第2回ジャパンSDGsアワード受賞、資源リサイクル率12年連続日本一を達成し、自治体を代表するSDGsの推進モデル、SDGs未来都市にも選ばれた鹿児島県大崎町。

一般社団法人リバースプロジェクトは2018年から鹿児島県大崎町と連携を開始し、2019年1月、正式に連携協定を締結。大崎町と協働で活動推進をしています。

そして今回、プロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する株式会社サーキュレーションと、様々な主体と共同で持続可能な地域・社会づくりに取り組む一般社団法人リバースプロジェクトが、リバースプロジェクトと鹿児島県大崎町が協働で取り組むSDGs推進プロジェクトと連携し、地域と組織を超えたプロジェクト組成による社会課題解決に向けた取り組みをスタートさせます。

今後、大崎町にとどまることなく、持続可能な日本、地域、人々の生活の実現に向け、我々は何をすべきなのか。地域と組織を超えた連携による社会課題解決に向け、ソーシャル・パブリック・ビジネスセクターと切り口の異なる3者がプロジェクト連携を開始し仕掛けていく、コレクティブインパクトの構想とは?

全国へ活動拠点を広げ持続可能な地域・社会づくりに取り組むリバースプロジェクトの齊藤氏、東京都神宮前にオフィスを構えるサーキュレーションでSDGsをはじめとする社会課題解決に向けた取り組み推進を行う信澤氏、そして今回のプロジェクトの舞台でもありSDGs推進を牽引してきた鹿児島県大崎町 中野氏・宮下氏。SDGs推進プロジェクトについて、リモート対談を実施しました。

「大崎町はもっと活性化できる」意識が高まるきっかけは自治体のオープン化

(信澤)改めてよろしくお願い致します。リモート対談は初めてですが、こうして顔を合わせてみると、場所もセクターも関係なく、同じ目的に向かえることを感じています。

(齊藤)今回のプロジェクトに向け、大崎町役場から大崎町でのSDGsの推進や外部との連携を仕掛け、リバースプロジェクトとの連携の窓口でもある中野さんと宮下さんに参加頂いています。よろしくお願いします。

(中野)このように町以外の方々と同じ目的でプロジェクト進めることができることを心強く思っています。よろしくお願い致します!

SDGs推進モデル事業として選ばれるまでの大崎町のストーリー

(信澤)まず最初に、大崎町がなぜSDGsアワードを受賞し、SDGs推進モデル事業としても選ばれる町となったのか、これまでの活動の歴史について、お二人から詳しく聞いてみたいです。

リサイクル率日本一、2019年7月にSDGs未来都市に選定、大崎町がこのような形で注目されるに至る前から、「自分たちで町をよくしていこう」という意識や活動があったのでしょうか?

(宮下)私はまだ11年目の職員ですので、それ以上深い歴史は中野さんにお話頂くとして。リサイクルの取り組みが始まったのが20年ほど前で、実際に町全体で「変化していこう」という雰囲気が生まれたきっかけはふるさと納税だと思っています。2015年にふるさと納税の寄付額実績が全国で4位、27億円に至ったんです。4位と言っても上位3つは市で、町村としては1位でした。大崎町としても「より活性化した町になるポテンシャルを持っているのでは」と気付き始めたんです。

(信澤)なるほど。ふるさと納税の寄付額実績で全国4位になったことをきっかけに、これまで自分たちで気付いていなかった町の魅力やポテンシャルに気付き、「もっと町に対して取り組めるのでは」という流れができていったのですね。

株式会社サーキュレーション ソーシャルデベロップメント推進室 代表 信澤 みなみ株式会社サーキュレーション ソーシャルデベロップメント推進室 代表 信澤 みなみ
「一人ひとりが自分らしく生きる社会を創る」を軸に2014年サーキュレーションの創業に参画。成長ベンチャー企業に特化した経営基盤構築、採用人事・広報体制の構築、新規事業創出を担うコンサルタントとして活躍後、人事部の立ち上げ責任者、経済産業省委託事業の責任者として従事。現在は、企業のサスティナビリティ推進支援を行うソーシャルデベロップメント推進室を立ち上げ、企業のSDGs推進支援やNPO/公益法人との連携による社会課題解決事業を推進。

