SOCIAL DEVELOPMENT by CIRCULATIONでは、「プロシェアリングで社会課題を解決する」ことを目的に、ソーシャルセクター、ソーシャルビジネス事業様のビジョン・プロジェクトと、経験・知見を有するだけではなく社会課題解決に関心や当事者意識の高いプロフェッショナル人材を繋ぎ、「Probono Sharing」として社会課題を共に解決するキッカケを創出しています。
今回はSOCILAL DEVELPOMENTがご支援させて頂く、最前線で社会課題解決に取り組む団体・企業様の代表の想いをインタビュー。ソーシャルセクター、ソーシャルビジネスに知をめぐらし、共感・共創による持続可能な社会の実現に向けたProbono Sharing特集としてご紹介していきます。
スリール株式会社が目指しているのは、「自分らしいワーク&ライフの実現」です。特にメインとしているテーマは、日本の社会課題の一つでもある出産後や介護などライフイベントにあたっても、家庭も仕事も両立できる環境を社会全体で創ること。事業としては大学生、若手社員、男女問わない子育て中の社員、マネジメント層など幅広い領域でコンサルティング、研修、教育を行なっています。同社の設立の背景には、創業者である堀江さんが学生時代から抱いてきた社会問題解決への想いがありました。なぜ堀江さんが起業に至ったのか、日本社会が解決すべき働き方、生き方の課題とは何なのか。そして自分らしいワーク&ライフとはどのようなものなのか、じっくりお伺いしました。
(左)スリール株式会社 代表取締役社長 堀江敦子/ATSUKO HORIE
2007年日本女子大学社会福祉学科卒業。大手IT企業勤務を経て2010年25歳で起業。仕事と子育ての両立を体験するインターンシップ「ワーク&ライフ・インターン」の事業を展開。経済産業省「第5回キャリア教育アワード優秀賞」を受賞。現在は、“子育てしながらキャリアアップできる人材と組織を育てる”をコンセプトに、企業向けに若手女性・復職社員・管理職向け研修を展開している。内閣府「男女共同参画会議専門委員」、厚生労働省「イクメンプロジェクト」や「ぶんきょうハッピーベイビー応援団」など複数行政委員を兼任。
(右)株式会社サーキュレーション ソーシャルデベロップメント推進室 代表 信澤 みなみ
2014年サーキュレーションの創業に参画。成長ベンチャー企業に特化した経営基盤構築、採用人事・広報体制の構築、新規事業創出を担うコンサルタントとして活躍後、人事部の立ち上げ責任者、経済産業省委託事業の責任者として従事。現在は、企業のサスティナビリティ推進支援を行うソーシャルデベロップメント推進室を立ち上げ、企業のSDGs推進支援やNPO/公益法人との連携による社会課題解決事業を推進。「一人ひとりが選択肢を持ち、誰もが自分らしく生き合える社会をつくりたい」
ボランティアや企業の現場で痛感した、日本の生きづらい側面
――堀江さんが会社を立ち上げるに至った背景について教えてください。
スリールは2010年11月1日設立の人材育成の会社で、企業様向けには研修やコンサルティング、大学生向けにはライフキャリア教育事業を手掛けています。私個人としては内閣府の男女共同参画会議における専門委員や、千葉大学教育学部でライフキャリア教育の講義なども行なっています。以前は大手IT企業に務めており、25歳で起業しました。
創業までの経緯は学生時代にまで遡ります。中学生時代は子ども好きが長じて200人以上の子どものベビーシッターをしていて、高校、大学に進んでからは認可外の保育園や国内外30以上の施設で子どもや障害者、高齢者に対するボランティア経験を積んでいました。そこで痛感したのは、”日本がいかに生きづらい側面を持った国なのか”ということです。子どもを産み育てる、介護をするといった当たり前のライフステージの変化によって、自分らしい生き方が阻害されてしまう実態を知りました。さらに言えば、そういった現実があるにも関わらず、子育てや介護に関して学ぶ機会もありません。誰しもに訪れる少し先の未来を学び、その上で自分らしく生きられるような環境をつくっていきたい。そう思ったことが、私個人の最も大きな創業のきっかけです。
その中でも特に子育てにフォーカスすることとなった理由は、前職で働いていたときの経験に起因しています。すでに10年前の話ですが、当時所属していた部署ではワーキングマザーが大勢働いていました。しかし彼女たちに話を聞くと、17時に帰宅はできても働きやすいとはあまり感じていない。特に印象的だったのが営業成績トップだった女性の話です。旦那さんも同じ営業部で成績は彼女の方が上だったのですが、育休から復帰して17時に帰宅するようになってからは営業アシスタントのポジションになり、当然成績も下がってしまいました。上司に訴えても、「17時に帰る限りは仕方がない」という回答です。時間制約があるだけで活躍できない。また営業成績トップを取るほど優秀な人材であっても子育てと仕事を十分に両立できないのだとすれば、ほかの人にとってはなおさら難しいはずです。これは会社を変えていかなければならないと奮起し、同期50名ほどに声をかけました。ところが、共感はしてくれても一緒に変革を行なってくれる人は居ませんでした。当事者の人の声は届かず、当事者の手前の段階の人は問題に無関心だったのです。これでは、当事者手前の人が当事者になったときに同じ悪循環が起こります。
