【連載第5回】
iPhoneもPepperも。孫正義氏と共に常に最新のテクノロジーを日本へ普及させ続けてきたソフトバンク首席エヴァンジェリスト中山五輪男氏。本連載では中山氏が”AIが生み出す「人の働く」への変化”を、遠い先ではないすぐそこにある未来として解説します。本連載のインタビュアーは、自身もワーキングマザーとして働きながら、クラウドを活用したワークスタイル変革に取り組む、リコージャパン古川いずみ氏に担当いただいています。
本連載では、ソフトバンク初のエヴァンジェリストとしてテクノロジーを活用した新しい「働く」を追いかけ続ける中山五輪男さんのお話をご紹介します。第5回となる今回は、「AI・ワトソンの可能性」についてです。
*本連載は2016/4発行の「エバンジェリストに学ぶ成長企業のためのワークスタイル変革教本Vol.2」の内容をもとに編集しお届けします。
前回までの記事はコチラ
●連載第1回:iPhoneからペッパーまで。エヴァンジェリストの役割とは、少し先の未来を見せること
●連載第2回:まずはやってみる ソフトバンク流ワークスタイルの極意
●連載第4回:道の駅から介護まで アプリで広がるペッパーの可能性
AI「ワトソン」が間違いなくワークスタイルを変える
古川:
テクノロジー、特にAIがこれからの働き方を変えていくと言われています。
中山:
ではここでAIとワークスタイルの変革について少しお話ししましょう。
2015年2月に日本IBMとソフトバンクが戦略的提携を発表し、日本語版のワトソンが間もなく発表されます。アメリカで開発を行っているのですが、ソフトバンクは相当なお金を投資したり、日本語版のワトソンのシステムを置く場所としてソフトバンクがデータセンターを提供したり、惜しみない協力をしています。
今回、独占販売契約を結んだので、日本でワトソンを売ることができるのは日本IBMとソフトバンクだけです。
このワトソンは間違いなく今後のワークスタイルを変えます。今、ソフトバンク社内でも各部門で「社内ワトソン活用プロジェクト」が進行していて、ワトソンを活用してワークスタイルを変えようとしています。
その一つは営業部門です。営業は夜遅くまで仕事をしていることが多いのですが、そんなに遅くまで何をしているかというと、資料作成の専門部署が作った提案資料を、自分のお客さま向けにまた編集しているのです。翌日3件4件回るとすると、その分の資料を用意しなければなりません。さらに、その資料編集のあと最新のもっといい資料を集めてきたり探したりする作業もあります。これは大変な作業です。
そこで今、そうした作業をサポートすべく、ワトソンをベースにした「SoftBank BRAIN」なるアプリケーションを作っています。これはすごいですよ。
古川:
もう、実際に触ることができるのですか?
中山:
ベータ版ですが動かしてみました。アプリを起動して「ねえブレーン、明日○○(コンビニエンスストア大手)にスマートフォンの提案に行くんだけど、何かいい資料ある?」と聞くと、膨大な資料データが出てくるのです。
ワトソンは日本語の解釈に秀でているのが特徴的なので、「○○(コンビニエンスストア大手の名前)」という言葉から「これはコンビニエンスストアだ」と認識し、そこで過去の営業マンがコンビニエンスストア本部に持って行った資料が出てくる。
それだけではなく、「それが小売業の一種と判断して、他の小売業に持って行った提案書が出てきます。さらに「スマートフォン」というキーワードから、「iPhoneやiPadだけじゃなくて、最近はSurfaceに興味を持っているお客さまが非常に多いですよ、この資料なんてどうですか?」と出してきます。たった2~3行の文章でも全体を理解し、行間を読み、「この人にはこういう資料が最適だろう」と考え、資料を出してきてくれます。
なので今まではいろいろな人に聞いて集めて、30分から1時間かけて探していた資料が、ほんの数秒でパッと揃ってしまいます。これで仕事の仕方が大きく変わりますよ。
古川:
それは、確かに非常にロスが少なくなりそうですね。
中山:
さらに「じゃあこの資料を使って明日ここに提案に行くには、他に誰を連れて行ったらいいと思う?」と聞いたとすると、「だったら、隣のなんとか本部のSEの誰々さんがいいと思います」などと答えてくれるようになります。「この人は、コンビニエンスストアの過去のこの案件をやっていた人で……」など、今後、社員の特性をひとり一人組み込んでいきますので。そうしたら、「じゃあ今この人は大阪に出張中ですけど、連絡取りますか」とか「会議通知設定をしますか」とか、全部ワトソンが聞いてきてくれるようになるはずです。それを今作っている最中です。
今度のソフトバンクワールドではそれをメインに紹介すると思いますから、2016年7月のソフトバンクワールドはすごいと思いますよ。人工知能一色になるかもしれません。人工知能は、まさにこれからのワークスタイルを変えていくキーワードになると思います。
「Watsonとの対話」 ボブ・ディラン + IBM Watson 言葉を学ぶ – YouTube
製造計画、災害対応、ワトソンがあらゆる課題を一瞬で解決する
古川:
他の業種、例えば製造業などが変わっていきたいと考えた場合、ワトソンは今後どういった使い道が考えられますか?
