前回は、「リアル行動ターゲティング」という新たな手法をご紹介しました。モノ(商品・サービス)の価値をいくら高めても、それが効果的にターゲット(顧客)の心に届かなければ、せっかくの努力も時間も無駄になってしまいます。
ここでもう一度、前回の要点を振り返っておきましょう。「リアル行動ターゲティング」を成功させるカギは3つありました。
●「モノ」にとらわれず、モノの「外」に解決策を見出す
●現状理解によって、ターゲット層をしっかりと把握する
●観察力を磨き、最適な対策を練る
今回は、リアル行動ターゲティングで得られた情報をもとに、より効果的な訴求やアプローチをする為に必須な、「ペルソナ設定」と「カスタマージャーニー」で顧客を深く理解する方法をお伝えします。
まずは、企画する上で混同しがちな、重点ポイントを整理します。
ターゲットとペルソナの違いは何か?今ペルソナが必要とされる背景と必要な理由
ターゲット(標的)とは、サービスを利用する可能性があるユーザー全体を指しています。そのため、定量的データ(年代・性別・居住地・職業・勤務先・年収・家族構成など)を中心にユーザーを分類します。しかしこの段階では、ユーザーの大まかな傾向しか読み取ることができていません。それぞれのユーザーがどのような生活をして何を考えているのか、どんな時に心が動かされるのか。このようなデータは含まれていない状態といえます。
そこで、より深くユーザーにアプローチするために、「架空の人物像」を設定する方法が、ペルソナ設定です。ペルソナ設定では、定性的データ(体型・性格・目標・ライフスタイル・価値観・趣味嗜好など)を含めて、「感情」「行動」「接触媒体」などにも注目して人物像を設定します。あたかも実在する人物のように仕上げることで、アプローチしていく対象を全体で共有しやすくなります。
市場が成熟し、生活者のニーズも多様になった現代では、より詳細な顧客像を設定しなくてはいけません。データを基に、顧客を深く理解したマーケティングが求められるようになりました。そこで、ユーザーの中で特に代表的と言える要素を切りだし、最も重要なユーザーモデルを設定する必要があります。商品・サービスを最も使用する可能性がある、あるいは使って欲しいと思う人物像を、「趣味」「価値観」「パーソナリティー」など、その人物の人となりも含めて設定していくのです。ここでペルソナ設定のプロセスを見ていきましょう。
ペルソナ設定に必要な要素は以下の3つです。
【ペルソナ設定のプロセス】
①ペルソナの情報収集(※行動ではなく,理由・動機に注目する)
②情報の分類・まとめ(※人となりを表す情報を整理する)
③人物像を物語化する(※まるで実在する人のように話を作る)
妄想ではなく実際のデータを用いて作成することが重要です。実在する個人を見つめるように、丁寧なプロファイリングを行います。
「どんな人が?」「なぜ?」「どうして?」「どんな気持ちで?」という「理由」や「動機」の部分に注目しながらイメージを設定し、人物像を具体化していきます。これが見えてくると、「これからどのような人物に働きかけていくか」の目標が見えやすくなるのです。
その次に必要になるのが、点(情報)と点(情報)を結んで、人の「動き」を時系列で追っていく視点です。
カスタマージャーニーでペルソナの「行動」を視覚化する
カスタマージャーニーとは、直訳すれば「顧客の旅」。つまり、「顧客がどのような経過を経て購買に至るか」ということを指しています。ユーザーが商品・サービスを知ってから購買するまでの、「行動」「思考」「感情」などありとあらゆる様々な動きをセグメントして視覚化していく過程が、「旅」と例えられているのです。
では、「旅」の途中でどのような場所に立ち寄るか、どんなことを考えるか、何で迷うのか。様々なシーンが時間の流れと共に浮かび上がってきますね。顧客の「ライフシーンの視覚化」を行うことで、一つ一つの行動が流れとなって見えてきます。「どんな気持ちで、その行動を選択したのか?」と問いかけながらマップ化することは、言わずもがな、ユーザー視点で動きを捉えることを狙っています。
データ重視でペルソナを分析しカスタマージャーニーマップを作成する
カスタマージャーニーはフレームワークです。目に見えるリアクション(購買行動)の背後にある様々な「思考」「感情」「課題」を分析することが最大の目的です。顧客の脳内や思考を分析するようなイメージを持つと分かりやすいかもしれませんね。カスタマージャーニーマップを作成しておくことで、顧客の体験を向上させ、商品やサービスから感じられる「価値」を最大限に高める、という目的を意識しやすくなります。
ペルソナ設定が完成すれば、カスタマージャーニーマップも作成できます。「人物像」から得られる情報は、個人が持つ経験や感覚を超えて、客観的で確実な視点をもたらしてくれます。全体を常に「俯瞰図」で捉えることがでるので、自ずと「顧客視点」で捉えられるようになります。
マーケティングを再構築するために必要なことは?
