首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのような事業展開を進めるべきなのか、北海道札幌市に住む筆者が北海道で開催された「地方創生」に関するイベントのレポートを行っていきます。

9月10日・土曜日、北海道倶知安町で開催された「次世代につなぐ新たなまちづくりフォーラム~ともに知ろうプロジェクト~」(主催/倶知安青年会議所倶知安町教育委員会)のレポートの2回目は、北海道大学公共政策大学院特任教授・小磯修二さんによる基調講演「次世代につなぐまちづくり」のレポート後編です。

小磯さんは、官僚としてそして教育者として40年以上に渡り地方の活性化を行ってきました。後編は、その小磯さんから見た地方創生における鍵になる地域内連関力について、そして倶知安町の可能性についてもお話しされました。

できる限り地域内でお金を回す

地方創生における大事なこと、それは地域内連関力だと小磯さんは語ります。人口減少により需要規模が縮小する中、地域内の連関力で需要を高める……農業・漁業だけではなく、クリエイティブな分野でも自給自足経済を目指すというものです。例えば、これまで輸入に頼っていた原材料を地域内で生産する、都市部に委託していたデザインを地域内で行う(移住してもらうという意味も含む)など、できる限り地域内でお金を回す方法を考えるというものです。

それから、北海道にとって地域外からの需要を取り込むのに大切な戦略は観光になります。これまでは「観光=集客」という発想で戦略構築が成されてきましたが、これは非常に難しいことと小磯さん。そこで、観光客の消費や資金の流れを把握・分析することで産業戦略・地域政策につなげることが必要だと語ります。

宿泊や食が観光に紐づいているのはイメージ通りですが、実は金融や保険、不動産といった観光とは直接つながらないような消費も観光につながっています。つまり、自分は観光産業とはつながっていないという人々が、「私も観光産業の一員だ」という意識を持つことが観光地戦略にとって大きな変化をもたらすということです。

インバウンドの増加は世界的な潮流

小磯さんが最近よく受ける質問が「インバウンド(訪日外国人観光客)の増加はいつまで続くのか」ということ。全世界的に見ても、インバウンドの数はここ20年で2倍に増加しています。つまり、日本だけではなく世界でインバウンド需要が増えているということです。

その中で小磯さんは「地域人としての発想・行動が大切になる」と断言。次世代につなぐためには、個々の活動ではなく地域全体で連携して需要を高めることで、地域の経済力を高めることが重要であり、次世代に向けての責任にもなります。

倶知安町に目を向けてみると、小磯さんが倶知安の地方創生に携わったのは2012(平成24)年がスタート。倶知安はパウダースノーが人気を呼び海外からの移住者も多く、他地域と比較すると恵まれた環境にあります。しかし、これまでは自然発生型の安定的発展であって、今後は倶知安経済圏をしっかり分析し将来につなげる戦略を立てなければならない、そして、函館から札幌へ延伸される北海道新幹線(2030年予定)に向けて、今から対策を立てておかないといけないとも考えています。

新幹線の開業に向けては青森県八戸市の戦略が参考になるといいます。要約すると、新しいものを作るのではなく、今あるものを掘り下げる。温泉がない八戸市では漁師の朝風呂を参考にした観光地を整備し、地方の食文化をしっかり打ち出したことなどです。

倶知安町には「ニセコブランド」があります。「やま」と「まち」を共存させる視点を持ち、地域で議論する機会を丁寧に積み上げていくことが重要なのではないかと小磯さん。

1時間以上に渡る講演には、地方創生にまつわるヒントがたくさん詰め込まれていました。

取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)

小磯修二
1948(昭和23)年、大阪市生まれ。1972(昭和47)年から1999(平成11)年まで、
国土庁・北海道開発庁で国土計画や地域開発計画の策定・推進業務に携わる。
その後、釧路公立大学教授、同校学長を歴任。
2012(平成24)年より北海道大学公共政策大学院特任教授。

【専門家】橋場 了吾
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。

ノマドジャーナル編集部
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