首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのような事業展開を進めるべきなのか、北海道札幌市に住む筆者が北海道で開催された「地方創生」に関するイベントのレポートを行っていきます。

今回は1月17日・火曜日に開催された「北海道 経済・観光イノベーションフォーラム2017 ~観光と他産業による新たなビジネスチャンスを探る~」(主催/経済産業省北海道経済産業局、日本経済新聞社札幌支社、株式会社JTB北海道)のレポートを、登壇者ごと5回に渡ってお送りします。

3番目の登壇者は、株式会社JTB北海道観光マーケティング戦略室の萩野隆二さん。「JTBが進める新たな事業戦略 ~JTB北海道の訪日インバウンドと地域活性化事業について~」と題した講演を行いました。

46年ぶりに「日本→海外」「海外→日本」が逆転

10年ほど前から、JTBでは「旅行業」から「交流文化事業」へのイノベーションを進めています。1950年代から右肩上がりを続ける観光市場、2010年に9億4000万人ほどの国際観光客数は2030年には18億人に達するといわれています。

しかし国内宿泊観光については、一人当たりの宿泊数・回数共に減少傾向、市場のシニア化がどんどん進んでいます。そして2016年には大阪万博のあった1971(昭和46)年以来46年ぶりに訪日外国人旅行客数(1973万人)が日本人海外旅行者数(1621万人)を超えました。

そのような市場の変化が起こる中、ExpediaのようなOTA(オンライン旅行会社)がトップに立つなど、旅行業界全体がイノベーションの必要に迫られています。

そこでJTBは、「地球を舞台にあらゆる交流を創造する」交流文化事業を推進しています。JTBが開業から100年(ロシア戦争後に国策会社としてインバウンドのために立ち上がった)の間に旅行・環境分野で培ってきたDNAを核とした事業の拡大です。

事例として「観光×食農」「観光×環境」「観光×グローバル」「観光×地域活性」「観光×ICT」が紹介されましたが、その特徴は社会課題の解決と事業の両立を目指していることです。そのためには、自社で完結するのではなく官民連携・他産業とのアライアンス型への進化を模索しています。

他産業とのコラボレーションに活路を見出す

具体的には、地域の生産者と旅行者をつなぐプロデューサー(観光客向けの農家や野菜ソムリエ)を育成する「Food Tourism」の推進、エコエネルギーを活用した「EVモビリティ観光」の事業化、ツーリストインフォメーションセンター(TIC)の全国ネットワーク化、インバウンド向け夜間エンターテインメント事業の開発などです。

その中で北海道では、札幌の中心部を横断するアーケード街・狸小路に訪日外国人向けの観光案内所を設置したり、北海道産のアルコールの認知度アップを目指す「北海道パ酒ポート(パシュポート)」というグローバルビジネスに挑戦したりしています。すでにスペインの高級リゾート地であるイビサ島への輸出が開始されるなど、効果も出始めています。

このように、北海道の地域の宝を世界に発信することで、旅行業から交流文化事業へのイノベーションを行うなど、既存事業だけではなく新たなビジネスの取り組みが必要な時代に突入しています。

取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)

【専門家】橋場 了吾
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。

ノマドジャーナル編集部
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