前回は、顧客を深く理解するために必要な「ペルソナ設定」と、顧客のライフシーンまでを視覚化して捉える「カスタマージャーニーマップ」の必要性について取り上げました。これらをマーケティングで活用することで、以下のようなメリットが得られます。

●顧客視点で考えられるようになる
●関係者間で共通認識を持てるようになる

対象となる顧客の姿を「同じようにイメージ」し、様々な顧客接点で取るべき行動や全体の流れを「同じようにイメージ」できれば、脇道にそれることなく全員で目的地(=成果)まで辿り着くことできます。

今回は、顧客のライフシーンを視覚化して捉えることが出来たという前提で、顧客の心を動かし、行動させる手法、「ブランディング」にフォーカスして、その本質と効果、実践方法まで掘り下げていきます。

ブランディングとは:『消費者の心にイメージとして蓄積されていく企業(ブランド)の価値』
消費者にとって「ブランド」は頭の中に選択肢が多々ある中で、「トーナメント戦のシード権」を得られている状態。とした方が分かりやすいですかね。

まずは、顧客についてより深く理解するために、売り手と消費者、それぞれの「価値感ギャップ」について考えていきたいと思います。

消費者の立場になって考えると見えてくる事実

「現代社会の1日=江戸時代の人々の一生」
突然ですが、これは何を表しているかお分かりでしょうか?答えは「情報量」です。

現代社会において、人々は膨大な情報にさらされています。起きてから寝るまで、すぐ届く場所にインターネットがありますよね。疑問に思ったときはすぐに検索する、というのはもはや当たり前の行動です。

当然のことながら、商品・サービスについても膨大な情報が存在する中、選択肢も山ほどあります。その大量の情報の中から、「自分にとって本当に必要なもの」を探し当てることには相当なエネルギーが必要になります。

このような状況の中では、よかれと思って売り手から発信される情報であっても、その行為にうんざりしてしまうような消費者が既に存在しています。広告メールなどが全く読まれないまま削除されてしまうのは、この一例と言えますね。

こうなってしまうと、今までのように「良いところ」を積極的にアピールする手法や、「素晴らしさ」を伝えて押し売りするような手法では、瞬く間に拒絶されてしまいます。

売り手側からすればショックを受けてしまうような事実ではありますが、消費者目線で冷静に考えてみれば、「自分にとって最も必要な情報だけ知りたい」という気持ちは当然理解できます。そこで考えるべきポイントは「価値とは何か?」という疑問です。

売り手の一方的な「片想い」は消費者に嫌われる

「価値」について考えるとき、そこには2つのベクトルが存在することを忘れてはいけません。
しかし、多くの場合、売り手目線の「価値」だけが目立っています。自社商品・サービスへの思い入れが強ければ強いほど、プロ目線となってしまい、意識せずとも、押し付けと感じさせてしまう傾向があります。

「こんなにいいものなのに…何でわかってもらえないんだろう!?」と悩み始めると、さらに良いところをアピールして「何とか振り向かせたい!」とより過剰なアピールを繰り返します。
思い当たる節はないでしょうか?

そう、この行為は、逆効果です。
売りたいからアピールする。売りたいから値下げをする。一時的な回復があったにせよ、これでは持続的な収益確保も、顧客(ファン)を獲得することはできません。
この「気づき」を得られず、同じことを繰り返し、自ら自滅していくケースは後を絶ちません・・・。

今は、「買わせる時代」ではなく、「選んでもらう時代」です。
一方的にこちらの想いを伝えるだけでは、ただの「片想い」「独りよがり」ではないでしょうか?問題の本質は、売り手の感じる価値と、消費者の感じる価値。このギャップにこそあります。

では、どうすれば消費者をこちらに振り向かせ、関心を持ってもらえるのでしょうか?答えは「顧客視点」の中にあります。消費者の目線で考えれば、片想いで終わらせないための対策が見えてきます。

消費者の心を掴むために必要な「アピール方法」とは何か?

消費者が「何を求めているのか?」という問いに答えるためには、消費者が「何を?」「いつ」「どこで」「どのように」「なぜ?」購入するのかを考え、分析することが大切です。これは前回ご紹介した「ペルソナ設定」や「カスタマージャーニーマップ」の話とも繋がっていますね。

ここからさらに、もう一歩踏み込んで考えていくと、「買う理由」を提供するという方法が見えてきます。売り手にとっての価値が商品の質やブランドとしての歴史であれば、「選んでもらう理由」は、顧客にとっての価値となります。消費者にとっての価値とは「買う理由があること」なのです。

その理由を効果的に提供することができれば、心に残るメッセージ訴求が可能になります。効果的なひとつの方法として、「インパクト」×「根拠」で攻める「ビジュアルコミュニケーション」を挙げることができます。

ブランドロゴなど、デザインが良ければ目を引くのは当然ですが、さらに大切なのは、その見た目のインパクトに負けない「根拠」を組み合わせることです。顧客に価値を伝え、その価値を正しく理解してもらうために、見た目の「インパクト+論理的な根拠」を提示する方法です。

「安心!安全!」と書いてあっても、どの部分が安心で安全だと言い切れるのか…とつい思ってしまうのが、「選ぶ側=顧客」の気持ちです。では、論理的な根拠をどのように伝えれば良いのでしょうか?

