首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのような事業展開を進めるべきなのか、北海道札幌市に住む筆者が北海道で開催された「地方創生」に関するイベントのレポートを行っていきます。
今回は1月17日・火曜日に開催された「北海道 経済・観光イノベーションフォーラム2017 ~観光と他産業による新たなビジネスチャンスを探る~」(主催/経済産業省北海道経済産業局、日本経済新聞社札幌支社、株式会社JTB北海道)のレポートを、登壇者ごと5回に渡ってお送りします。
最初の登壇者は、経済産業省商務情報政策局生活文化創造産業課の加藤誠さん。「地域経済を支える観光の基幹産業化へ向けた取り組み ~日本の稼ぐ力へ~」と題した講演を行いました。
「明日の日本を支える観光ビジョン」を推進中
加藤さんは長年観光政策に携わってきて感じていることは、すでに観光が地方経済の基幹産業になっているということ。そして、その事業を継続することでさらなる発展の可能性があるということです。
最初に、政府の観光政策について話がありました。小泉純一郎内閣が「観光立国宣言」を発表したのが、2003(平成15)年。それからさまざまな観光政策が実施され、2012(平成24)年から2015(平成27)年の3年間で大きな変化がありました。
具体的には訪日外国人旅行者数は2倍増の1974万人に、訪日外国人旅行消費額は3倍増の3.5兆円に増加しています。この増加を受けて観光先進国へ向けてワーキンググループによる会議を開催、「明日の日本を支える観光ビジョン」を2016(平成28)年3月に策定しました。
観光産業には「裾野が広い」という考え方があります。さまざまな分野が観光と「掛け算」をすることで、経済波及効果・雇用創出効果が増加するというものです。日本の観光消費は23.6兆円ですが、生産波及効果は日本のGDPの5.2%相当にあたる48.8兆円、雇用効果は日本の総就業者数の6.5%にあたる419万人。しかし、世界では世界全体のGDPの9.8%にあたる7.2兆ドル、世界全体の雇用の9.5%にあたる2億8300万人が働くビッグ産業に成長しています。この観点から、日本の観光産業はまだまだ伸びしろがあると考えられるのです。
ちなみに、世界の中における日本の観光に対する評価は「企業の顧客対応」「テロ発生率の低さ」「鉄道インフラの質」においてトップを獲得しています。
3つの柱への取り組みにより観光産業の拡大を目指す
経済産業省は、国土交通省・官公庁の管轄以外の分野…サービス業・小売業・流通業の振興や観光産業人材の育成という観点で支援を行っています。今の日本の観光産業の課題は生産性の低さで、宿泊業・飲食業に関しては全産業平均の半分以下であることから、この部分の課題解決を目指しています。
そのために、「魅力ある観光地の確立(集中的な投資)」「おもてなしの見える化(規格認証)」「観光MBAの創設(競争力の強化)」を3つの柱とした取り組みを行っています。先進的事例をつくるために官民の投資を誘導するマスタープランを全国4地域(北海道・富良野、沖縄・恩納村、大分・湯布院、三重・伊勢志摩)で策定、その他の地域へ波及させる動きがあります。さらに、地方においてはクレジットカードの環境整備が不十分なので、2020年までに観光地のキャッシュレス化・IC化100%を目指しています。
そして、訪日外国人の属性情報・行動履歴等(ビッグデータ)を事業者間で活用する「おもてなしプラットフォーム」を構築、関東・関西・九州で実証実験を行っています。人材育成においても、2020年までに毎年「観光MBA」取得者を50人輩出できるよう、大学との共同取り組みがスタートしています。
このように、経済産業省では観光分野の現行事業をストーリー化し、国際競争に勝ち残ることができる「観光聖地」を創造する政策を行っているということでした。
取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。