首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのように先代からの伝統を引き継ぎながら、新たな事業展開を図っているのでしょうか?そこで、北海道札幌市に住む筆者が北海道の企業の社長や団体の代表者に「地方創生」について伺っていきます。

官僚から教授に転身、現在は北海道大学公共政策大学院特任教授として教鞭を執る小磯修二さんは「北海道の可能性を感じたから、国土政策ができる仕事をしたかった」と語ります。中編では、小磯さんがなぜ北海道に関心を持ったのかを中心に伺いました。

地方への関心の原点はヨーロッパへの遊学

Q:小磯さんは大阪出身ですが、北海道の可能性を感じたのはいつだったのですか?

「京都大学時代ですね。私は70年代安保世代なので、(バリケードや機動隊による封鎖などで)物理的に授業を受けられる環境になかったんです。

それで海外に遊学をしに行きましてアメリカやヨーロッパを回ったのですが、特にヨーロッパの地方での触れ合いに学びがありました。本当に美しいんですよ、『これはなぜだろう』と。それは、素朴な美しさの中に地方の人々の誇り……いろいろな形の営みにつながっていることでした。
イタリアではカンパニズム(イタリア語で『鐘』を意味する『カンパーナ』が語源)という、教会の鐘が聞こえる範囲内で自分たちの生産物を提供し合い料理を出し、ほかの地域の人々がそれらの生産物や料理がほしければ来なさい、というような安易に地域外に出さないという良い意味での地域のまとまりがありました。

こういう風景を見ているうちに、どんどん地方への関心が芽生えてきたわけです。そして帰国後、北海道の道東を旅行する機会があったのですが、当時の北海道は関西から見れば外国のような雰囲気でした。自然が広大で、人々の開放的な受け入れの風土……北海道への憧れと地方への関心が相まって、朧げに北海道で仕事をしたいなと思うようになりました」


Q:ちょうど札幌オリンピック(1972年)のタイミングくらいでしょうか?

「オリンピックの前年です。でも、札幌は回ってないんです(笑)。私の関心は、札幌のような都市ではなく、後に住むことになる釧路を中心とした道東だったんですよね。それが、今の活動の原点になっています」

地域活性化の象徴と感じた釧路公立大学へ

Q:それで卒業後に北海道開発庁(現国土交通省)に入られたんですね。

「当時は、全国総合開発計画など国土政策は経済企画庁(現内閣府)が所管していました。しかし、地方開発を専門にするような職種の採用をする雰囲気がなかったんです。そんな時に、北海道開発庁の担当の方から北海道開発の仕事をしてみないかというお話をいただいて、地域政策の仕事をするきっかけを得ました。

今の時代であれば、自治体を選んでいたかもしれないです。当時は、やはり国が地方の政策も担当するという意識が強かったんですよね。のちに国土庁(こちたも現国土交通省)に移り、国の政策の現場で地方の開発に関われたのは幸せでした」

Q:私のイメージでは、官僚の方が退職して違う仕事に転じるというのはなかなか珍しいと思うのですが…。

「もともと官僚で上り詰めようという思考はなかったんです(笑)。やりたい仕事をやっているうちに、地方で実際に住民の方に触れ合うことが自分の経験として必要だと思いましたし、管理職にもなって今後どうしていくべきかを悩んでいる時期でもありました。

その時に、釧路公立大学(一部事務組合による初の四年制大学)という『町が作った大学』の設立にあたり、地方を活性化させたいという思いを感じましたし釧路市とのつながりもあったので『このタイミングかな』と思って行くことにしました。
釧路は、札幌のような都市ではなくある程度の集積があるという意味で、自分が地方で活動するうえで理想的な場所だったというのもありました。今では行政から大学に行くのは普通なんですが、当時(1999年)は違和感を持って周りから受け止められました」

(後編へ続く)

取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)

小磯修二
1948(昭和23)年、大阪市生まれ。北海道開発庁(現国土交通省)を経て、
1999(平成11)年に釧路公立大学教授、2008(平成20)年に同学長に。
2012(平成24)年から北海道大学公共政策大学院特任教授。専門は地域開発政策、地域経済。

【専門家】橋場 了吾
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。

ノマドジャーナル編集部
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