(宮下)はい。そしてちょうど同時期に国連サミットではSDGsが採択され、特に2018年の4月から大崎町における環境への取り組みも加速していきました。鹿児島相互信用金庫さん、慶應義塾大学SFC研究所の先生と連携協定を結んで「生活者発想によるSDGs事業創造研修プログラム」をスタートしたことで学生がフィールドワークで訪れたり、齊藤さんにも来ていただいたりして人の出入りも活発になりましたね。

取り組みの結果環境に関する表彰もいろいろと受け、2018年の12月には第2回ジャパンSDGsアワード内閣官房長官賞も受賞しました。そこに続いてSDGs未来都市に選定されたんです。

外部からの評価を通じて知った自分たちの可能性

(中野)齊藤さんからも「大崎町はすごい町だ」と評価もいただいて……。こういった成功体験が積み重なったことで、「大崎町ならもっといろいろな取り組みができるのではないか」という自信ややりたい意欲が職員の間にも広がっていった感じです。

(齊藤)大崎町は外部の人の意見を積極的に取り入れようと勉強熱心な職員さんが非常に多く、行政と付き合っているよりもベンチャー企業と付き合っているようなフットワークの軽さを感じさせる自治体で、リバースプロジェクトとしてもスピード感を持って連携の流れとなりました。

ふるさと納税で4位になったのも、JTBさんと積極的にパートナーシップを組んで町だけではできないようなプロモーションを積極的に仕掛けていかれていた。外部の力をうまく取り入れながら、自分たちの魅力を整理したり広げるために、最適な取り組みを行うことにとても前向きな町だと感じています。

(中野)元々大崎町は、うなぎや鶏肉、パッションフルーツといった食材の生産量が日本一で食料自給率は400%だったのですが、生まれた頃からこの町に住んでいるとなかなかその魅力には気づけない。それに観光や広告予算も組んでいなかったのでノウハウがなく、役場だけでは成果が上がらず課題感を持っていました。

そこで、2015年にふるさと納税の担当者が「自分たちだけで取り組むのではなく、外部と連携し時間も予算もかけて取り組もう」と意を決してJTBさんと提携し、プロモーションの仕方を変えたんです。勝負をかけた結果、大崎町が持っていた要素が引き出され、全国に広げることもでき、外部との連携への前向きな意識や、自分たち自身も大崎町の魅力や可能性に気づくことに繋がることができました。

(宮下)まさに、自治体職員だけで議論するのではなく、僕自身もフィールドワークで学生が大崎町のリサイクルの価値を発表するのを見たり、齊藤さんたちとリサイクルの現場を訪れたりすることで大崎町の価値を感じる機会は多かったです。町の外の人たちからの感想や反応を知ることで、自分たちの持つ課題や可能性とは何なのかを改めて考えさせられる期間でもありましたね。

一般社団法人リバースプロジェクト プロデューサー/クリエイター 齊藤智彦とnobusawa@circu.co.jp一般社団法人リバースプロジェクト プロデューサー/クリエイター 齊藤 智彦氏
1984年東京都生まれ。日本の高校を中退後、中国北京の中央美術学院に留学。北京、ニューヨーク、ベルリンでアート活動ののち帰国。2012年からリバースプロジェクトに合流(現在一般社団法人リバースプロジェクト理事)慶應義塾大学SFC研究所にて地域政策についての研究・実践を経て、クリエイティブを活用した都市・地域へのアプローチをテーマに、日本各地でプロジェクトを展開。
2019年1月一般社団法人リバースプロジェクトと鹿児島県大崎町で連携協定を締結。一般社団法人リバースプロジェクトから大崎町に出向し、外部との連携により政策を推進する政策補佐監に就任。大崎町を舞台に様々な主体と協働で未来の社会づくりに挑戦中。

SDGsモデル事業という一つの結果に至るまでに大崎町が経験してきた苦況

全国No1リサイクル率に行き着くまで

(信澤)2015年以降、大崎町のポテンシャルを町全体で感じ始め、国連サミットでSDGsの採択をきっかけに環境配慮への取り組みも加速していった結果が2018年のジャパンSDGsアワード受賞とSDGs未来都市への選定に繋がっていったのかと思いますが、元々リサイクルをはじめとする環境への取り組みはどのような背景があって力を入れられていたのでしょうか?