解決のためには、まず働きづらくなる手前の段階から問題を意識してもらわなければなりません。「仕事と子育てのリアル」を知ってもらい、その上で自立的にキャリアを歩み、発信する人を増やしていくことが重要だと思いました。当社はそこからスタートしています。
様々なダイバーシティがある中で、まずは「子育てしながらキャリアアップできる人材・組織」を創ることで、自分の納得した人生を生きることができる人を増やします。
疑似体験やロールプレイを通して社員の本音を引き出し、リアルな現場にマッチした施策を
――御社が事業を通して解決したい社会課題について、改めて教えてください。
わかりやすい問題で言えば、M字型カーブや女性の活躍推進、少子化ですね。出産を機会に諦めてしまうキャリアを解決することで、労働力人口の向上やそれぞれの人生選択肢が広がります。さらに広い視点で言えば、自律的なキャリア支援を目的としています。自己肯定感を育んだり、多様性理解を促したり、自律的に生きることができるようにするということです。
当社が調査を行なった「両立不安白書」によれば、大学生の71.2%は将来が不安だと答えています。子育てと仕事については、92.7%の女性が両立が不安という回答です。これは社会の不景気やブラック企業を見る中で自分に自信がない、選択肢がないと感じてしまうことが原因なのです。
――コンサルティングや研修では、具体的にどのような取り組みを行なっているのでしょうか?
座学だけで人の意識が変わることはないので、「仕事と子育ての両立体験」をコアとした内容を提供しています。例えば会社を16時に退社して、夕食を作り、子どもと遊んでもらう。現状を体感してもらうことが働き方の意識改革につながりますし、ダイバーシティマネジメントの研修にもなります。こういった研修を若手社員や管理職向けに実施します。子育てをする当事者としてだけではなく、若手が長期的なキャリアを考えたり、人材をどうマネジメントするのかを体験型で学んでいただきます。
体験プログラムはハードルが高いという場合は、1日単位での疑似体験ワークも用意しています。自分が子育てをしている立場だったとして、もしも子どもが病気になったら仕事をどう調整するのかというカードゲームのようなものです。育児中の人と管理職の人の具体的場面を設定した台本で立場を逆にしてロールプレイを行うこともありますね。違う立場の人同士でのミスコミュニケーションを体験できます。
研修を受講した人からは、「このような状況になっているとは知らなかった。改めて働き方の意識が変わった」「実際にこのような工夫もできそう!」などの気づきや本音が徐々に出てきます。そこからコンサルティングに入り、画一的な制度ではなく、本音ベースで現場にマッチした施策を作っていくということも行なっています。
会社には状況や世代が異なる人がたくさんいます。お互いに状況がわからないことも多々あるでしょう。その中で自分の意見を発信したり、他者を理解し合う文化・環境を形成することができれば、より多くの状況の人が力を発揮できるはずです。当社は、多様な状況でも活躍できる人材育成と組織づくりを支援しています。
――実際に御社と関わった企業がどのように変化したのか、事例があれば教えてください。
わかりやすいのは若手マネージャーを対象とした「育ボスブートキャンプ」の効果ですね。2015年から継続して行なっている研修です。内容は先程ご説明した座学と育児体験で構成されていて、体験者はこれまでで30~40名。部下への研修を含めると延べ250名ほどの方へ実施しています。
研修は、社内全体の働き方やダイバーシティの意識に大きな影響を与えます。育児休暇を取得する男性社員が増え、残業が減ってリモートワークが進むといった社内的な変化も起きます。また、「こういった意識のある会社なら入ってみよう」と応募者へのイメージ向上というメリットも生まれています。
実際に研修を受けたマネージャーからは直接的にマネジメントに役立ったという声も届きます。その成功体験を周囲に話すことで今度は部下の方がマネジメント層に上がった時に研修を受けるといった流れもあります。
国の教育モデルとなるための第一歩を踏み出す
――大学生向けの活動についてはどのような状況ですか?
