フリーランスは、ありとあらゆる方向に進むことができる。

 

今はライターとして生計を立てている人が突然デザイナーやカメラマンとして活動し始めることもできるし、明日から何らかの商材を扱う販売代理店の看板を掲げることもできる(最近ではゼロリスクでスタートできる代理店開業の道も多彩だ)。もちろん、フリーランスに嫌気が指したなら転職活動をして企業に入るという道もある。

 

大切なのは、そうした可能性を自分自身が排除せず、柔軟に取り組んでいくことだと思う。「複業」の観点でどれだけ多くのプロジェクトに関わることができるか。それがフリーランスの面白みであり、価値にもなり得るのではないかと考えるようになった。

 

面白いと思ったことを素直に始められるのがフリーランス

社会人になって十数年も過ぎれば、さまざまな方面に知り合いが増える。長い期間仕事をともにし、互いを知り尽くし、信頼し合える相手もできるだろう。僕にもそういう人がいる。

 

思い返せば20代の頃、とある会社組織でともに働いていた頃には、「いつか一緒に会社をやれたらいいですねぇ」などと、とりとめもない話をしていたことがある。何をやるかではなく、誰とやるか。多くの起業家が言っているように、「この人と一緒に事業がやれたら面白いぞ」と思えることは素敵なことだ。

 

今でも頻繁に連絡を取り合ったり、顔を合わせたりする中で、かつてのよもやま話がふと現実味を帯び始めることがある。人材業界については互いに一家言あり、事業アイデアの卵を大切に温めてきたようなところがあるからだ。企業の採用活動や、人材マッチングの領域で「こんなことをやってみたいね」と盛り上がる。

 

相手は会社員を続けていて、僕はフリーランス。そんな立場の違いも感じる。その事業アイデアの卵がもし低投資で始められることなら、僕は本気で着手してみたいと素直に思う。でも会社員だとなかなかそうはいかない。会社を辞めずに事業を始めるとなれば、それは副業だ。人材業界は今どきの働き方に対して保守的な企業が多く、副業を容認していない企業も多い。その人が所属する会社も「副業禁止」の方針を頑固に貫いていて、面白いと思ったことを素直にやってみるにはリスクが高すぎる。

 

「じゃあ、会社に内緒で始めてみますか?」
「いや、本気でやると決めたら会社を辞めるよ」

 

そんなやり取りが続いている。

 

自分自身で「文化的雪かき」だととらえてしまう危険性

ずっと会社員としてキャリアを積んできた人の将来を背負い込めるほどの覚悟はないけれど、自分自身がスモールスタートで新たな挑戦に踏み出すことについては、簡単に決断できる。そのうち本当にその人とも事業を始めるかもしれないし、あるいは違う形で組むことになるかもしれないけれど、僕自身は躊躇なく挑戦したいと思うのだ。

 

そんなことを考えるようになったのは、知らず知らずのうちに現在の仕事が「受託型」中心になってきていることも関係していると思う。さまざまな企業から、さまざまな種類の仕事を発注してもらっているけれど、そのほとんどは「社内にリソースがないから」回ってきている仕事。正社員のライター専門職が1人いれば事足りるような案件も多い。

 

受託型で仕事をすることが悪いわけでは決してないのだけれど、それだけではフリーランスとしてのキャリアを前に進めることは難しいのではないか。結局のところ、誰かが代わりにやるしかない仕事を引き受けているだけで、自分自身で仕事を生み出しているとは言えないのではないか。

 

このコラムでも触れてきた、「ビジョンを持てないフリーランス」「for自分でしかないフリーランス」から抜け出せないのは、受託型のみで仕事をこなし、生き延びていることが原因なのかもしれない。

 

村上春樹のとある長編小説に出てくる主人公が、一時期フリーランスのライターとして生計を立てる。彼は自分の仕事を揶揄して「文化的雪かき」と語る。誰かが処理しなければならない雪かきのような物書き仕事を引き受けているだけだ、というわけだ。僕はフリーランス・ライターの仕事すべてが「文化的雪かき」だとは思わないけれど、そうとらえてしまいたくなる気持ちは分からないでもない。

 

「働き方」に関する情報を発信していく意味

今関わっている仕事に、自分の意志はどれくらい乗せられているか。自分の意志によって仕事の成果が高まっていく要素はどれくらいあるのか。

 

そんな風に仕事を棚卸しして、「プロジェクト」として動かしていける案件を作っていくことが僕のこれからのテーマだ。うまく育っていけば、そのプロジェクトはやがて事業と呼べるものになるかもしれない。起業にはあまり興味がないけれど、事業を作ることには純粋に興味がある。

 

そのときにはやはり「誰とやるか」にこだわりたい。会社を辞めずに一緒に事業をやる道も模索したい。新しい働き方や副業容認に関する情報を積極的に発信していくことは、そんな自分自身の未来図にもつながっていると感じ始めている。

ライター:多田 慎介

フリーランス・ライター。1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイトとして入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職に従事。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。