禁止されている副業が会社にバレてしまった。副業することは原則自由とはいえ、就業規則で禁止されているから懲戒処分を受けるか心配…。

 

こんな時、あなたならどうしますか?

 

政府は「働き方改革」として副業を後押しすることを決めました。厚生労働省のモデル就業規則においても、副業は原則禁止から原則容認へと転換される見込みです。とはいえ、副業容認への動きは鈍く、未だ多くの企業では禁止のままです。

 

そこで今回は、リスク管理として副業禁止違反に対する懲戒処分について詳しくみていきましょう。

1.副業禁止違反に対する会社の取り得る措置

まず、これまでのおさらいです。多くの会社が就業規則で副業禁止を定めています。厚生労働省が出しているモデル就業規則にも「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という副業禁止規定があります。

 

副業禁止規定に違反した場合、制裁としての懲戒処分が用意されています。

 

このように就業規則が副業することを懲戒事由として定めている場合、副業がバレると懲戒処分を受けることになります。

2.懲戒処分とは? 副業禁止違反でクビになる?

では、副業禁止規定に違反した場合、どういった懲戒処分がなされるのでしょうか。会社ごとに規定の仕方はさまざまですが、本稿では厚生労働省のモデル就業規則をもとにして、懲戒処分の実際についてみていくことにします。

 

モデル就業規則では、①けん責、②減給、③出勤停止、④懲戒解雇の4つの懲戒処分が定められています。

①けん責 始末書を提出させて将来を戒める。
②減給 始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。
③出勤停止 始末書を提出させるほか、○日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。
④懲戒解雇 予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。

 

一番軽い「けん責」は、始末書を提出させて反省を促すだけですが、「減給」以上の処分では賃金が減額されます。懲戒解雇となれば、賃金どころか労働者としての地位も失います。

 

懲戒処分として軽いものから重いものまで段階的に用意されているのは、懲戒事由に該当する行為が与える影響の大小に応じて、ペナルティである懲戒処分の程度を決める趣旨です。影響の小さな違反に対して、大きなペナルティを与えることは適切ではないと考えられているのです。

 

労働契約法は次のように規定し、このことを明らかにしています。

 

使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為を性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする(労働契約法第15条)。

 

会社は、どのような行為が懲戒事由となり、どういった処分をするかについて就業規則に定めることができます。モデル就業規則の第62条でも、具体的な懲戒事由とそれに対応する懲戒処分が列挙されています。

 

しかし、労働契約法が懲戒処分のあり方を制約しています。これまで取り上げた裁判例を見ても、懲戒解雇という重い処分が認められるケースは限定的です。いくら懲戒事由と懲戒処分を定めていたとしても、その定めに合理性がない場合、つまり、懲戒事由とそれに対応する懲戒処分のバランスが悪ければ、懲戒処分は権利濫用として無効になるのです。

3.これだけは押さえたい! 懲戒解雇の限界とは?

モデル就業規則の規定の仕方に注目してください。第62条は、同条第7号で副業禁止を定めた第11条を懲戒事由としていますが、懲戒処分としては「情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止」にとどめています。懲戒解雇は予定されていないのです。

 

モデル就業規則を見る限り、副業禁止規定に違反しても懲戒解雇という重い処分を受けることはありません。厚生労働省も副業禁止規定違反に対し、懲戒解雇という処分を与えることは適切でないと考えているようです。

 

でも安心するのはまだ早いです。たとえ小さな違反でも繰り返されれば、業務や社内秩序に与える影響は大きくなります。そうなれば懲戒解雇という処分も合理的だということになり正当化されるでしょう。

 

何事もやりすぎると痛い目にあいます。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」なのです。

4.まとめ

就業規則に副業禁止規定があり、その違反に対し懲戒処分が定められている場合、副業がバレれると懲戒処分を受けることになります。しかし、懲戒解雇という重い処分は、業務や社内秩序に与える影響が大きい違反行為に限定されます。

 

このポイントを知っていれば、もし、副業していたことが会社にバレて「懲戒解雇にする!」と言われたとしても、あわてずに対処できるはずです。就業規則違反に対し、会社が行う懲戒処分が必ずしも正しいとは限りません。会社との間でトラブルを抱えることは良いことではありませんが、いざというときのためのリスク管理として、就業規則の本質を知ることは大きな意味を持ちます。これを機会に就業規則の懲戒事由と、それに対応する懲戒処分をチェックしてみて下さい。

 

記事制作/白井龍