大学のプログラムは文科省からプログラムを採択された点が非常に大きいですね。現在は京都、愛知、三重の3地域と6大学、1高校でプログラムを実施しています。
重要なポイントは、これまで国の施策では女性が出産・子育てによって「会社を辞めた後の施策」しか行なってこなかったという点です。マザーズハローワークなどの再就職支援やリカレント教育などに多大な予算が使われている一方で、辞める前に必要な施策は皆無だったのです。日本の国際ジェンダーギャップ指数は、121位と最低レベルであり、「政治参画」と「経営参画」のポイントが大幅に低い状況です。この状況を打開するためには、ライフイベントがあっても働き続けるための施策が必要です。
それが2019年、文科省が、アンコンシャスバイアスを無くす「体験型の授業」を、学生と教員に実施することを決定しました。当社のワーク&ライフ・インターンの取り組みが国としての教育になる一歩となってきています
さらなる全国展開へ向け、プロ人材とともに経営者の意識を高める方法を模索したい
――直近で感じている課題感はどんなことですか?
大学生への支援ですね。SNSが台頭してきたことによって、学生の自己肯定感がここ2年で特に低下してきています。意識的・無意識的に関わらず、周囲の反応を恐れて自分の本音が出せなくなってきているのです。これに対しては親や教師以外の大人から認められる経験や、心理的安全性の高い環境づくりが重要になるのですが、なかなか学校の中で行われているケースはありません。その結果として、大学生のトップ層とボトム層に大きな差が生まれています。トップ層は自分でどんどん情報を得て、起業などにまで走り出せる一方で、ボトム層はどうすればいいのかわからないという不安から停滞し続けてしまう。私たちが大学生への支援を重視しているのは、そういう大学生に向けて学校の中でリアルなライフキャリア教育を行えるようにしたいからです。
――企業に対してはいかがですか?
2015年の女性活躍推進法の施行以来、企業は積極的に研修を行なっています。ただ、最近の傾向として感じるのは、「研修さえやればいい」という手段化に終わってしまっているということです。人の働き方を変えるには現場を変えなければならないのですが、視野狭窄に陥ると組織全体への働きかけが上手くいかず、いくら研修をやっても効果が出ないという状況になってしまいます。女性活躍を経営戦略として、組織そのものを変えていくのだというところにまで意識を高めなければならない。ここが一番強化したい部分です
具体的に経営者にどう伝えれば良いのかを常に議論を繰り返しています。ぜひサーキュレーションさんに登録されているようなプロの方々から経営者視点での考え方や広報、ブランディングの仕方も学びたいですね。
――最後に、メッセージをお願いします。
人を育成し、その成長を喜べる人や組織が増えていけば日本はもっと良い国になっていくはずです。今は仕組みとして、それがあまりにも不足しています。
そういった課題や目標がある中で組織として嬉しかったのは、やはりプログラムが文科省に採択されたことです。起業した2010年は、ライフキャリア教育や働き方改革、ワーク・ライフ・バランスなどという言葉は存在していませんでした。私の経歴を見て「25歳の起業は早すぎる」「学生のベビーシッターか」と思われるばかりで、当社の活動が人材育成であり、教育であるという点を当初は誰も理解してくれなかったのです。それが、現在は道半ばではあっても当社が世の中を変える一助になれていると実感できています。この状態にまで至ったのは、大きな喜びです。まだまだその第一歩なので、今後この仕組みを全国に展開し、日本全体で「自分らしいワーク&ライフ」を実現したいです。
企業概要
企業向けの女性活躍研修・管理職研修・若手女性社員向け研修を提供。女性のキャリアや働き方の意識を変えてきた豊富な実績から企業の課題を解決を行っている。
また、「自分らしいワーク&ライフの実現」を目指し、ライフキャリア教育事業として大学や地域での生大学生が仕事と子育ての両立を体験する「ワーク& ライフ・インターン」プログラムを展開。
会社HP:
●主な実績
2013年日経ウーマン「次世代ガール25人」
2015年 日経ビジネスオンライン「チェンジメーカーズ10」
2018年第9回若者力大賞ユースリーダー賞に選出される
団体、企業様へのプロボノご支援(Probono Sharing)を希望される方、検討してみたい方はこちら
お問い合わせ先:
株式会社サーキュレーション
ソーシャルデベロップメント推進室 代表 信澤