首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのように先代からの伝統を引き継ぎながら、新たな事業展開を図っているのでしょうか?そこで、北海道札幌市に住む筆者が北海道の企業の社長に「地方創生」について伺っていきます。

北海道といえば銘菓の宝庫ですが、その中でも抜群の知名度を誇るのが「白い恋人」。その「白い恋人」は、今年で発売40周年を迎えます。今や海外でも人気のこのお菓子を製造・販売しているのが石屋製菓株式会社(本社・札幌市西区)。4代目社長として同社を統括している石水創(いしみず・はじめ)氏に、ブランディング戦略・インバウンド・リスクマネジメントなどについて伺いました。

「白い恋人」は海外からの観光客にとっては「日本土産」になっている

Q:「白い恋人」をはじめ石屋製菓の商品は、北海道物産展などを除き北海道内でのみ購入可能ですよね。

この「北海道限定」というのは、ブランディングとして大きな役割を果たしていると思うのですが。

石水 創氏(以下、石水):

基本的には今後もこの方針は変わらないですね。「北海道に来ないと買えないお菓子」というスタンスは、発売当初から変わっていません。実は、このスタンスは日本人観光客向けのものなんです。訪日外国人観光客(インバウンド)にとって「白い恋人」は、「北海道土産」ではなく「日本土産」になっているので、2006(平成18)年から成田国際空港の免税店に置き始めたのをきっかけに、日本全国の11国際空港の免税店には置くようになりました。対国内・対外国で分けた戦略を採っています。


石屋製菓株式会社4代目社長石水創氏と白い恋人

Q:実際にインバウンドの増加の影響は出ていますか?

石水:

今、当社の業績が伸びている一番の要因はインバウンド効果ですね。ここ1~2年で、急激に売り上げが伸びました。国際線の免税店の売り上げが、全体の3割を超えていますから。国内に関しては、今後の人口減少を考慮しても横ばいかなという印象ですが、インバウンドは底が知れないというか、韓国やシンガポール等……。日本以外の国の観光客数を考えると、日本の観光は今後まだまだ伸びると予想しています。「白い恋人」は、特に中国からの人気が高いんです。中国は漢字圏なので、「白」「恋人」の意味が分かってさらにひらがなの「い」が加わっているネーミングが「日本らしくて洗練されている」というイメージになっているそうです。

※北海道が公開している最新情報として、平成27年度上期の北海道におけるインバウンド宿泊客延数は253万人で前年比138%という伸び率を記録している

「白い恋人パーク」には中国人スタッフが常駐

Q:石屋製菓では本社横に「白い恋人パーク(イシヤチョコレートファクトリー)」というテーマパークもありますが、インバウンドの増加へはどのように対応していますか?

石水:

中国人スタッフ7名をそろえて、中華圏からのお客様への対応に当たっています。最近は英語も話せない観光客が増えているので、中国語に精通しているスタッフが一生懸命仕事をしてくれるのはありがたい限りですね。FacebookなどのSNSに関しても日本語バージョンと外国語バージョンを展開しているのですが、外国語バージョンの方が「いいね!」の数が多い時もあります。外国語バージョンの方は、商品情報だけではなく札幌の季節の状況……紅葉になりました、こんなに雪が降りました、というような北海道の良さを打ち出すようにしています。

Q:「白い恋人パーク」のとなりにはサッカー・コンサドーレ札幌の練習場も完備されています。地元・地域貢献についてはどのように考えていらっしゃいますか?

石水:

パークについては観光客も多いのですが、コンサドーレの練習場があることで毎日来てくれるサポーターもいらっしゃいます。夏はローズガーデン、冬はイルミネーション、そのほかにも季節のイベントをたくさん組んでいますので、親子連れで散歩に来てくれる地元の方々も多いです。飴の試食もやっていますしね(笑)。実は、商品に関してもイベントに関しても、観光客向けというよりは地元のお客さんのことを一番に考えてアイディアを出しています。地元の方々が使いやすい商品を意識して販売して、結果的に観光客の方々にも買っていただいているという形ですね。

リスクマネジメントで大事なのはすべての情報を開示すること

Q:現在は好調の石屋製菓ではありますが、平成19(2007)年に不祥事がありました。このときの素早い対応があったからこそ、再び今のような状況になっていると思うのですが。

石水:

「当時の社長は父(現会長・石水勲氏)だったのですが、すぐに社長職を退任して北洋銀行から新たな社長(島田俊平)が来ることになりました。そのときに強く感じたのが、社員全員が「安心・安全・コンプライアンス」という言葉で一致団結できたんですよね。なので、業務の再開も信頼回復も迅速にできたのだと思います。社員全員が「白い恋人」のことが大好きですので、不祥事が起きたときもすぐに真剣に真摯に向き合おうという感じでした。会社としては、すべての情報を従業員に開示して共有することがリスクマネジメントを行う上で大切にしていることですね。

後編へ続く

取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)

石水 創
石屋製菓株式会社代表取締役社長
2004年入社、2013年7月に代表取締役社長に就任。 
「しあわせをつくるお菓子」という企業理念を掲げ、製菓の製造・販売に留まらず、白い恋人パークの運営・管理も行う。
【専門家】橋場 了吾
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。

ノマドジャーナル編集部
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