首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのような事業展開を進めるべきなのか、北海道札幌市に住む筆者が北海道で「地方創生」に関わる施設を紹介していきます。

今回訪問した北海道近代美術館(札幌市中央区)は、地元・札幌市民以外にも多くの観光客が展示を見に訪れます。現在開催中の『北海道美術紀行』展(7月2日から11月8日まで開催)は、「海外からの観光客を意識した」テーマ設定ということで、美術館発信の地方創生ともいえる内容となっています。

後編では、展示を担当した同館学芸員の松山聖央さんに、美術館の地方都市における役割などを伺いました。

作品のセレクトはテーマの深堀と広い文脈の中への置き換えが必要

Q:最後には『道産子追憶之巻』(岩橋英遠、1978~82年)という作品が展示されていますが、これはどのような作品ですか?

「全長およそ29メートルという横長の作品なのですが、北海道の春夏秋冬と朝・昼・夜を右から左へ時間軸で表現しています。面白いのは、ただ時間の流れが描かれているだけでなく、夏が極端に短いことです。逆に冬が凄く長い。時間軸に合わせて自然・人・動物が描かれていて、北海道を見事に表現した作品だと思います

北海道の時系列が集約された『道産子追憶之巻』

Q:作品をセレクトしていく上で大切にされているのはどのようなことですか?

「美術作品を見るときは、2点以上の作品を比較するというのがひとつの基本です。1つの作品だけを見ていても、『こういう作品なんだな』で終わってしまうんですが、作品を比較することでその作品にしかない特徴がわかってきますし、逆に共通点もわかってきます。何かのテーマがあって、それ自体を深堀することと、広い文脈の中に置き直してみるということが常に必要なのではと思っています。

例えば今回のように『北海道』をテーマにした場合、北海道のことだけを考え、その魅力を考えがちになるんですが、アジアから北海道にやって来た観光客にとってはどう思われているか……国際的に見ても共通する価値が何なのかをちょっと引いた視点でみることも大事だと考えています

常設展こそが本当の美術館の姿

Q:地方都市における美術館の役割についてはどうお考えですか?

「美術館に来られる方の多くは特別展が目当てにされていると思うのですが、私は常設展こそが美術館それぞれの魅力を伝えられる場だと思っています。
常設展はその美術館の所蔵する作品を展示しているので、美術館の底力の見せどころなんですよね。学芸員の仕事のいちばん根幹にあるのは、所蔵作品の調査・研究なので、その部分を突き詰めていって開催される展覧会……常設展こそが本当の美術館の姿だと思います」

常設展こそが美術館の本質

Q:それは一般企業の商品・サービスについても同様のことがいえるのではないでしょうか。

「そうですね、所蔵品を扱った常設展でどのようにファンを獲得していくかが重要なんです。美術鑑賞に対しては『もともと知識がないと見てはいけないのではないか』『見てもどうせわからないのでは』という先入観がまだあると思うのですが、まずは自分で見ることから始めてみるのがいいと思います。作家や技法を知らなくても、自分で見て言葉にするという”ものの見方”を習得する場としての美術館……ビジネスとかけ離れた場所のように思われがちですが、実はそのようなヒントはたくさん隠されている場所なのではないでしょうか。

ネット社会ではいろいろなことをすぐに調べられますが、実際に作品を鑑賞できるのが美術館の役割ですし、そのリアルな体験をもっと伝える必要があると考えています。美術館は心をリフレッシュするだけでなく、現実社会に還元できるものがある場所だと思います」

取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)

【専門家】橋場 了吾
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。

ノマドジャーナル編集部
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