2015年、国連によってSDGs(持続可能な開発目標)が国際目標として採択されたことにより、規模を問わず世界中の企業・団体がSDGsの達成に向けた取り組みに乗り出しています。
貧困、教育、ジェンダー、健康、環境をはじめとする17項目の大目標に対し、合計169のターゲットが設定されているSDGsですが、そもそもなぜこれらの目標が採択されたのか、なぜ企業が取り組まなければならないのか、実際にどう取り組むのか、詳細な背景まではなかなか周知に至っていません。
その状況を打破するため、「世界中の経験・知見が循環する社会の創造」というビジョンのもと、外部プロ人材の経験・知見を複数の企業で活用するプロシェアリングサービスを運営し、企業の抱える課題の解決、ミッションの達成を支援するサーキュレーションと、SDGsの経営への実装などを目的としたコンサルティングや講演・セミナーをメイン事業としているSDGパートナーズ社が業務提携し、「SDGsコンサルティング育成カリキュラム」を開始することになりました。
今回のカリキュラムを通じて、SGDsはじめサスティナビリティにおける知識・ノウハウを有しコンサルティングスキルに長けた専門家の方々を輩出することで、企業が本質的にSDGsに取り組み、経営実装できる支援を実行し、持続可能な企業経営と社会の実現を目指します。
今回は、SDGパートナーズCEOである田瀬氏と、サーキュレーションが社会課題解決を目的に設立したソーシャルデベロップメント推進室で代表を務める信澤が対談。そもそもSDGsを軸に世界が動き始めている背景をはじめ、育成カリキュラムの実施背景についての後編をご紹介させて頂きます。
- SDGs育成カリキュラムとは
- SDGsはなぜ必要?国連に採択されるまでの背景と流れ
【業務提携特別インタビュー(前編)】 SDGsコンサルティング育成カリキュラム開始!—サーキュレーションとSDGパートナーズが目指す持続可能な社会と経営—
企業がSDGsに取り組むことで抱く危機感と享受できるメリット
(信澤)企業様からは、「SDGsは国や大企業が取り組むもの」、「SDGsは社会貢献活動としてCSR部門が担当するもの」、もっと言うと「取り組むメリットは何なのか」と言う声も本音としてはありそうです。
SDGsに取り組むメリットとして、どのような点があげられるのでしょうか。
(田瀬)狭義的な部分でありながら大きな要素となるのは、”SDGsに取り組むことで他社の情報が入ってくる”ということです。他社の取り組みを見てみると、意外にも”自社が遅れている”ということがわかることがあります。
例えば製造業ではない大企業が「大して電力も使っていないし、紙も節約できている」と思っているとします。それがSDGsやESGに取り組むことになって世界レベルの競合と自社を比べてみると、日本の企業は非常にスコアが低いというケースがほとんどです。売上だけを見ていては知り得なかった事実がわかります。
アパレルで言えば、H&MやAdidasといった企業は、環境であれサプライチェーンマネジメントであれ、20年前から徹底してさまざまな取り組みを行なっていて、日本のはるか先を走っています。そこでようやく日本の企業は危機感を覚えるわけです。
(信澤)中小企業にとっては、先ほどお話頂いた大企業の取り組みによってサプライチェーン上の企業が影響を受けるリスク回避には繋がりそうですが、メリットに関してはどうでしょうか。
(田瀬)メリットで言えば、”人材確保の側面”が挙げられます。
SDGsについて、やはり就活中の学生に聞かれるわけです。きちんと取り組んでいれば女性にとって働きやすい職場をどのように作っているか、働き方改革はどうしているか、社会的にどのような目的意識を持っているのかといったことを語れます。
今の学生の志向としては社会の役に立ちたい、人から感謝されたいという欲求が強くなっているのですが、Z世代のそうした方向性と、財務一辺倒な方向性は完全にズレてしまっているのが正直なところ。そこをSDGsによって修正できるという利点もあると思っています。
(信澤)弊社でも実際に経営会議の中でサスティナビリティに関する議題をあげ、役員陣で”サーキュレーションとしてSDGsに対してどう考え、どう取り組むか”の議論をしています。
実際にSDGsに対して考え始めてみると、もともとの創業理念や会社の社会的な役割にもう一度立ち返ることもできますよね。数値としての成長のためだけではなく、”社会に対してこういう意義があるからこそ、うちの会社は存在しているのだ”、という最初の想いに戻ってくる。財務面の成長はもちろん重要ですが、戦略の中心を従業員の幸せや社会貢献という軸と両立させることができるようになれば、中長期的には非常に大きな価値となると感じます。
