首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのように先代からの伝統を引き継ぎながら、新たな事業展開を図っているのでしょうか?そこで、北海道札幌市に住む筆者が北海道の企業の社長や団体の代表者に「地方創生」について伺っていきます。
今回は札幌市の隣町・江別市にある株式会社菊水の杉野邦彦社長にご登場願いました。1949(昭和24)年に産声を上げた同社は、65年以上もの間製麺業を営んできました。札幌はもともとラーメン人気が高い場所ですが、地産地消と全国化を目指しさまざまな施策を行っています。前編では、チルド麺業界の現在の状況と地場の企業として大切にしていることについて伺いました。
10年がかりで「品質的優位性の浸透」と「売場提案」を強化
Q:最近のチルド麺を取り巻く状況はどのようなものですか?
「家庭用チルド麺については、全国の世帯購入金額ベースで見ると昨年度は前期比で99.97%とほとんど横ばいです。その中で伸びたのは、ラーメン(102.5%)とうどん(101.2%)で、減ったのは、そば(94.4%)と焼そば(99.4%)でした。実は、北海道は全体で97.5%と低迷しています。これは、アベノミクスの限界が見えてきていること、北海道のインバウンド需要の恩恵が家庭用チルド麺の需要までには届いていないことが原因だと分析しています。恩恵を実感していない北海道民の消費マインドが上向いていない……これが現状ですね」
Q:このような厳しいマーケットにも関わらず、御社は好調に推移しているんですよね。
「前期の年間売上は107%と好調に推移しました。特に、本州地区の売り上げは114%と最も高い伸びを示しました。市場シェアにおいても、今期は7月までの累計で主力の生ラーメンは北海道で42.6%のトップシェア、全国でも11.2%で第3位のシェアを占めています。これは、10年がかりで本場の札幌生ラーメンの「品質的優位性の浸透」と「売場提案」を徹底して強化してきた結果です。
具体的には、本州のチルド麺売場は3食分のラーメンを同じ味のスープでパックした商品が多かったのですが、北海道流の「麺とスープを分ける」売場展開を提案することで、個人の嗜好に対応できたことが大きいと思います。そして、北海道の地域麺だった『本場の札幌ラーメン』を全国のご家庭の食卓に提供することを可能にするプロセスセンターシステム……麺は江別の工場で作り、全国4か所の加工センターに送って熟成させ、注文が来たら消費地に近いセンターですぐにパッケージするという方法を確立できたのが大きいですね」
250種を超える商品を製造している
幻の小麦・ハルユタカとの出会い
Q:御社が地場の企業として大切にしていることは何ですか?
「菊水は、昭和24年に厳寒の地・北海道下川町で配給小麦の委託製麺加工所をスタートしたのが始まりです。ここ江別に本社工場を移したのが1973(昭和48年)ですから、40年以上に渡り江別で製麺しています。その中で大きかったのは、幻の小麦と呼ばれていたハルユタカとの出会いでした。
小麦には3種類(強力粉・中力粉・薄力粉)があり、ラーメンで使用するのは強力粉です。日本で使用される小麦の半分は強力粉なのですが、国産小麦の6割を生産している北海道の主力は中力粉です。
需要と関係なく、収量が多く病気に強い小麦をメインに生産した結果そうなっていたのですが、江別では「初冬まき栽培技術」(通常小麦は春に蒔くが、収穫時期と雨季が重なるため安定した収穫にならないことから、雪が降る前に蒔き、根雪を断熱材代わりにじっくり成長させ、収量を増やし収穫時期も早める技術)で強力系小麦であるハルユタカの収穫量を増やすことに成功し、今や日本一のハルユタカの生産地になりました。江別で栽培された小麦を、江別で製粉・製麺し、江別の地域住民と商品化する……このような流れの中で生まれたのが『えべチュンら~めん』という商品です」
(後編へ続く)
取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)
1956(昭和31)年、北海道下川町生まれ。
同志社大卒業後、1981(昭和56)年に株式会社菊水に入社。
2012(平成24)年より現職、現在に至る。
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。