首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのように先代からの伝統を引き継ぎながら、新たな事業展開を図っているのでしょうか?そこで、北海道札幌市に住む筆者が北海道の企業の社長や団体の代表者に「地方創生」について伺っていきます。

今回は北海道におけるAMラジオの雄・STVラジオの大西賢英社長にご登場願いました。札幌テレビ放送株式会社(以下STV、日本テレビ放送系列)から独立して11年、かつては20年連続で聴取率トップを誇るなど”絶対王者”として君臨した同ラジオですが、最新の聴取率調査では第3位に甘んじています。とはいえ、30年以上続く人気番組『日高晤郎ショー』を中心にした編成で北海道での知名度は抜群。

今年は北海道のラジオにとって大きな動きが2つありました。前編では、その動きにどのように対応していくのかを大西社長に伺いました。

※筆者は札幌テレビ放送に1998年4月から2005年12月まで在籍。ラジオ(編成制作部))には1999年7月から2005年6月まで在籍していました。大西社長はかつての先輩にあたります。

ラジオにスポンサーが求めているものは「どれだけモノが動くか」

Q:現在のラジオを取り巻く状況は厳しいといわれていますが、実際のところはどのようなものですか?

「STVラジオの売り上げが一番好調だったのが1990年代前半、ちょうどバブル期の頃です。その頃は33億円の年間売り上げがありましたが、今は半分以下です。これはSTVラジオに限らず、ほかの北海道だけでなく日本のラジオ局も同じ傾向です。インターネットの台頭は影響していないわけではないですが、バブルの崩壊からメディア全体が下がってきたという感じではないでしょうか

苦戦が続くラジオではありますが、今年は北海道のラジオで大きな話題が2つあります。ひとつは「タイムフリー聴取」(インターネットを介したラジオ聴取サービス『radiko』の1機能で過去1週間の番組が無料で聴取できる実証実験、10月11日スタート)もうひとつは「ワイドFM」(AMラジオの「都市型難聴」「災害対策」を目的として放送するFM放送、北海道では10月19日から本放送)です。

「洒落でワイドFM放送記念のネクタイを作っちゃいました。今日できたばっかりで着けてみたんですけど、意外に皆さん気付いてくれなくて寂しい想いをしています(笑)。それは冗談として、今はスポンサーサイドから求められていることは『実際にモノが動くかどうか、売れるかどうか』なんです。傾向として、テレビはブランド訴求のための広告を出すという割合がまだまだ大きいです。

ということは、ラジオで放送・中継することでモノが動くパワーをつけなければならないということです。とはいえ、ここまでメディアが細分化するとラジオだけではなかなかモノを動かせないことがわかったので、STVとして使える媒体……テレビ、イベント、雑誌と連携すると同時に、WEBをより強化する方向にしました。
メディアのハイブリッド化と呼んでいるのですが、7月にコンテンツ戦略室という部署を新設し、10月3日にホームページを大幅にリニューアルしました。中継先の情報をリアルタイムに近い形でどんどんSNSに掲載することも、本業として社員・スタッフにやってもらっています。そこまでやることで、スポンサーに『モノが動いている』ということを積み重ねている最中ですね」
※取材日は10月14日・金曜日。大西社長のネクタイに注目を!


「タイムフリー聴取」「ワイドFM」はラジオの価値を上げるための投資

Q:大きな2つの変化の前に、ベースになる部分を再点検しているところという感じでしょうか。

「WEBを使わなくてもモノが動く番組はあります。それが『日高晤郎ショー』ですが、某コンビニエンスストアとコラボしたシュークリームは年間100万個売れるわけです。8年間続けているので800万個売れているのですが、こういう事例があるとスポンサーも『ここまで来たら、1000万個まで行きましょう!』となり好循環が生まれます。このようなパワーを持ったパーソナリティを探すという根源的な問題はありますが、自前でSNSを上手く利用していくことが必要だと感じています」

Q:そのようなWEBを利用したものといえば「タイムフリー聴取」ですね。

「そのタイムフリー聴取なんですが、この機能ありきで成立する『シェアラジオ』という機能もあります。ともにradikoの機能ですが、聴き逃がしたものを過去1週間の番組に限って聴き直せるのが『タイムフリー』で、その番組をSNSでシェアできるのが『シェアラジオ』です。
現在は実証実験として行われていて、radikoのエリアフリー聴取(地域を限定せず放送が聴けるようになる機能)に加入するためには放送局は相当額を負担しているのですが、すぐに回収できるとは思っていません。ラジオ媒体の価値を上げるための、長期的視点に立った投資ですね。それはワイドFMにも同じことがいえます

(後編へ続く)

取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)

大西賢英
1959(昭和34)年、室蘭市生まれ。
1982(昭和57)年、北海道大学法学部を卒業、札幌テレビ放送株式会社に入社。
1984(昭和59)年から5年に渡りラジオ局制作部勤務。
初期の『日高晤郎ショー』のディレクターを担当。
その後、総務局人事部長、グループ戦略室長、総務局長などを経て
2015(平成27)年に株式会社STVラジオ代表取締役社長に就任。

【専門家】橋場 了吾
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。

ノマドジャーナル編集部
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