本気でSDGsを推進する際に手助けとなるのが外部人材の存在
(信澤)田瀬さんは数多くの企業様に対し、外部パートナーとしてSDGs推進の支援をされていらっしゃいますよね。
このような経営理念や価値観に触れる取り組みにおいて、外部パートナーだからこそできることはどのような部分にあるとお感じになられますか。
(田瀬)そうですね、関わり方は様々ですが外部パートナーだからこそ、企業に対してはっきりとした指摘や社会の流れを踏まえた上での俯瞰した意見ができますよね。社会からはSDGsへの対応が必要とされていることを認識しつつも、社内での議論だけでは妥協しそうになる点や先延ばしにしてしまう可能性があるのが実情かと思います。
だからこそ、本気でSDGsに取り組んで良い会社にしようと思ったら、「これをやらなければ」と言える人物が必要だと思っています。
(信澤)今回のカリキュラムによってそのようなプロ人材が増えることで、外部パートナーとしてSDGsを考慮した経営の支援ができる状況を実現したいですね。クライアント企業様から言われたことをやるという意味でのクライアントファーストではなく、今後の社会の流れを踏まえた持続可能な経営を実現するためのコンサルタントが増えることは非常に付加価値も上がっていくと予測できますね。
また、実際に中小企業の経営者様からは、「SDGsは理解していても、経営への取り込み方がわからない」「SDGsと事業の紐付けで終わってしまい、事業戦略にいかせていない」というご相談も増えてきています。企業ごとに価値観や取り組みが問われるものではありますが、それを実行する上で、SDGsに関する経験や知見がある外部パートナーが増えれば、目の前の課題解決に加えて中長期的な社会的価値を上げていくことができるような、企業様の期待を越えたパートナーシップが組めるかもしれません。
講義終了後の質疑応答と意見交換。専門家と田瀬さんというやり取りだけではなく、専門家同士の知の共有の場になっている。
一人ひとりが自分らしく生きられる社会の土台をつくる
(信澤)私たちは「知のめぐりをよくする。」というメッセージを掲げているのですが、今回田瀬さんとご一緒させて頂き、田瀬さんが世界を舞台に経験し得て来られた知見を、日々企業様と対峙している専門家のみなさまに共有頂くことで、”社会を良くするための、知のめぐりをよくする”ことが目の前で実現されていると感じています。
「これは”誰か”の問題なのではない。地球上に存在する”私たち”の問題なのだ」と一人ひとりが強い当事者意識を持って取り組んでくださっています。専門家の方からまた別の専門家へ、専門家の方から企業様へ、企業様から企業様へとよい連鎖が生まれ、日本の社会システムやこれまで当たり前だと思われてきた価値観にも影響し、”誰かの利”ではなく”社会全体の利”を考えられる、まさに”誰一人取り残さない持続可能な社会”を創っていきたいです。
(田瀬)私たちが経営者の方々に説いているSDGsの世界は、世代や性別、人種を越えたすべての人たちが自分らしく生きられるようにする、非常に規模の大きなものです。特に日本においては、男女の価値観や働き方の根本についてまで問いかけるようなSDGsの在り方を提供していく必要があると感じて日々活動しています。それが、今後はもっと当たり前のものになってほしいと思っています。
そのためには今回の育成カリキュラムを通して、プロ人材の方々にSDGsや国際目標に対して高い視座を持ってもらわなければなりません。”ESGの点数を何点上げましょう”といったことではなく、”社会にとっての企業価値を上げていくために、こういうことをしていきましょう”というレベルの提案ができる人が一人でも多く輩出されることを願っています。そういった専門家の方が企業のコンサルティングを行うことで、「日本の企業が経済界の中でお金を稼ぎながら社会に対して善を為すのは当たり前で、なおかつそれがSDGsの本懐である」ということを誰もが認識する状況が創れると思っています。
そうなれば企業の利益率が上がるだけでなく、日本人の価値観そのものにも変化が及ぶかもしれません。すると、国際社会に対して日本が提供できる価値も変わってくる。今までのODAは短期的な国益のために行なってきた部分が大きいのですが、それが日本企業のビジネスの価値そのものをODAとして世界に提供できるようになります。それこそが、SDGsの叶えたい社会なのです。
格差も差別もなく、一人ひとりの人権が守られ、潜在能力が発揮される世界が、いずれ来なければなりません。その土台を私達の世代でしっかり築き上げることが、人材育成の先にある目標だと思っています。