日本の産業面で大きな力となってきたイノベーションの形が変わりつつあります。ここでは、オープンイノベーションの定義や導入に至る日本企業の持つ背景、色々な形やジャンルから見るオープンイノベーションの事例、いま注目されているオープンイノベーション支援サービスの事例について説明しています。

新しい変革、オープンイノベーションとは

そもそもイノベーションとは?

物事を新しい切り口から見る、新しい活用法を見出す、物事と物事を結び付けて新しいものを生み出すなど、アイディアから新しい価値や意義を見出す事をイノベーションといいます。

イノベーションという言葉は1911年に、オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターによって定義され、日本では1958年の経済白書に「技術革新」と訳されて初登場しました。

現在の日本社会でも、新しい事業やサービスを展開する時や技術開発面で試みを行う際など、イノベーションはビジネスモデルの一環として多くの分野で取り入れられています。

日本のものづくりを支えてきたクローズドイノベーション

イノベーションの根本となる新しい切り口の提供元を企業などの組織の内側と外側どちらに求めるかによって、イノベーションの性質は全く異なってきます。

日本の戦後復興や高度成長期を支えたのは、高い技術力を持つ日本の製造業各社です。従来の製造業を含めた日本企業においてのイノベーションとは、企業内で技術開発や研究者を囲い込むことで行われるクローズドイノベーションが主流でした。

クローズドイノベーションによる技術開発や事業展開は、その企業独自の画期的な製品やサービスの誕生に繋がりました。最終的には世界にも認められる「メイドインジャパン」となり、高い技術水準を確立できたのです。

ところが、近年は他国の技術水準が飛躍し日本が追い上げられている状態で、メイドインジャパンの絶対的な信頼は揺らぎつつあります。特に安い価格で高性能な海外製品と海外メーカーの台頭は日本の大手企業を脅かす存在にもなっています。

現在は、従来の日本が行ってきたクローズドイノベーションでは新しいものを生み出せない、限界の状態に来ていると言えるでしょう。

日本のビジネスモデルを「革新」するオープンイノベーション

クローズドイノベーションに限界を感じている日本企業やサービスを救う存在として、近年注目されるようになったのがオープンイノベーションです。

オープンイノベーションとは、新しい切り口となる技術やアイディアを外部のありとあらゆる場所から提供を受け、それらを組み合わせて新しいものを作り出す、新しい形のビジネスモデル

です。

近年では、新しい切り口を得たい企業側と、企業に切り口であるアイディアや技術を提供して、ビジネスチャンスに結び付けたいベンチャー企業や起業家であるスタートアップ企業を結びつける手段としても、オープンイノベーションは活用されています。

提携タイプからみるオープンイノベーションの成功事例

クローズドイノベーションとは正反対の形となるオープンイノベーションは、日本経済の救世主となるのでしょうか。まず事例集の一つ目として、提携タイプ別に国内外で行われているオープンイノベーションの事例について触れてみましょう。

「大企業×ベンチャー企業」の事例

「トヨタ」×「カブク」

自動車メーカー大手のトヨタとベンチャー企業「カブク」が手を組み、トヨタの小型モビリティ・i-ROADのカスタムパーツ開発を行いました。デジタルマーケットプレイス「リンカク」を提供するカブクのデジタル技術をトヨタが3Dプリンターで実体化し、パーツ開発に導入した事例です。

「KDDI」xシードベンチャー

通信大手KDDIではシード段階のベンチャー企業を対象としたアクセラレータープログラム「KDDI∞Labo」と、そのベンチャー企業への出資プログラム「KDDI Open Innovation Fund」をスタートさせ、登録したパートナー企業の新しいビジネスチャンス拡大を目指しています。

「大企業×複数の中小企業」の事例

富士ゼロックス

プリンターや複合機製造販売大手の富士ゼロックスが「四次元ポケットプロジェクト」としてオープンイノベーション事業を展開、中小企業6社が参加・新製品の開発を行った事例があります。四次元ポケットプロジェクトでは、室内旅行機や望遠メガホンなど、富士ゼロックスの技術だけでは不可能だった製品の発表にも繋がりました。

ソフトバンク

携帯会社大手ソフトバンクでは、国内外問わず共同で事業化・商品化するパートナーを募集する「Softbank Innovation Program」をスタートしました。複数の中小企業やベンチャー企業が、ソフトバンクと手を組むチャンスを得られる事例です。

「大企業/ブランド×一般人」の事例

レゴ

レゴブロックでおなじみのレゴでは、ファンサイト「LEGO IDEAS」でレゴファンの一般人が作ったオリジナルモデルを公開しています。同時に同じファンからの投票を受け付け、多くの投票を集めたモデルは実際に商品化されます。一般人からのリソースを利用しているオープンイノベーション事例です。

