働き方改革の一環として、これまで原則禁止としていた副業を認める方向へと舵をきる企業が増えてきました。しかし、これまで見てきたように、副業には労働時間をはじめとする多くの問題が付きまといます。これらの問題に対し、企業と労働者は、どのように対処しているのでしょうか。いくつかの例を見ながら、その取り組みに触れてみることにしましょう。

1.ロート製薬(http://www.rohto.co.jp/

収入アップとともに消費者の声も 一石二鳥のチャレンジワーク

ロート製薬は、医療品や化粧品などの開発、販売を行う企業です。数年前、新規事業に取組むためには、個々の社員がこれまでに培ってきた知識に加え、どのような要素が必要かについてアイデアを募ったところ、若手社員から「社外での副業」という案が出されました。

 

しかし、若手社員の提案は、単に収入アップのために本業以外の場所で働くことを意味するものではありませんでした。

 

たとえば、薬剤師の資格を持つ社員が、休日の土日を活用して調剤薬局等でパート勤務をすることを認めれば、社員が直接生活者の声を聞く機会が作られ、製品の開発や販売に生かすことができます。若手社員が提案したのは、副業で得た知識やスキルを本業に生かすための副業のあり方だったのです。

 

このアイデアをもとに積極的に副業を認める「社外チャレンジワーク」がスタートしました。

 

副業を始めたことで本業に支障が出ないかどうか、労務管理には細心の注意が払われています。ロート製薬では、副業を希望する社員との面談に直属の上司を同席させるシステムを採用しました。日頃から直接接していることで、部下の働き方や健康面について最もよく把握しているであろう上司の眼を通して、副業の内容に無理がないかどうかを判断するためです。

 

副業を認める一方で、健康を害するような無理な働き方にはストップをかける――本業と副業のバランスに配慮した取組みだといえるでしょう。

2.サイボウズ(https://cybozu.co.jp/

「副業」でなく「複業」 マルチに短時間という働き方の発想

ソフトウェアの開発を手がけるサイボウズは、従業員一人ひとりの個性が違うことを前提に、働き方や報酬も個性にあわせて実現されればよいという考え方を採用しています。この考え方から生まれたのが「複業採用」というユニークな雇用形態です。

 

注目すべきは「副業」ではなく「複業」だという点です。「副業」という場合、本業という主たる就業先があります。これに対し「複業」は、就業先のいずれにも主従の関係はなく、すべてがパラレルであるという考え方です。

 

代表取締役社長の青野慶久氏は、会社で働く以外の家事や育児も「仕事」だと捉えれば、みんなマルチに働いていることになると言います。そういった意味では、仕事に何が主で何が従だという関係はありません。つまり、「複業」は本業先の仕事が終わった後に働くというものではなく、むしろ短時間労働の集まりであり、労働時間も柔軟にコントロールできます。

 

「少しでも時間を見つけて同じ理想に向かって働いてくれたらありがたい」

 

「複業採用」は、「チームワークあふれる社会を創る」というサイボウズの理念の下、個性に応じた多様な働き方を実現する起爆剤となるのでしょうか。期待を込めて見守りたいと思います。

3.ドン・キホーテ(http://www.donki.com/

社会課題にも目配り 過重労働防止へ本業・副業双方が連携

ディスカウントストア大手のドン・キホーテでは、従業員が事業所内保育施設で副業することを認めています。従業員が収入アップを図れる一方、事業所内保育所の人手不足の解消にもつながる仕組みとして注目が集まっています。

 

副業で一番問題になるのが長時間労働です。この問題に対処するため、事業所内保育施設の運営会社と連携し、本業・副業双方での労働時間を一枚の出勤簿で管理することにしました。トータルの労働時間を把握することが可能となり、健康への配慮ができるようになっています。これにより過重労働を防止しつつ、待機児童を抱える主婦層が働きやすい職場をつくることができるわけです。

 

ドン・キホーテの副業解禁へのアプローチは、単に副業を認めることにしたということではなく、社会課題の克服に寄与する点に大きな意義があるといえます。副業を容認すると同時に、その先にある労働時間の問題から目をそらさず解決策を講じ、さらには待機児童という社会課題にも目配りした点で理想的な副業解禁だといえるでしょう。

 

本業先、従業員、副業先の三者間においてWin-Winの関係を構築する取組みは、副業容認へと動く企業にとって、お手本となる事例ではないでしょうか。

4.まとめ

いち早く副業容認へと舵を切った企業の例を見れば、副業容認は優秀な人材の流出を防ぐため、あるいは優秀な人材を確保するための方策であることがうかがえます。

 

これまでの働き方のスタンダードであった本業のみのフルタイム勤務というスタイルが崩れ多様な働き方に注目が集まる中、優秀な社員がより自由度の高い他社に引き抜かれるリスクを回避するため、今後、多くの企業が副業を容認する方向に向かうと思われます。

 

しかし、何の工夫もなくただ副業を解禁したというだけでは不十分だと思われます。個人の実力が重視されると共に、企業の柔軟性も問われる時代に突入したといえるでしょう。

 

記事制作/白井龍