首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのように先代からの伝統を引き継ぎながら、新たな事業展開を図っているのでしょうか?そこで、北海道札幌市に住む筆者が北海道の企業の社長や法人の代表に「地方創生」について伺っていきます。

「夜景」を観光資源化した室蘭が今取り組んでいることは、「さらなる観光資源の掘り起こし」です。その作業の旗振り役である室蘭観光協会の仲嶋憲一事務局長に、今後の地方都市における観光のあり方・展望について伺いました。

インバウンドの影響は地方にも……対策が課題

Q:さまざまなプロジェクトを進めるにも資金が必要だと思いますが、地方都市の観光協会はどのように収益を上げているのですか?

「本来あるべき姿は、会員から会費を集めてそれで賄うというものなのですが、地方の観光協会ではこの方法ではスタッフ1名分の人件費が賄えるかどうかです。そこで室蘭観光協会は、道の駅や水族館などの指定管理者となり、その委託費を観光用のプロジェクトに回しています」

目的に合わせたパンフレットが揃う

Q:大観光地はインバウンド(訪日外国人旅行)が急激に増加していますが、室蘭ではいかがですか?

「いわゆるツアーで参加するものに関しては室蘭は通過するだけでしたが、インバウンドの増加に伴いJRを利用して来られる方は確実に増えています。あと、室蘭はアジアを周遊している豪華客船が停泊できる港があるので、年に5~6回数千人という単位の外国人が観光で訪れるようになりました。しかし、まだ看板やバス停などのインバウンド対策が追いついていないという現状もあるので、これは今後の課題ですね」

室蘭にとって工場は観光用に作られたものではない『日常』

Q:今後、室蘭としてはどのような街づくりを目指していきたいですか?

「観光というのは、自分の行動で街が変わり、価値を作り出す仕事です。東京・札幌といった大消費地に向かって、どうやって室蘭の認知度を高めて、価値を感じてもらいお金を落としてもらうか……そのためには、観光資源の更なる掘り起こしが必要だと感じ、今まさにその作業に着手しているところです」

Q:新たな施設ではなく、掘り起こしをしていくんですね。

「はい。室蘭は工業都市なので、観光都市だとまだまだ思われていない部分があります。とはいえ、北海道の中では歴史があり、工場夜景があるなど観光都市としてのポテンシャルは高いと思います。ですから、『工業都市でありながら観光都市でもある』ことを実現するためには、観光資源を掘り起こしそれらのストーリーを利用したいと考えています。インバウンドの影響か、最近の観光客の方々は『みんなが行ったことのある場所に行きたい』というよりも『行ったことのない場所に行きたい』という思いが強くなっているようで、観光事業の成熟度が上がってきていると感じています。

これまではテーマパークのような『非日常』を楽しむ観光がメインだったのが、自分の住んでいる地域と違う日常である『違日常』を楽しむ観光……『ニューツーリズム』の時代に入って来ました。室蘭にとって、工場というのは観光のために作ったものではなく『日常』です。しかし、多くの観光客の方々にとっては『違日常』……この『違日常』が今後の観光資源のポイントになると考えて、掘り起こしを進めていきたいと考えています」

取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)

仲嶋憲一
1974(昭和49)年、北海道登別市生まれ。
室蘭工業大卒業後、いくつかの職歴を経て2005(平成17)年に一般社団法人室蘭観光協会に入社。
2011(平成23)年より現職、現在に至る。

【専門家】橋場 了吾
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。

ノマドジャーナル編集部
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