GE

海外の大手家電メーカーGEでは「FirstBuild」で世界中のユーザーからアイディアを募集していましたが、さらにオープンイノベーション専用ページ「GE open innovation」を合わせて設立しました。一般公募アイディアの中で勝ち抜いたアイディア提供主をそこで発表、表彰する取り組みも始まっています。

オープンイノベーションを仕組み化した企業の事例

P&G

日本の外資系企業の中でも老舗のP&Gは、元々「こんなものが欲しかった」という消費者の目線に立った商品開発の為に、外部から研究員を招集したり、社内外から積極的にアイディアを集めたりするオープンイノベーションで商品開発を行ってきました。

企業としてもオープンイノベーションの取り組みである「コネクト・アンド・デベロップメント」を掲げています。

セコム

警備システム会社のセコムでは新たに「オープンイノベーション推進担当」を設置し、外部の連携や情報をまとめ、急速かつ恒久的なオープンイノベーションの導入に踏み切りました。

初めてのオープンイノベーションを成功させる鍵とは

オープンイノベーションのメリットとデメリットを把握する

オープンイノベーションの導入、もしくは参加を検討する時には、自社では生み出せないリソースが得られるメリットがある反面、情報や技術が社外へ流出しやすいデメリットもある事を把握しておきましょう。

メリットデメリットを把握しておけば、導入前に効率の良いリソース収集のための計画立てや、情報流出防止のためのセキュリティ強化やシステム構築をするなど万全の対策でオープンイノベーション導入に臨めます。

デメリットによるリスク回避は支援サービスを利用する

しかし、デメリットである外部への情報流出に対策を打ちつつ、同時に円滑かつ成功といえるオープンイノベーションを展開するには、外部への広報や営業活動などで多大な費用や時間がかかります。また、より多くのリソースを得るには複数のコネクションも必要です。

効率よくオープンイノベーションを行いたい時や、発掘しきれないスタートアップ企業を探したい時など、自社の力量では実現が難しい場合はオープンイノベーション支援サービスの利用が有効です。

オープンイノベーションに何を求めるかで支援サービスを選ぶ

展開している支援サービスやそれぞれの強みはオープンイノベーション支援サービスよって異なります。

また、オープンイノベーションを導入したい企業側なのか、大手にアイディアなどを提供したいスタートアップ企業側なのかによっても、支援サービスに求めるサービスは異なります。オープンイノベーションの目的に応じたサービス選びが重要です。

6つのオープンイノベーション支援サービスとその事例

ここでは、支援サービスを展開する企業別にオープンイノベーション支援事例を6つ紹介します。

Creww(クルー)

「クルー」は新しいリソースを求める企業側と、アイディアや技術を提供するベンチャーなどスタートアップ企業のオープンイノベーション支援を行っている会社です。

支援サービス〜crewwコラボ〜

オープンイノベーションのプラットフォームである「crewwコラボ」を通じて、コラボ企業としてオープンイノベーションを導入したい企業とスタートアップ企業を支援しています。現在総提案数2,676件、プレゼン554件、採用296件の実績があります。

支援サービス〜crewwものづくり〜

また、具体的な製品化やサービスの実現化に向けて、実際の工程や期間の提示、プロトタイプ作成や量産体制の構築など、「ものづくり」に特化した支援サービス「crewwものづくり」も行っています。

支援事例

  1. 紙媒体の限界を感じていたスポーツニッポン新聞社がコラボ企業としてcrewwコラボに参加、現在13社のスタートアップ企業との継続的なオープンイノベーションを展開しています。
  2. 「スマートなカーライフの提案」をスタートアップ企業に求めたカー用品専門店「オートバックス」を手掛けるオートバックスセブンがコラボ企業として参加、現在5社のスタートアップ企業と新規事業展開を進めています。

01BOOSTER(ゼロワンブースター)

01BOOSTERはアクセラレータープログラムを主軸とするオープンイノベーション支援会社です。

支援サービス〜Corporate Accelerator〜

「01BOOSTER」は起業家と大手・中堅企業のオープンイノベーション支援である「Corporate Accelerator」を展開しています。キリン、森永、学研、JTB、ヤマハ、LXIL、Nikon、三井地所などの大手企業の他、クックパッドなどのインターネットサービス、東北などの地域まで、幅広い企業や地域、団体がCorporate Acceleratorとして登録しています。

支援サービス〜モヤモヤソンなどのイベント、セミナー〜

Corporate Acceleratorの他にも働き方やビジネスアイディアのもやもやをディスカッションする「モヤモヤソン」や、企業に関するお金についてのセミナー「01Booster x 日本政策金融公庫」など、ベンチャー企業や起業家への各種支援イベントも多数開催しています。