中山:
例えば製造業の例でいうと、大きな災害や台風などで工場が停電になってしまったとします。工場が止まってしまうと、ある部品が造れなくなってしまう。そのことで、大手自動車メーカーは製造計画をガラッと変えなければいけなくなります。そこで役立つのがワトソンです。
ワトソンが「ここで造っていたのと同じ部品を生産している工場はもう日本にはなくて、海外にしかないからここからこう輸入して……」といった調整をしてくれて、どういうふうに製造ラインを変更させていくかを全部教えてくれる、といったこともできるようになるでしょう。
竜巻の発生が多いアメリカのオイル会社の事例もあります。そういった災害が起きた時に、じゃあどこのオイル製造工場に対してどういう指示を出してどうしたらいいのか、というのをワトソンに考えさせたそうです。
また鉄道会社の場合は人身事故の対応なども考えられます。どこかの駅で事故が発生したとしたら、この駅ではこういうふうに駅員を配置し、この駅で振替輸送、この駅でこういう対応をしなさい、といった指示が一瞬でできてしまいます。これらが実現したら、本当にすごい世界が来るはずです。
古川:
ワトソンは、ある程度どんな質問にも答えてくれるのですか?
中山:
ワトソンを活用する企業に特化したシステムを使うように作り上げるので、そのアプリケーションがどこまでのことをやってくれるかにかかってきます。
例えば、製造業の工場のラインメンテナンスを得意とするワトソンのアプリなどがたくさん作られてくるでしょう。今はまだ、なんでもかんでもできるわけではないですが。
人事部長ワトソンの可能性も
古川:
先ほど社員ひとり一人の特性などのデータを蓄積・管理できるというお話がありましたが、だとすると、例えば人事部長のようなワトソンがいて、そのワトソンに聞けば最適な人事や評価もできる、といったようなことも可能なのでしょうか。
中山:
実は、それを今作っています。ワトソンは社員ひとり一人のパーソナリティーも分析できてしまうので。ということは「評価ができる」し、その人が最大のパフォーマンスを発揮できる部署を選ぶことができるわけです。
海外には既にそういったアプリがあります。どうやって社員のパーソナリティーを分析するかというと、その人の過去のメール、ブログ、ソーシャルメディアでのつぶやきや投稿を見て、この人はこういう性格だから営業に向いているとかいないとか、全部分析をしてくれます。最近IBMがSNSの運営会社と盛んに業務提携しているのは、コンテンツを使う許可をもらうためです。また、人工知能の会社が増えて、さまざまなSNSの運営会社と業務提携をしているのも、そうした投稿を使いたいからです。ですから業務提携の状況を見ていると、「あ、この会社は今こんなことをやろうとしているな」ということが分かるようになります。
(次回に続く)
◎本稿は、書籍編集者が目利きした連載で楽しむ読み物サイトBiblionの提供記事です。
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