首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのように先代からの伝統を引き継ぎながら、新たな事業展開を図っているのでしょうか?そこで、北海道札幌市に住む筆者が北海道の企業の社長や団体の代表者に「地方創生」について伺っていきます。

今回は北海道屈指の工業都市・室蘭の観光振興を担う室蘭観光協会の仲嶋憲一事務局長にご登場願いました。もともと製鉄所が稼働していたことから「工場夜景」が人気を集めている室蘭ですが、その夜景を観光の売りにするまでには紆余曲折がありました。前編では、室蘭の夜景の観光資源化について伺いました。

「工場夜景」のアイディアは元全日空の室蘭支店長から

Q:仲嶋さんのキャリアについて簡単に教えていただけますか?

「私は室蘭の隣、登別(地獄谷などの観光資源を持ち、温泉街として有名)で生まれました。父がホテルマンだったので、小さいころから観光は身近でしたね。大学卒業後はいろいろ仕事をしてきましたが、地元のまちづくりの団体に所属していたこともあり、現在の職場に来ることになりました。こちらに来て9年、事務局長になってからは5年目です」

北海道内最古の駅舎「旧室蘭駅」にある室蘭観光協会

Q:現在室蘭は「四大工場夜景都市」(ほかに川崎、四日市、北九州)として夜景観光に注力されていますが、いつ頃から本格的に始まったものなのですか?

夜景のPRをメインにし始めたのは2009(平成21)年からですね。その後、クルージングや夜景バスが稼働し始めました。とはいえ、その前から『夜景を観光資源に』という動きはあって、白鳥大橋(関東以北最大のつり橋)のイルミネーションはそもそも作業灯ですし、測量山では1988(昭和53)年からライトアップが始まっています。それらの夜景は観光資源として潜在的なポテンシャルを持っているのでは、ということで1995(平成7)年から数年間に渡り全国で夜景をPRしたい都市の会議が開催されるなど、夜景観光が盛り上がってきました」

Q:それが工場夜景につながるわけですね。

「2010(平成22)年の夏のことですが、現在室蘭のふるさと大使を務めていただいている、元全日空の室蘭支店長の方から『今、川崎で工場夜景が盛り上がっているから、室蘭ともリンクして全国に発信してみては』というアイディアをいただいたんです。そこで、室蘭・川崎を中心に、工場夜景を本格的に観光資源としていくという動きが活発化しました。四大都市に加え、富士・尼崎・周南も加わり今後も工場夜景をPRする都市は増えていく予定です」

夜景・ものづくり・食を軸に観光資源の横断化を目指す

Q:それまでは「工場夜景」という概念がなかったんですか?

「なかった、というより観光に注力していなかったということですね。あくまで室蘭は『工業都市』としての側面しか見せていなかった……それが、夜景という観光資源を掘り起こすことで、新たな観光客が多数訪問するようになったというわけです。もちろん夜景だけでは観光資源としては足りないので、夜景・ものづくり・食(カレーラーメンや室蘭焼き鳥)という3つのテーマを軸に、これらの資源を横断することで室蘭での滞在時間を長くできるような施策を進めているところです

Q:具体的にはどのような形ですか?

「日中はものづくりの現場を見学・体験してもらい、昼にはランチを、夕方から夜に夜景を見るというようなルートを考えて、1日中室蘭を楽しんでもらえるような形にしています。夜景バスやナイトクルージングが稼働してからは、宿泊するお客様も増えてきました。夜景バスは今年で4年目になりますが、初年度の700名から現在では1700名に利用者数が増え、右肩上がりで推移しています。夜景を『旅の最後のアトラクションにする』という私たちの考えが、少しずつ認知されてきたかなと思います。」

Q:「工場夜景」を市民に浸透させるにあたり、ご苦労があったと思うのですが。

「それは室蘭の方々に助けられた部分ですね。実は、『工場夜景を観光の推しにする』と決めたときには、浸透させるのに時間がかかることを覚悟していたんですが、室蘭の方々の気質なんでしょうか、自分の街の良さをよく理解されていて『私もそう思っていたんだ』と多くの方々が賛同してくれました。また、それぞれの担当者が手の届く範囲の内容にしたので、そういう意味ではゼロからイチにするプロジェクトではなかったこともあり、迅速にプロジェクトは進んでいきました」

(後編へ続く)

取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)

仲嶋憲一
1974(昭和49)年、北海道登別市生まれ。
室蘭工業大卒業後、いくつかの職歴を経て2005(平成17)年に一般社団法人室蘭観光協会に入社。
2011(平成23)年より現職、現在に至る。

【専門家】橋場 了吾
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。

ノマドジャーナル編集部
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