(中野) 1つは1998年に埋立処分場が満杯になってしまうという現実と危機感から、熱意ある職員が立ち上がり、リサイクル活動を始めたことです。

大崎町にはゴミの焼却炉が無いんですよね。そこで15年計画で埋立処分場を作ったのですが、予定よりも早く埋まりそうだということで、焼却炉を新しく設けるのかあるいは埋立処分場をもう一つ作るのかという議論になりました。

しかし、焼却場を作るとなれば数十億円の建設費と数億単位のランニングコストがかかります。かと言って新たに埋立処分場を作れば悪臭など環境面のデメリットがあるので、住民の賛同を得るのが難しくなる。どちらもデメリットが大きいなら、リサイクルをしようという結論になりました。環境を意識したわけではなく、大崎町が今後も生き残るためにスタートしたんです。

もう1つは、平成の市町村合併です。こちらがとにかく大変で、大崎町は合併か単独かで町民が真っ二つに対立し、住民投票まで行われました。結果は僅差で単独となったのですが、合併しなければ国からの補助金は受けられません。このままでは世の中から振り落とされてしまうのではないかという強い危機感を抱き、当時35歳だった私も含め若い職員たちが個人的に夜な夜な集まっては、今後の大崎町についてずっと話し合っていました。

単独が決まってから、今なら当たり前のことですが女性職員のお茶汲みをやめようとかマイボトルを持ってこようとか、行政文書の発送も委託ではなく職員が担当しよういったように、ほかの町に負けないようにゼロ予算事業を進めていきました。その地道な取り組みと結果が、リサイクル率日本一に繋がっていきました。

地域経営の意識と積極的な社外連携

(齊藤)自治体の皆さんが経営感覚を持っていたり、生き残るための戦略を選択してきたという点は僕も強く印象に残っています。市町村合併という危機から自治体としてどうしていくべきなのか、当事者意識を持って取り組み続けた結果が今の成果につながっているということですよね。自分としてはそうした「自分たちで様々なことに創意工夫を持って実施して来た経験」によって、大崎町には新しいことにチャレンジできる土壌が出来上がっているのだろうと感じますし、僕たち自身もこういう環境ならすごく面白いことができそうだと感じたことが連携の決め手にもなっています。

(中野)一方、私の世代がそれなりの地位に就いて町の政策に影響を与えられるようになってから感じたのがマンパワーの不足です。ポテンシャルはあったとしてもそれをどうやって全国にアピールするのか、戦略の部分は外部の力が必要だと思いました。それでお互いに利益が出ればwin-winですからね。そういう経緯があって、リバースプロジェクトさんに協力いただくといった体制に至っています。ある意味ベンチャー気質かもしれませんね。

img鹿児島県大崎町役場のお二人とリモート対談を実施
img今回のプロジェクトの窓口となる鹿児島県大崎町役場 企画調整課の皆様
左から)課長補佐 中野伸一氏/ 政策調整係主任 宮下功大氏 / 企画政策係長 中村健児氏

生き残るだけではなく、より良い町に、そして全国へ。
持続可能な社会づくりにはセクターを超えた外部連携が鍵となる

(信澤)大崎町の取り組みを伺っても、限られた予算や人材リソースの中にも、そこには大きな意識と共感があってこそ取り組みが動き続けてきたと感じます。大崎町の意識や魅力を知った町の人や外部の人が「自分事」として共感し取り組みとして進める力が大きくなっていった。

地域も社会も一筋縄にはいかない現状がある中で、今までの延長ではなく「こうありたい、あるべきでは」という一見実現できるかわからないと感じるような大きな理想を掲げながら、いかにして知ってもらい共感を生めるか。元々は大崎町の方々の強い意識が起点になっていて、それが自分たちにはない新しいノウハウを取り入れ、自分たちだけではできなかった仕組み化や持続可能なモデルづくりに繋がっていると感じます。
今回の3者連携や、今後についてはどのようにお考えですか?

