「一人でなんでもやりがちですね」、「上司や顧客にはいい顔しているのに、部下には高圧的ですね。」、「一人の社員に気をつかいすぎです。」といったことです。

コーチングは、これらの自分の行動や振る舞いについてのフィードバックを、周囲からのヒアリングを元に面と向かってコーチから聞くことから始まります。

そしてコーチは尋ねます。「そのことについてあなたはどう思いますか?」

本音を引き出し、行動変革の必要性を腹落ちさせるためには、アドバイスよりも、質問によって、信頼関係を構築し、リーダー自らに気づかせることが重要です。本当の懸念や気持ちを、質問力を使って聞きだし、対話を通じて仕事の課題を整理する。コーチングという形式は、悩みや課題について、「対話を通じて」明確にしていくのです。

経験豊かなコーチが多角的に質問や着眼点を投げてかけてくれることで、自分の弱点克服や考えの整理につながります。逆に、「自分で解決する」という方にみられるのは、自問自答すると堂々巡りになり、整理するのが結局難しいことが多いのです。

また、「相手にリスペクトを求めるのであれば、まずはこちらがリスペクトすること。相手に誠実な仕事を求めるのであれば、まずはこちらが誠実な仕事をすること。心を開いてほしいなら、自分から心を開くこと。」など、コーチは本質的な気づきを与えられるアドバイスも行います。

そして、リーダー自身が認識した自分の悪い行動や振る舞いについて、コーチから「(組織の目標達成のためにやるべきことを)ちゃんと直してやっているのか?」と定期的に確認されることで、研修と違って、「傾聴する」、「激しく怒らない」などの良い行動習慣が定着します。

謝罪から始める。「自分の殻を破る」ために

コーチングを受けるリーダーには、自分の行動を内省して振りかえってもらった後で、まず部下や関係者に謝罪してもらうところから始まります。人の意見をよく聞かなかったり、全てに負けず嫌い過ぎたりしていたことについて、自らの非を認め、「自分は変わる」ということを、関係者に公言するのです。

過去の過ちを悔い、リーダー自らが変わろうとしている姿を見せることは、「自分の殻を破る」重要性を周りに伝える非常に強いメッセージになります。「恥ずかしい」、「かっこ悪い」などのプライドのある人は、特にこの宣言を躊躇され、なかなか宣言できません。しかし、過去の例を見ると、優秀な人ほど、この部分の重要性の理解度が格段に早く、すぐに行動されます。

つまり、受け手についても優秀であるほど、コーチングを受けてから実際に変わる期間が短い傾向にあります。

行動改善のアイデアをもらう

評価をもらい、悪い行動を謝罪した後で、次には「何を止めれば良いのか、自分の行動がどのような悪い反応を引き起こしているのか?」ということについて、周囲から率直なフィードバックをもらう段階に移ります。

過去の行動を責めるフィードバックではなく、「私が変わるために役立つアイデアがあったら、ぜひ教えて欲しい」と、将来の改善点を提案してもらうところがポイントです。例えば、率直に意見を言い過ぎる傾向があるリーダーは、「話す前に、今ここで話すことが相手や会社にとって、本当に価値があることかを再度自問する。」というアイデアがひどく気に入りました。実際に実行された結果、相手にイヤな思いをさせる発言が、8割ほど劇的に減ったそうです。

仕組みで改善する。意思の力だけでは人は変わりにくい

意思の力だけでは人は変わりにくいので、行動や振る舞いを決定づける原因と要素を解明し、それを仕組みによって改善する必要もあります。

仕組みにより習慣改善を長続きさせる例として、以下のようなことが挙げられます。

  • 会議の前に自分の振る舞いの注意点を確認するためのメモを持つ。(怒って話さない、口を挟まないで聞く、など)
  • 受動的な質問ではなく、能動的質問を日課にする。(「会議は意義あるものだったか」ではなく、「意義ある会議にするために私はどのような努力をしたか」を問う。)
  • 会議の発表フォーマット(部門がどうやって助け合えるか、共通ゴールを持つか)を作る。

次回は、こう言った振り返りとコーチングによって気づき変わることができたリーダーの具体例とそのそれぞれの仕組みやよい質問をタイプ別に詳しく話したいと思います。

【専門家】板越 正彦

(マネジメントコーチ・事業開発メンター)新卒入社の石油化学会社でコテコテの国内営業を学んだ後、国連(UNESCO)、インテルと24年間グローバル組織でのリーダーシップを学ぶ。インテル在社(21年)中は、オペレーション部門全般(管理/経理/予算)から、技術標準・新規事業開発など15以上の職務を担当。2013年 インテル株式会社 執行役員事業開発本部長。2015年退社。
現在、ビジネスコーチ株式会社クラウド担当顧問兼エグゼクティブコーチ、ヒトクセ(リッチ動画広告ベンチャー)マネジメントコーチ つくば在住21年 九州大や、 筑波大学の起業家養成講座などで、講義をおこなっており、2015年は、筑波大学ヒューマンバイオロジー講座でもプロジェクトマネジメントを講義(英語)。IT、事業開発、ファイナンスという3つの職務経験から、コーチング・事業開発メンターなどを行う。「地雷」を未然に防ぎ、リーダーの成長を加速させることを使命とする。「気づきハック」というコーチングブログを連載している。

ノマドジャーナル編集部
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