首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのような事業展開を進めるべきなのか、北海道札幌市に住む筆者が北海道で開催された「地方創生」に関するイベントのレポートを行っていきます。

今回は、元内閣総理大臣・小泉純一郎さんが8月24日・水曜日に札幌市内のホテルで行った講演会をレポート。
この講演会は、北海道で雪・氷といった自然エネルギーの利用促進の活動をしているNPO法人雪氷環境プロジェクト設立10周年記念特別講演会として開催されたもので、イベント名が「雪氷エネルギーこそ北海道の力」、演目名は「日本の歩むべき道」でした。

元内閣総理大臣である小泉さんが一般社団法人自然エネルギー推進会議の発起人代表である縁から、今回の講演会が実現。前編では、なぜ自然エネルギーが必要なのか、そして政府が推進してきた原発の危険性についてお話がありましたので、要点をまとめてレポートします。

毎年200億円をかけて除雪……もったいない

小泉さんは、講演会が開催された8月24日・水曜日の午前中に札幌入り、雪・氷を使った冷房施設を見学し講演に臨みました。

札幌の人口はおよそ200万人、世界で一番雪が降る大都市だそうです。その札幌市では、毎年200億円をかけて除雪している……雪が市民の厄介者と思われていると聞きました。しかし、施設を回りながら利用価値があるものを毎年捨てているのはもったいないと感じました」(小泉さん)

実際、小泉さんは「自然界にあるエネルギーを活用することで、原発ゼロは実現できるはず」という考えのもと、多くの著書も出しています。

原発では日本の安全を守れない

小泉さんは総理大臣時代、官僚や専門家から「原発は安全・クリーン・コストも安い」と説明を受けていましたが、東日本大震災をきっかけにその説明に懐疑を持ち、自ら原発についてさらに詳しい勉強を始め、スリーマイル島やチェルノブイリで起こったメルトダウンによる影響の大きさが今も続いていることから、原発なき経済発展を目指す方向に舵を切りました。

「震災から5年経った今でも、どのようにメルトダウンが起こったのかわからないっていうんですよ。というのも、ロボットも近づくことができないんです。原発は『安全ではなかった』ということです。最悪の場合、5000万人の避難民が出る可能性があった事故だったわけです」(小泉さん)

満席の講演会会場

また、この原発政策に関しては国の姿勢にも疑問を呈します。

原発を受け入れる自治体には、建設費用だけでなく損害賠償のお金も入ります。これがコストがかからないからくりです。しかも、東京電力には国の支援を得た損害賠償の上限である5兆円を超えた9兆円が支払われています。そして今、東電はさらに国に対して支援を要請している状態です。

事故が起きた当時、多くの経済人は『原発ゼロでは日本は持たない』と話していましたが、2013年9月から2年間は原発ゼロで問題は起きませんでした。しかも太陽光発電は山手線の内側全部をパネルにしないと使い物にならないと話していたのに、今は太陽光発電で原発二基分の電力である2700万kwを発電しているんです。

ドイツやスペインは東日本大震災後、原発ゼロ宣言をしましたが、日本はその方向にはまだ行っていません。しかし、私は全電力のエネルギー30%分を自然エネルギーで賄うことは可能だと思いますし、北海道の雪はその大きなポイントになると思います」(小泉さん)

(後編へ続く)

取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)

小泉純一郎
1942(昭和17)年、神奈川県生まれ。1972(昭和47)年に衆議院議員に初当選、以後要職を歴任し、
2001(平成13)年から5年間に渡り内閣総理大臣を務める。
2009(平成21)年に政界を引退するも、積極的な政治活動を行っている。

【専門家】橋場 了吾
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。

ノマドジャーナル編集部
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