どこが魅力なのか…どんな価値があるのか…「顧客視点」でこの問いに答え続けることによって、企業としての共通認識を明確にできます。必要な対策を、対象となるターゲット層に向けて計画的に行う。これは、結果的に無駄を省くことに繋がり、販促経費の縮小をも可能とします。

「ワクワク・ドキドキ」「なるほど」を感じさせる仕掛けづくり

膨大な情報量の中でもキラリと光る何かがあれば、商品・サービスを手にしてもらえる可能性は高まります。

「自分にとって本当に必要で、それを買うことで充足感に満たされ、気持ちや生活まで豊かに感じられるようなモノやコト」

このような商品・サービスを消費者は求めています。モノよりも体験や出会いを重視するサービスが増えていることからも、その動向は顕著に伺えますね。ここでちょっとした例を挙げて考えてみましょう。

今、あなたはSNS(Facebook,Instagram,LINE,Twitterなど)で情報発信しようとしています。
次の2つの記事のうち、どちらの投稿の方がフォロワーから「シェア!」してもらいやすいでしょうか?
知人が「シェア」した内容ですが、私自身「なるほど」「へぇー」と思える内容だった為、思わず熟読してしまった内容です。

A:「こんな症状が出たら要注意!!肝機能障害を示す7つのサインとは?なぜ多くの人が肝機能障害を放置してしまうのか」(病気前と病気後のビジュアルイメージ付き)
B:40代以降は要注意!沈黙の臓器「肝機能障害」の見極め方(肝機能障害、リアルな症状のビジュアルイメージ付き)

どちらも「要注意」とか「肝機能障害」というキーワードはありますが、生活習慣を振り返らせ、その内容の情景や、放置してしまった後の怖さを時系列でイメージできるのは【A】の投稿ですね。【B】の内容は「肝機能障害」を意識している人にとっては読みたい内容なのかもしれませんが、既に知っている内容である為、そんなに響くことはありません。【A】は、健康だと思っている人でも、沈黙の臓器であるが故、自分事と感じさせることで、自分の身体は大丈夫なのか・・・。実際私も、とても気になりました。
どちらも、40代以上をターゲットとしていますが、アプローチ方法で、こうもインパクトが異なります。

目にする情報の中に「アイデア」や「根拠」が含まれていると、つい「シェア」したくなる理由がわかります。

セールストークの仕方も「伝え方」さえ工夫すれば、情報を受け取る側に「行動」を起こさせることができるのです。

SNSでの「シェア」は、ビジネスにおける顧客の「購買行動」に置き換えて考えることができます。「シェア」したいと思わせる内容(=商品・サービス)には何らかの「価値」があります。顧客の心を動かすような「仕掛けづくり」こそが「ブランディングの本質」です。

売り手の工夫が「価値」を高め、顧客の行動を促す

売り手にとっての価値を整理するためには「ブランディング施策」を見直すことが必要です。その企業にとってのストーリーを改めて描くことで、最も発信したい要素が見えてきます。そして大切なことは、その「伝え方」です。売り手にとっての価値をそのままストレートに伝えても顧客の心には届きません。売り手側の価値を、顧客が感じる価値に変換させるプロセスを経ることで、はじめて心に響くメッセージが誕生するのです。

●この商品・サービスでこのような体験ができます
●この商品・サービスには、ここにしかない○○があります

「そこにしかないは何か」は「買う理由」に繋がります。心を動かすような表現にも注意しなくてはいけません。「売り手側の価値」、そして「顧客側が感じる価値」、を整理しながら考えることで効果的なマーケティング、ブランディングは、ますます武器として磨きがかかるはずです。

買い手が思わず、「ワクワク・ドキドキ」したり、「なるほど」と思えるような「価値」を提案できるかどうか?ここに成功のカギが隠されています!

次回は「ブランディング」第二弾、ブランド価値を最大化させる、効果的な「構築プロセス」についてご紹介していきます。

専門家:山口 貴光
大手アパレル企業4社で、ブランドの新規立ち上げ、百貨店のフロアプロデュース、
リブランディングなど、主に変革型の事業を中心に、プロジェクトの責任者を歴任。
独立後、株式会社レバレッジラボ- 研究所を設立。
http://leveragelabo.com
マーケティング・ブランディングを基軸とした実践型のメソッドで、
戦略立案から実働支援・事業プロデュースなど、これまで数十件の支援実績を持つ。

「個人が活躍する時代」を支援するビジネス創発メディア
『Leverage-Share』を事業化
個人から大企業まで、その道のプロが集う「アライアンスネットワーク」を構築している。
http://leverage-share.com

ノマドジャーナル編集部
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