首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのように先代からの伝統を引き継ぎながら、新たな事業展開を図っているのでしょうか?そこで、北海道札幌市に住む筆者が北海道の企業の社長や団体の代表者に「地方創生」について伺っていきます。
小樽商科大学副学長の近藤公彦さんは、長く関西で生活し北海道にやって来たいわゆる「移住者」です。マーケティングを専門に教鞭を執る近藤さんに、北海道の魅力、学生の特徴、そして今取り組んでいることについて伺いました。
学内の任意団体であるゼミを株式会社化
Q:近藤さんは関西の大学にもいらっしゃいましたが、北海道の学生の質というのはどのようにお感じですか?
「基本的に大人しいですよね、関西だと『ガーッ』と来るじゃないですか(笑)。潜在能力は高いと思うので、背中を一押ししてやると花が開くというイメージですね。でも、大人しいのが北海道の学生のいいところかもしれないですが。あ、私のゼミは株式会社なんですよ」
Q:え?ゼミがですか?
「はい。ちゃんと法務局で登記(株式会社i-vacs)もしています。ゼミの学生が社長なので、毎年社長が入れ替わり登記変更でお金がかかるんですが(笑)。札幌の狸小路で開催している『NOMIPON(チケット綴りで狸小路の居酒屋をはしごできる夏のイベント)』を主宰しているんですが、普段大学で学んでいることを実践してみようということで始めました。実践することで初めて学びが生きてくると思いまして、2011年に起業しました。定款も学生が全部書きました。小樽商科大学には、私のゼミのほかに学生ベンチャーが2つあります」
Q:学生のうちにそのような経験ができるのは大きいですね。
「単位を取るための学びではなくて、せっかくだから活かす場所を作ろうということですね。授業で学んだこととの違いや使える場面、そういったものを自分の中に落とし込むことで学びは深くなると思います。実は狸小路に初めて提案したときに『ゼミからの依頼はたくさんあるんですが、すぐにフェードアウトしてしまうんです』という話を聞いて、そうならないような仕組みのためには学内の任意団体ではなく法人化する必要があったんですよね。お金の動く仕組みを学ぶ場でもあるので、NPOではなく株式会社にして、学生も企業もハッピーになるように株式会社にしました」
Q:学生にはお給料も出るんですか?
「毎月ではないですが、仕事をした量に応じて出来高制で(笑)。企業の方からいろいろ怒られたりもするわけですよ。でもそれでタフになりますし、プレゼン能力も高まりますし、逆に企業の方に可愛がってもらえますし。来年2月には、旧正月のタイミングで北海道に来られる中国人を対象にした『NOMIPON』の冬バージョンを初めて開催します。これはJTB北海道さんからのお声掛けで決まったものです。このような活動をしているので、就職活動の強みにはなっているようですよ」
本州では体験できないもの・ことを提供することが北海道発展の方向性
Q:近藤さんから見て北海道にはどのような可能性があると考えていますか?
「私は京都人なので、全然別の感覚ですね。京都とはもちろん違いますし、本州とも違います。その違いをベースにした発展方法があると考えています。東南アジアからの観光客は多いですが、彼らにとっては『北海道は近距離にあるヨーロッパ』という感覚のようです。伝統的な和の文化は東京・名古屋・京都・大阪がメインなので、北海道はそれらの場所では提供できないものを提供すべきだと思いますね」
Q:それに我々北海道人が気づいていないかもしれません。
「北海道は素材依存型と言われますが、逆に言うとその素材を上手く提供できればいいわけで、京懐石を目指しても仕方ないんです。歴史の蓄積からいって、絶対に追い付けないですから。目指すべきは本州じゃないです、下手に向かない方がいい……北海道の価値は別のところにあると思うので、本州では体験できないようなもの・ことを提供していくのが、北海道の大きな発展の方向性だと思います」
取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)
1961(昭和36)年、京都生まれ。同志社大字商学部卒業後、神戸大学大学院へ。
1997(平成9)年より小樽商科大学へ、2013(平成25)年より現職。
専攻は「マーケティングマネジメント」。著書に『MBAのためのケース分析』(2004年)などがある。
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。