人に何かを伝えて実行してもらうとき、なかなかうまく伝わらないことがあるかもしれません。これは、それぞれが思い描くイメージが違ってしまうことが原因です。マーケティングで生じる混乱は、担当者間の認識が一致しないことにあります。
ここで少し、日常の生活シーンの中から例を出してみます。
こんな頼まれごとをされたと仮定しましょう。
「お茶を買ってきてほしい」
お茶と一言で言っても、様々な種類がありますよね。緑茶なのか、ほうじ茶なのか、麦茶なのか…。
とりあえず「茶」がついている商品を選んだ場合は、何十種類もの答え(結果)が出て来てしまうことでしょう。しかし、
「○○というメーカーの〇〇というお茶。それも冷たいやつ。できれば春限定パッケージのもので」
このように頼まれた場合は、確実に相手が欲しいもの・頼まれたものを買って届けることができます。
頼む相手が一人でも、数名でも、数十人でも、伝え方を工夫すれば「考え」や「想い」を全体で共有し、一致した行動ができるようになるのです。
このお茶を人物に置き換えて考えてみましょう。
「40代、都内在住の男性」とか「30代、子どもがいるパート勤務の主婦」という情報よりも、詳細なストーリーがあると人物像が描きやすくなりますね。
「42歳、都内在住の山田一郎さん。外資系の製薬会社でMRとして働いており、年収は1200万。独身だが、交際中の女性がいる。地方出身だが大学は関東にあったため、そのまま都内での就職を選んだ。学生時代からスポーツに打ち込んでいて、中でも水泳が非常に得意。平日は仕事帰りに近所のジムに通い2kmは泳いでいる。健康に関する意識も高く、自炊も得意で体型維持には気を遣っている。最近話題のオーガニック食品にも興味あり。学生時代は海外留学も経験していて、外国籍の友人が大変多い。情報収集にも熱心で、SNSなども頻繁に活用している。好きな言葉は「向上心」。忙しくてなかなか旅行に行けないが、日帰りで行けるような場所を見つけては休日に利用している。」
これがペルソナです。アプローチする対象が実在する人物のように見えてきたのではないでしょうか。
イメージが固まれば、その架空の人物の動きを「線」で捉えながら、その人のライフシーンに合わせたカスタマージャーニーが描けます。
逆に、対象(ペルソナ)が設定されないまま、それぞれの顧客接点の担当者がそれぞれの想いをぶつけてしまうと、何を重視しているかが伝わりにくい、非常に曖昧なカスタマージャーニーマップしか描けません。対象とする「ペルソナ」がはっきりしていれば、そのペルソナの辿るライフシーンを視覚化し、全体で共有することができます。その情報を基に、あらゆる関係者がそれぞれの顧客接点で、最適な行動ができるようになるのです。「なぜ?」「どうして?」「どんな気持ちで?」常に問いかけながらマップを辿ります。そうすることで、プロジェクトに関わる全員が、同じ考えのもとで歩んでいくことができるでしょう。
大切なのは、皆が同じイメージを「共有」することなのです。
今、するべきことは?
今回ご紹介した「ペルソナ設定」と「カスタマージャーニーマップ」の作成は、経営者やリーダーにとって、自社製品・サービスの価値を再認識する際にも役立ちます。
①顧客視点で理解すること
②関係者間で認識を共有すること
この2つを効率よく実現できるのが、「ペルソナ設定に基づくカスタマージャーニーマップ」がもたらす最大のメリットです。
「ペルソナ」という代表的な顧客プロフィールを企業内で共有することで、マーケティング方針を統一できます。さらに、ペルソナをもとにしたカスタマージャーニーマップがあれば、限られた層、あるいはごく少数を対象としながらも、結果的に対象としたいユーザー全体への働きかけに繋がります。緻密な分析をすることで、非常に効率の良いアプローチが可能になるのです。
まずはユーザーの洗い出しから始め、代表となる顧客の「人物像=ペルソナ」を作ってみるのはいかがでしょうか?
次回は、ブランディング視点から「売り手」と「消費者」、それぞれが考える「価値」についてご紹介していきます。
大手アパレル企業4社で、ブランドの新規立ち上げ、百貨店のフロアプロデュース、
リブランディングなど、主に変革型の事業を中心に、プロジェクトの責任者を歴任。
独立後、株式会社レバレッジラボ- 研究所を設立。
http://leveragelabo.com
マーケティング・ブランディングを基軸とした実践型のメソッドで、
戦略立案から実働支援・事業プロデュースなど、これまで数十件の支援実績を持つ。
「個人が活躍する時代」を支援するビジネス創発メディア
『Leverage-Share』を事業化
個人から大企業まで、その道のプロが集う「アライアンスネットワーク」を構築している。
http://leverage-share.com
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