首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのような事業展開を進めるべきなのか、北海道札幌市に住む筆者が北海道で開催された「地方創生」に関するイベントのレポートを行っていきます。

今回は初めて札幌以外の講演会のレポートを。9月10日・土曜日、パウダースノーが評判を呼び、海外スキーヤーが多くやってくる倶知安町で開催された「次世代につなぐ新たなまちづくりフォーラム~ともに知ろうプロジェクト~」(主催/倶知安青年会議所倶知安町教育委員会)のレポートを、3回に渡ってお送りします。

倶知安は、札幌から車で2時間ほど南西にある「蝦夷富士」こと羊蹄山の麓にある人口1万5千人の町です。ニセコスキー場やじゃがいも、豪雪うどんを観光資源として有する町で、2030年に函館から札幌へ開通する北海道新幹線延伸部分の経由駅になる予定です。

フォーラムは2部構成。まずは第1部の、北海道大学公共政策大学院特任教授・小磯修二さんによる基調講演「次世代につなぐまちづくり」のレポートです。

地方部の開発が遅れているのは、日本だけの課題ではない

小磯さんは大阪出身ながら、外国への遊学(小磯さんいわく「アルバイトをしながらだったので留学ではなく遊学です」とのこと)を気に地方への関心が高まり、地域開発政策へ従事する仕事に就きたいと考えるようになりました。そして1972(昭和47)年に国土庁に入庁、27年に渡り国土庁・北海道開発庁で国土計画・地域開発計画の策定・推進業務に携わり、その後北海道内の大学で教鞭を取っています。

都市部の開発はすぐに行われるものの、地方部の開発は遅れている……これは、日本だけが抱えている課題ではありません。その課題を解決すべく、地方の活性化をテーマに小磯さんは活動を続けてきました。

小磯さんが地方創生にとって大事なことは「地域の立場で考える」こと。日本では、ほとんどの情報が東京から発信されるため、地方に住んでいる人々もいつの間にか東京発信の思考になってしまうといいます。しかし、地方の主張・戦略は東京発の発想・政策では限界があるため、地域オリジナルの情報を発信することが大切になります。

北海道は地方で初めてマネーフロー分析や地域版経済白書などを発信していたという、地域分析・政策形成力の先進地域でありながら、いつのまにかその発信が途絶えてしまいました。東京発信の情報は地域を中心にしたデータはないので、地方発信のデータこそが地域の活性化につながると小磯さんは考えています。

地域の役割は東京への偏在の是正

地方創生という言葉がよく聞かれるようになりましたが、実際には地方発信の情報はまだまだ弱いのが現状です。東京の人口は北海道の2.5倍ですが、GRP(地域内総生産)は5倍、法人税対象所得金額にいたっては29.5倍になってしまします。また大学生の数も8.5倍となり、どれだけ東京にお金や若い人材が偏在しているかを表しています。この偏在の是正を提案することが、地域の役割になります。

小磯さんは、日本で初めての「地域自前の4年生大学」である釧路公立大学で学長まで務めます。「道内外から1,300人の若者が安定的に終結する仕組み」をテーマに、常に黒字の経営を実現。人口減少時代において、地方大学の運営は地方創生のヒントになるといいます。

人口減少で一番怖いのは、経済活動の縮小という負のスパイラルです。そのスパイラルに陥らないために、「明確な地域戦略を共有すること」「お金の流れを意識すること」が大切だと小磯さん。そして地域内の需要の漏出を防ぎ、外から需要を取り込み、そのお金を地域内で連関することで付加価値を高めることが、地域経済戦略の要になります。

(後編へ続く)

取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)

小磯修二
1948(昭和23)年、大阪市生まれ。1972(昭和47)年から1999(平成11)年まで、
国土庁・北海道開発庁で国土計画や地域開発計画の策定・推進業務に携わる。
その後、釧路公立大学教授、同校学長を歴任。
2012(平成24)年より北海道大学公共政策大学院特任教授。

【専門家】橋場 了吾
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。

ノマドジャーナル編集部
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