前回は、副業が認められなかった裁判例を取り上げました。裁判例を見ると、形式的に副業禁止に該当するだけでは懲戒事由として不十分であり、労務提供上の支障や企業秩序への影響等を総合的に考慮して懲戒解雇の有効性が判断されています。

 

今回は、副業を理由とする解雇が無効となった裁判例を見ながら、懲戒解雇の有効性について確認することにしましょう。

1.十和田運輸事件

(1)事実の概要

原告は、運送会社で家電製品を小売店に配送する業務に従事していました。しかし運送先の小売店から家電製品を引き取ってリサイクルショップに持込み代価を受けていたことが発覚し、懲戒解雇となりました。

(2)判決の要旨

副業に関する部分につき、裁判所は次のように判断し、解雇を無効としました。

  • 原告の副業は2回程度にすぎない。
  • 原告の行為によって会社の業務に具体的な支障はなかった。
  • 原告は会社が許可、あるいは黙認しているとの認識を有していた。
  • 原告が職務専念義務に違反し、あるいは、会社との間の信頼関係を破壊したとまではいえない。

(3)ポイント

裁判所は、原告の解雇当時、周知された就業規則がなかったことを理由に懲戒解雇を無効としました。そして普通解雇としてみた場合であっても、上記のように、原告の行為は職務専念義務に違反し、あるいは、会社との間の信頼関係を破壊したということはできないことを理由に解雇は無効であるとしています。

2.定森紙業事件

(1)事実の概要

原告は、紙製品の販売会社の社員でしたが、妻の経営する同種会社の営業に関与していたところ、これが就業規則の懲戒事由である「会社の同意なく在職のまま他に勤務した」に該当するとして懲戒解雇されました。

(2)判決の要旨

副業に関する部分について、裁判所は以下のように判断し、解雇を無効としました。

  • 原告が他社の営業に関与したことは,形式的には解雇事由に該当する。
  • 解雇を有効とするには単に形式的に解雇事由に該当する事実があるというだけでは足りず,解雇を相当とするやむをえない事情があることが必要である。
  • 原告が行った他社の営業は、原告が勤務する会社に黙認されており、そのことによって会社に損害を及ぼしたとは認められない。
  • 原告の行為は解雇を相当とするやむをえない事情に当たるとはとうていいえない。

(3)ポイント

裁判所は解雇が有効であるには副業が形式的に解雇事由に該当するというだけでは不十分であり、「解雇を相当とするやむをえない事情」が必要だとしています。そして、原告の副業を会社が黙認してきたことと、副業によって会社に損害が生じていないことから「解雇を相当とするやむをえない事情」はないと判断しました。

3.国際タクシー事件

(1)事実の概要

原告は、タクシー会社に勤務していましたが、父親が経営する新聞販売店で新聞配達、集金等を手伝っていたところ、そのことが就業規則の兼職禁止規定に該当するとして、タクシー会社より懲戒解雇されました。

(2)判決の要旨

  • 原告が父親の新聞販売店で行った業務は、父親から手伝いを強く懇請されたものである。
  • タクシー会社における所定始業時刻より前の約2時間であり、月収も6万円と比較的低額である。
  • このような原告の行為は、タクシー会社の労務の提供に格別支障を生ずるものではないものと認められるから、兼職禁止規定に違反するものと認めることはできない。

(3)ポイント

タクシー会社の就業規則には兼業禁止規定がありましたが、これに違反した場合の制裁として懲戒解雇のみが規定されていました。懲戒解雇というのは労働者にとって非常に厳しい処分です。そのことから裁判所は、「会社の企業秩序を乱し、会社に対する労務の提供に格別の支障を来たす程度のもの」が禁止されている兼業(副業)にあたると限定的に捉えています。

 

その上で原告の兼業について「労務の提供に格別支障を生ずるものではない」ため禁止されている兼業にあたらないと判断しています。

 

その一方で、原告はタクシー会社の勤務時間内において父親の新聞販売店を手伝い、15万円程度の月収を得ていた時期がありました。この行為について裁判所は、

  • 原告は勤務時間内に副業を行っている。
  • 副業による月収が15万円と高額である。
  • このような態様の副業を会社は許可していない。

といった点を指摘し「企業秩序に影響を及ぼし、労務の提供に支障を来たす程度に達している」として禁止された兼職に該当するとしました。しかし、最終的に解雇を無効としています。

 

なぜ解雇は有効とされなかったのでしょうか。

 

この点について裁判所は「兼職禁止規定に該当するとしても、これを理由に懲戒解雇まですることは、原告の蒙る不利益が著しく大きく、解雇権の濫用として許されない」と言っています。

3.会社と闘う最後の砦は「解雇権の濫用」

労働契約法16条を見てみましょう。「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とあります。これは兼業禁止規定に違反した場合の解雇にもあてはまります。

 

就業規則に定められた副業禁止規定に形式的に反するだけでは解雇は認められず、やむをえない事情の存在が必要になります。裁判例では「会社の企業秩序を乱し、会社に対する労務の提供に格別の支障を来たす程度のもの」といった要件が課されています(客観的に合理的な理由)。さらに、副業禁止違反の態様や程度と比較して解雇という処分が妥当といえることも必要です(社会的相当性)。

 

これらが認められない場合、解雇権の濫用として解雇は無効となります。

4.まとめ

裁判例を検討していくと、懲戒解雇となる副業とは何かが見えてきます。

 

まず、就業規則等に副業禁止規定があり、その違反が懲戒事由として定められていることが必要です。その上で、禁止規定に違反した場合の処分の程度に応じて実質的に副業とは何かを解釈します。国際タクシー事件で見たように、違反の効果として懲戒解雇のみが規定されているような場合には、特に会社に大きな影響を与えるか否かの観点から限定的に捉えることになります。さらに副業に該当する場合であっても、会社の対応や労働者の事情なども総合的に考慮した上で、解雇が濫用にあたらないかどうかを判断していきます。

 

このように禁止された副業に該当するとしても、会社が懲戒解雇するには、いくつかのハードルを越えなくてはなりません。副業に関するトラブルはできる限り避けるべきですが、もしもの時、こういった知識が役に立つことでしょう。

 

記事制作/白井龍