(宮下)直近は、SDGs未来都市計画を具体的な施策で進めていくための課題に意識が向いていますが、そもそもリサイクルシステムは持続可能なものなのか、本当に環境にとって良いことなのかという議論も必要です。

今、リバースプロジェクトさんをはじめとするいろいろな方々との協働体制が整ってきた中でこのような課題がどんどん出てきているわけですが、大崎町は人材も財源も限られています。課題を解決するためにどうやって今後人を呼び込むのか、外部との連携を加速させて行くか、”企業版ふるさと納税”などを通して今後予算をどう増やして管理いくのか中長期の見通しを踏まえて取り組みを行える体制が特に重要だと考えています。

(中野)まさに、持続可能性はどの自治体にとっても重要なキーワードですよね。今日より明日、明日より明後日をより豊かにしていくための積み重ねが自治体ですから。

その中で大崎町は、人口減少や過疎化、高齢化といった社会問題もほかの自治体と同じように抱えています。職員も減っていくわけです。ですからそこをやはり、サーキュレーションさんのプロシェアリングを通じて、仕組み化のプロフェッショナルの方々にも大崎町を知ってもらい、協力してもらい、知見を補っていきたい。

これまで培ってきたリサイクルという大崎町の強みがあります。1を2にしていくという世界を実現していきながら、大崎町がモデル事業となった実績を成功事例として全国に広げていけたら一番いいですね。

(齊藤)宮下さんのおっしゃるとおり、今後は新たなイベントやプロジェクトを外部の方々とともにどうスムーズに推進するのか、具体的な体制整備が必要です。また、協力してくださる企業や投資家の方に対して大崎町の活動の意義や透明性を高めていくことも重要になるでしょう。

大きな賞を受けて、今大崎町は注目を浴びています。だからこそ、自分たちをもう一度見つめ直すフェーズであるとも感じますね。「大崎町はすごい」というのは確かなのですが、モチベーションを上げていく一方で「まだまだできていないことがたくさんある」「自分たちのやっていることは本当に正しいのか?」という感覚が麻痺しないようにしなければいけません。

自分たちが何に困っていて、何ができて何ができないのかを伝えてこその外部とのパートナーシップです。自治体内だけで話し合うのではなく、外部の方々と関わるからこそ、そのような課題を意識し続けるとも言えるかもしれません。素敵な賞をもらってそれを自慢し守ろうとするのではなく、そこにある課題を正々堂々と認めて、情報を公開し、それら課題を解決するために外部と連携する。それが本気の自治体の姿なんだと思います。

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(齊藤)現在大崎町で進めているプロジェクトは、大崎町を舞台にはしていますが大崎町だけのメリットを目的としていません。むしろ大崎町での課題解決を通じて、如何に社会や地球環境の問題を解決するかを目的としています。そうした社会的な課題に取り組むからこそ、多様なセクターの共感を得ることが出来るのだと感じています。今後そうした意識を更に徹底しながら、プロジェクトを進めていきたいと考えています。

(信澤)一つの町の成功事例を成功事例で終わらせず、それをどう持続可能にしていくか。そしてその一つの町の成功事例をいかに全国へ展開し、持続可能な日本全体をつくっていけるか。これはもう、一つの自治体内だけでの話ではないですよね。

ソーシャル・パブリック・ビジネスセクターがそれぞれの強みを活かし合い、持続可能な仕組みを創りながら、地域に関わる当事者を増やしていく。自分たちが生きる社会ですから。分断せずに、共感と知の循環で、持続可能な社会を創ることに繋がる事例として取り組んでいきたいですね。