支援事例

  1. 森永がスタートアップ企業を募る森永アクセラレーター2017を開催、選抜企業となった日本初のトレーニング専用フードデリバリーサービスを展開するマッスルデリと3か月間のサービス実証実験を展開。実際にマッスルデリの提供する専用フードを食べつつ、トレーナーによる食事と運動指導を行い健康な体つくり及びビジネスへの効果を検証します。
  2. ヤマハは「日常をもっと面白く」を掲げヤマハアクセラレーターを開催、7社のスタートアップ企業とのオープンイノベーションを進めています。

Samurai Incubate(サムライインキュベート)

支援概要〜国内外問わず幅広いスタートアップ支援を行ってるVC〜

「サムライインキュベート」は、アジアを代表するスタートアップの聖地になることを目標に掲げ、国内外問わず幅広いスタートアップ支援を行ってるベンチャーキャピタルです。

支援事例

  1. コワーキングスペースとして活用できるSSI(Samurai Startup Island)を天王洲アイルに設置。幅広いジャンルや職業の人が集まる拠点としての役割と同時に、オープンイノベーションが自然と生まれる環境整備を行っています。
  2. 2016年6月にはイスラエルに「サムライハウス」を開設。また、国内、北米、イスラエル、東南アジア圏で起業家支援のためのイベント「サムライベンチャーサミット」を開催するなど、世界各国と対面する支援を提供しています。

ナインシグマ

支援概要〜技術開発を軸にしたオープンイノベーション支援〜

ナインシグマは主に技術開発におけるコンサルティングや仲介を通じたオープンイノベーション支援を行っている会社です。世界中の研究者から直接技術開発パートナーが探せるサーチや、国内企業、大学の技術開発仲介などを行っています。

支援事例

  1. 年間1000基の送電線塗装のメンテナンスにおいて、将来の労働力不足対策のため省略化を求めている東京電力に技術力提供のオープンイノベーションを仲介。塗装メンテナンスロボットの開発とシドニーブリッジ塗装で事業化実績のあるシドニー工科大学、及びへび型や象の鼻型ロボットなどの開発実績のある立命館大学との共同開発を進めた事例があります。
  2. フィラメントワインディングの装置開発において技術力改新を求めていた豊田合成のオープンイノベーションを支援。世界各国の関連企業からの提案が集まり、欧米企業との装置開発提携に向けて検討に進んだ事例があります。

アスタミューゼ

支援概要〜asta*ENjiNE(アスタエンジン)〜

アスタミューゼは新規事業の事業化やオープンイノベーション支援、経営の意思決定や希少な人材の採用支援、技術データ分析などのサービス展開を行っている会社です。

オープンイノベーションの包括的支援を行う「asta*ENjiNE(アスタエンジン)」のリリースや、イノベーションに必要となる世界80か国以上、1億件以上に及ぶ知的データベースを保有しています。

支援事例

  1. 新開発した技術で新たな市場での活動を希望していた食品メーカーに対して、技術分析の元で提携候補になるベンチャー企業や大学を提案、新市場の発見につなげた事例があります。
  2. 自社の研究テーマが世界的なニーズと合致しているかを知りたい化学メーカーに対して、自社研究と世界の化学メーカーの研究比較を行いました。研究事例と認識のズレの明確化に繋がり、研究費用の大幅なコストカットや効率的な研究計画展開に進んだ事例もあります。

サーキュレーション

支援概要〜外部のプロ人材を軸にしたオープンイノベーション支援〜

「サーキュレーション」は個人の持つスキルや業務経験を生かして企業と結びつける、プロフェッショナル人材の紹介や経営コンサルティングなどのサービスを展開す会社で、事業サービスの一環としてオープンイノベーション支援を行っています。(このNomad Journalの運営会社です)

支援事例

  1. 2015年に株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)の子会社で決済代行サービスを提供する株式会社ペイジェントとジープラス社の提携を進めた事例があります。
  2. 2017年にはサーキュレーションの専門家をフジサンケイグループの株式会社ジープラス・メディアの新規事業開発へのアサインするなど、幅広いオープンイノベーション支援事例があります。

まとめ

新規事業展開やサービス、商品開発に手詰まりを感じている既存企業側、そして新しいビジネスチャンス拡大の手法や自社の持つ力を効率的に売り込みたいと考えているスタートアップ企業側、双方にオープンイノベーションはプラスになることが分かりました。

支援サービスの利用で導入へのハードルも下がりますので、オープンイノベーションが一般的な日本のビジネスモデルとなる日も遠くないのかもしれません。

執筆者:森野 ミヤ子

出産を機にフリーランスに転身、副業が本業に。育児をしながらフリーライターとして活動中。幅広いジャンルの執筆実績あり、自身の経験を生かした副業やフリーランス関連記事も得意。