首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのように先代からの伝統を引き継ぎながら、新たな事業展開を図っているのでしょうか?そこで、北海道札幌市に住む筆者が北海道の企業の社長に「地方創生」について伺っていきます。

北海道といえば銘菓の宝庫ですが、その中でも抜群の知名度を誇るのが「白い恋人」。その「白い恋人」は、今年で発売40周年を迎えます。今や海外でも人気のこのお菓子を製造・販売しているのが石屋製菓株式会社(本社・札幌市西区)。4代目社長として同社を統括している石水創(いしみず・はじめ)氏に、前編に続き地域への貢献、人材採用について伺いました。

北海道では美味しい銘菓を製造する会社が切磋琢磨している

Q:ここまで「白い恋人」のしっかりしたブランディングができていると、さらなる強化は必要なものなのでしょうか?

石水 創氏(以下、石水):

常に強化していかないと飽きられるという危機感は、常に持っています。パッケージのデザインや広告の打ち出し方もちょっとずつ変えています。全国的に見ると「白い恋人」の知名度が高すぎて、「石屋製菓」という会社名があまり知られていないというジレンマもあります。ある調査によると、「白い恋人」はありがたいことに98%の方に知っていただいていたのですが、「石屋製菓」は30%程でした。その弊害としては、どうしても「石屋製菓の商品は土産菓子だから自家需要向きではない」という見られ方をされることですね。ですので、最近は意識的に母の日や卒業式などの「イベントで使える新商品」という打ち出し方に変えています。しかも、「北海道=美味しい銘菓が多い」というイメージ通り、多くの製菓会社が切磋琢磨している状況ですので、他社には負けない商品を作りたいという土壌があるのかもしれないですね。「白い恋人」のレシピは発売当初とまったく同じです。原料の品質が良くなったり、北海道産のものに変えたりという変化はあるのですが、レシピもクッキーの厚さも重量も40年前と同じなんです。


就任3年目にして社長と呼ばれることに慣れてきた、と語る石水氏

Q:石水さんが社長に就任されたのが2013(平成25)年の夏ですが、その直前に札幌市中心部にアンテナショップの入った自社ビルを竣工されましたね。
しかも、目の前には人気の菓子店6店舗が入居する「ビッセスイーツ」もある激戦区です。

石水:

社長就任と竣工が重なったのは、本当に偶然なんですよ(笑)。私自身、MBAを取得したのがその年の春だったので、タイミングとしては良かったですね。「ビッセスイーツ」に関しては、「あって良かった」というのが本音です。長沼社長(「ビッセスイーツ」に入居している洋菓子きのとやの代表取締役・長沼昭夫氏)も「早く石屋さん来てほしい」とおっしゃっていました。いろいろなお菓子屋さんが一緒になって、札幌中心部・大通をお菓子で魅力ある街にしていきたいという気持ちでしたね。この大通のイシヤショップは、「白い恋人」を1枚単位で買うことができる唯一のお店です。地元の方々も、気軽に「白い恋人」を楽しめるようになっています。

社内保育園を設置し女性社員の定着率がアップ

Q:人材採用についてはどのようにお考えですか?

石水:

中途採用は、人手が不足している部署に経験者を補充するという形が多いですね。新卒は、毎年20~30人を採用しています。当社の特徴として、平均年齢が30代前半と若く女性が多いことが挙げられます。これまでは適齢期になると寿退社というパターンが多かったのですが、昨年自社内に「白い恋人キッズパーク」という社員の子どもだけが通える保育園を設置したところ、結婚して子どもが生まれても安心して働けるということで定着率が上がりました。最初は一人しかいなかった園児も、今は十数名が自社保育園に通っています。社内の実情がわかっているので、融通が利くのも好評です。

新工場の完成による「白い恋人パーク」のリニューアルを計画中Q:最後になりますが、これからの石水社長の夢はどのようなものですか?

石水:

来年の夏に北広島市(札幌に隣接)に新たな工場ができるので、今「白い恋人パーク」にある製造ラインが新工場に移転します。その空いたスペースをどのようにリニューアルするのかを考えているところです。そして、新商品の開発を今まで以上にスピード感を持ってやっていきたいなと思っています。パークに関しては……ちょっとだけ情報を公開すると、ダブルデッカーという2階建てのバスを購入したので、パーク内に設置してカフェにしようと計画中です。あと今もパーク内にあるガリバ―ハウス(子ども用の小さな家)を30体ほど追加して、「ガリバータウン」を作ろうと思っています。将来的に、「白い恋人パーク」をディズニーリゾート、USJ、ハウステンボスに継ぐ日本4大テーマパークの1つにするのが夢です。

取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)

石水 創
石屋製菓株式会社代表取締役社長
2004年入社、2013年7月に代表取締役社長に就任。 
「しあわせをつくるお菓子」という企業理念を掲げ、製菓の製造・販売に留まらず、白い恋人パークの運営・管理も行う。
【専門家】橋場 了吾
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。

ノマドジャーナル編集部
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