首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのような事業展開を進めるべきなのか、北海道札幌市に住む筆者が北海道で「地方創生」に関わる施設を紹介していきます。

今回は、1977(昭和52)年にオープンした北海道近代美術館(札幌市中央区)を訪問してきました。札幌市民にとっては馴染みの深い美術館ではありますが、現在『近美(きんび…愛称です)コレクション』として開催されている『北海道美術紀行』展(7月2日から11月8日まで開催)は、地方創生のヒントがたくさん隠されています。

その展示を担当した同館学芸員の松山聖央さんに、今回の展示のポイントや美術館における地方創生について伺いました。

北海道を客観的に見て展示作品をセレクト

Q:今回、『北海道美術紀行』というテーマで展示をされているのはなぜですか?

「美術館の展示には2種類あります。ひとつは特別展・企画展と呼ばれるもの、もうひとつは常設展と呼ばれるものです。展覧会の企画は学芸員がそれぞれの専門に基づいて作り上げますが、前者ではそれを実現するために必要な作品を自館内外から集めます。それに対して後者は、当館の所蔵品を中心に構成する展示なので、5,114点の所蔵作品の中からテーマに合わせてセレクトします。

今回は前期が103点、後期が76点を展示しています。コンセプトは『北海道各地を旅するように辿る』ということで、北海道が描かれている作品から選びました。もちろん、北海道出身の作家が多いのですが、道外の作家の作品もたくさん展示されています」

北海道近代美術館はJR札幌駅から車で10分ほどの距離

Q:ということは、北海道の美術館に道外の作家の作品もあると。

「有名な作家や作品が出る展覧会に注目が集まりがちですが、日本の多くの美術館は地域の美術作品の収集を大事にしています。
結果的にその地域出身の作家の作品が多くはなるのですが、北海道をテーマにしている作家の作品や移住してきた作家の作品もその対象になります。その中で、旅を”空間”と”時間”の両方の意味で捉えて、江戸後期から明治初期にかけての作品からスタートするような構成になっています

Q:そのような構成・テーマ・作品選びが、学芸員にとって大きな仕事になるんですね。

「テーマ決めと作品選びは、同時進行なんですよ。所蔵作品にどのような作品があるかを確認しながら、これとこれを組み合わせればこのテーマで構成できるな、という。今回は北海道を客観的に見て、多くの人が共通して思い浮かべる北海道……最近はアジアからの観光客も増えているので、その視点を取り入れたパートを作りました。

このパートでは、北海道でロケを行った映画で、中国や韓国でヒットした作品で取り上げられた北海道内の地域を描いた作品を展示しています。実は、北海道で撮影された映画は非常に多いのですが、たとえば大石和久氏の論文(「北海道と映画:北海道の表象とそのアイデンティティ」2005年)によると、北海道をアメリカやヨーロッパ的な風景として、つまり日本ではないどこか異国情緒漂う場所として映し出している作品もあるそうです」

北海道でしか見ることのできない作品への潜在的ニーズ

Q:外国からの観光客が、東京や大阪ではなく北海道の美術館にまで足を運んでいるのは興味深いです。

「北海道にやって来る観光客で美術館に足を運ぶ方には、やはりここ北海道でしか見ることができない作品を見たいという潜在的ニーズがあるのだと思います。例えば、京都や奈良などで行われるお寺の所蔵品の特別開帳は、場所と関連付けられた作品をまさにその場所で鑑賞するということが貴重な機会になっているのかなと。
お寺と美術館では少し異なりますが、今回の展示は、北海道をテーマにした展示を北海道で開催し、しかもローカルなだけではなく国際的な視点を持ってやっていることで、地方創生にもつながるのでは思います」

作品を解説する学芸員の松山さん

Q:確かに地域の美術館でしかできない展示ですよね。

「はい。ですので今回は、多くの人が共有する北海道のイメージだけでなく、その枠を超えた北海道を描いた作品のパートも設けました。
シュルレアリスム(超現実主義、20世紀前半にヨーロッパで勃興した芸術運動)的な表現で北海道を描いた作品や、今観光資源として注目されている工場夜景など、いわゆる北海道らしさとは違う角度の作品も展示しています

(後編へ続く)

取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)

【専門家】橋場 了吾
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。

ノマドジャーナル編集部
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