雇用保険とは異なり、社会保険は複数の事業所で加入することができます。

 

これまでは所定労働時間が週30時間未満の短時間労働者は社会保険に加入することができませんでしたが、法改正によって適用範囲が拡大されました。平成28年には、従業員が501人以上の会社で週20時間以上働く場合も加入対象となり、平成29年には従業員が500人以下の会社においても、労使合意があれば会社単位で加入できるようになりました。

 

会社の規模に関わらず、パートやアルバイトの短時間労働においても社会保険への加入が認められることになったわけですが、本業先に加え副業先でも社会保険に加入すると、どういったメリット・デメリットがあるのでしょうか。

1.短時間労働者も加入可能に 社会保険の適用条件と保険料の算定

(1)週の労働時間が20時間以上である

(2)月の賃金が88,000円以上である

(3)雇用期間の見込みが1年以上である

(4)学生でない

(5)従業員が501人以上か500人以下の場合は加入することについて労使合意がなされている

 

このような条件を満たす場合、複数の会社で社会保険の加入対象となります。

 

厚生年金保険法は、「同時に2以上の事業所で報酬を受ける被保険者について報酬月額を算定する場合においては、各事業所について・・・算定した額の合算額をその者の報酬月額とする」(24条2項)と定めています。健康保険法にも同様の規定があります。

 

つまり、会社ごとに社会保険料を計算するのではなく、就労しているすべての会社の賃金を合算してから社会保険料を算定するのです。そうして算定した社会保険料を各会社の賃金の割合に応じて按分した金額が各会社の社会保険料となります。

 

たとえば、本業先の賃金が月額30万円、副業先が6万円だとしましょう。賃金の合計は36万円です。日本年金機構の厚生年金保険料額によれば、月額36万円の保険料(平成29年9月分~厚生年金保険と協会けんぽ管掌の健康保険)は、65,880円です。これを本業先と副業先とで、それぞれの賃金額をもとに按分します。

 

本業先:65,880×30/36=54,900円

副業先:65,880×6/36=10,980円

 

会社ごとの社会保険料はこのようになります。

2.メリットの裏にはデメリットも 社会保険加入でバレる副業

副業先で社会保険に加入するには、所定の書類を本業先を管轄する年金事務所に提出します。社会保険料の算定が会社ごとであれば、副業先での社会保険の加入は本業先に何ら影響しないのですが、保険料の算定は双方の賃金を合算して決定するので、副業先での社会保険加入によって本業先の社会保険料が変化することがあり得ます。

 

ということは、本業先に副業がバレる可能性があるわけです。社会保険料の支払いが増えれば将来受け取る年金額も増えるというメリットがありますが、一方で本業先に副業の実態を知られることになります。このことは副業を本業先に内緒にしておきたい人にとってはデメリットとなるでしょう。本業先に副業を知られたくないなら、社会保険の適用がない範囲にとどめておく必要があります。

3.副業は自営が有利? 被保険者種別と保険料の関係

社会保険には以下の3つの被保険者種別があります。

 

1号被保険者:国民年金に加入している者

2号被保険者:会社で社会保険に加入している者

3号被保険者:被扶養者

 

国民健康保険法は、健康保険法の規定による被保険者(2号被保険者)を国民健康保険の被保険者(1号被保険者)としない旨を規定しています(国民健康保険法6条)。自営業者は1号被保険者ですから、2号被保険者が副業を始めても自営業としてなら2号被保険者のままです。健康保険と厚生年金はセットで加入していますので、被保険者種別が変わらなければ社会保険料も本業先の賃金をもとに算定された金額のままです。自営業である副業の稼ぎが多くなっても社会保険料は変化しないのです。

 

たとえば、本業の賃金が30万円、自営で副業をした収入が30万円だったとしましょう。この場合、本業先賃金の月額30万円のみが保険料算定の基礎となります。仮に副業による収入が倍の60万円になったとしても、保険料算定の基礎は月額30万円のままなので保険料に変化はありません。

 

つまり、社会保険に限っていえば、副業が自営業としてなら本業先にバレることはありません。

4.まとめ

社会保険料は賃金の額によって決められている「報酬月額」をもとに計算することから、複数の勤務先がある場合、そのすべての賃金を合算した「報酬月額」が保険料算定の基礎となります。しかし、副業が自営業なら合算されず、保険料算定には影響しません。

 

社会保険料が変化すれば副業が会社にバレますが、変化がなければ副業の実態を知られずに済むわけです。しかし、これはあくまで社会保険料という側面からのことです。所得の増加に伴う住民税の増加から副業が会社に知れる可能性はあります。

 

何事も内緒で行うには無理があることは否めません。特に働くことによる収入増加に対しては、さまざまな法律が「税の課金システム」を用意し、確実に集金する方法を構築しています。公明正大にしっかり稼ぐ。そんな副業のあり方が理想なのでしょう。

 

記事制作/白井龍