首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのように先代からの伝統を引き継ぎながら、新たな事業展開を図っているのでしょうか?そこで、北海道札幌市に住む筆者が北海道の企業の社長や団体の代表者に「地方創生」について伺っていきます。

今回は札幌市清田区に本店を構える宮田屋珈琲の宮田一也社長にご登場願いました。1989(平成元)年に宮田屋珈琲を創業した宮田さん、地場の珈琲店として独自性を出すために、地元・九州の伝統文化を取り入れています。宮田屋珈琲のオリジナリティを出すための具体的な方法論、そして「苦労している」という人材育成について伺いました。

「掘りごたつ・階段・コーヒーカップ」で差別化を図る

Q:東苗穂店(札幌市東区)から本格化した喫茶事業ですが、ほかの喫茶店とはどのように差別化を図っていますか?

「お客さんがゆっくりくつろげるというコンセプトから、掘りごたつの席(写真参照)を用意しました。これは居酒屋から取り入れたものですね。それと階段が多いのが特徴です。これは、精神的にゆっくりしてもらうという意味で、段差をつけることで知り合いとのバッティングを避けるようにしています。仕事途中のサラリーマンや、喫茶店では知り合いと会いたくないという方のために(笑)、このような座席作りにしました。

これは、自分自身営業をしていたので、どういう心境で喫茶店を利用するのかを考えたときに思いついたことなんです。あと、コーヒーカップも違いますね」

Q:そういえば、厨房にものすごい数のコーヒーカップが並んでいたのですが……。

「コーヒーカップは地元・九州の伝統品である有田焼・薩摩焼を使用しています。ロゴ入りのカップを作った方がコスト的にも安いですし使い勝手もいいのですが、私が実家(鹿児島)に帰るときには有田に寄って自分の目でチョイスしています。カタログに掲載されているカップを仕入れることはないですね。

実は、お客さんの雰囲気にあったコーヒーカップで提供することにしているので、例えば二人組のお客さんで一人の方が二人分注文されたときには、『どちらの方が●●(オーダー名)ですか?』と聞くようにしています」

社長自ら買い付ける有田焼のコーヒーカップ

Q:地元・鹿児島と店舗のある札幌のコラボレーションですね。

「ここ(豊平店にて取材)の横にはサンドイッチ工房があるのですが、ここで作っているカツサンドに使用している豚肉は鹿児島の黒豚です。北海道が好きで札幌に住み着いてしまいましたが、地元である鹿児島にも貢献したいですからね。

札幌市と鹿児島市は観光・文化交流協定を締結(2013年)していますし、古くは開拓使の長官を務めた黒田清隆や札幌のビールの生みの親である村橋久成も薩摩出身ですから、私が札幌と鹿児島の橋渡し役になれればと考えています」

パイの取り合いで勝ち抜くにはブランディングと教育が大切

Q:宮田屋珈琲を創業してから27年経ちましたが、人材育成に関してはどのようにお考えですか?

「札幌は本州の大型チェーン店が上陸するなど、喫茶業界は大変な時期を迎えています。パイは決まっているので、その取り合いになってしまうんですよね。そこで大切になるのが、ブランディングと社員教育です。ブランディングに関しては先程お話しした差別化を強化することが重要になりますし、教育においては積極的にセミナーにも派遣していこうと考えています。

私が口を酸っぱくして言うことは『また社長が同じこと言ってるよ』で終わってしまうんですが、経験豊富な講師の言うことなら素直に聴けるようなので(笑)。その前段階の採用に関しては、できるかぎり多くの職種を経験してきている方を採用しています。喫茶店の運営は臨機応変な対応が求められることも多いですからね」

Q:今後の展望についてはいかがですか?

「今は店舗の拡大はそんなに考えていないんですよ。現在は店舗の売り上げが8割、オフィスコーヒーや持ち帰り品などが残り2割です。その後者にあたる、ドリップコーヒーのノベルティ化に注力していこうと考えています。具体的には……あまりお話しできないんですが(笑)、これまでにはなかった方法で宮田屋のコーヒーを利用してもらえればと思います」

取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)

宮田一也
1957(昭和32)年、鹿児島県垂水市生まれ。
陸上自衛隊の一員として真駒内駐屯地に赴任後、札幌で就職。
1989(平成元)年に宮田屋珈琲を起業、
札幌を中心に9店舗を展開している。

【専門家】橋場 了吾
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。

ノマドジャーナル編集部
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