【連載第6回】

iPhoneもPepperも。孫正義氏と共に常に最新のテクノロジーを日本へ普及させ続けてきたソフトバンク首席エヴァンジェリスト中山五輪男氏。本連載では中山氏が”AIが生み出す「人の働く」への変化”を、遠い先ではないすぐそこにある未来として解説します。本連載のインタビュアーは、自身もワーキングマザーとして働きながら、クラウドを活用したワークスタイル変革に取り組む、リコージャパン古川いずみ氏に担当いただいています。

*本連載では、ソフトバンク初のエヴァンジェリストとしてテクノロジーを活用した新しい「働く」を追いかけ続ける中山五輪男さんのお話を、書籍『エバンジェリストに学ぶ成長企業のためのワークスタイル変革教本』からご紹介します。最終回は「AIと働く」についてです。

●AIがこれからの世界を変える
●人間の仕事はロボットに奪われるのか?
●ワークスタイル変革の足かせは経営トップ
●全ての会社にエヴァンジェリストを

前回までの記事はコチラ

●連載第1回:iPhoneからペッパーまで。エヴァンジェリストの役割とは、少し先の未来を見せること

●連載第2回:まずはやってみる ソフトバンク流ワークスタイルの極意

●連載第3回:ナンバー1であるために ソフトバンク流仕事術

●連載第4回:道の駅から介護まで アプリで広がるペッパーの可能性

●連載第5回:ワトソンが人事部長に?! AIでワークスタイルも生活も変わる

ワークスタイル変革の未来図と課題

AIがこれからの世界を変える

古川:

先ほど社員ひとり一人の特性などのデータを蓄積・管理できるというお話がありましたが、だとすると、例えば人事部長のようなワトソンがいて、そのワトソンに聞けば最適な人事や評価もできる、といったようなことも可能なのでしょうか。

中山:

実は、それを今作っています。ワトソンは社員ひとり一人のパーソナリティーも分析できてしまうので。ということは「評価ができる」し、その人が最大のパフォーマンスを発揮できる部署を選ぶことができるわけです。
海外には既にそういったアプリがあります。どうやって社員のパーソナリティーを分析するかというと、その人の過去のメール、ブログ、ソーシャルメディアでのつぶやきや投稿を見て、この人はこういう性格だから営業に向いているとかいないとか、全部分析をしてくれます。

最近IBMがSNSの運営会社と盛んに業務提携しているのは、コンテンツを使う許可をもらうためです。また、人工知能の会社が増えて、さまざまなSNSの運営会社と業務提携をしているのも、そうした投稿を使いたいからです。
ですから業務提携の状況を見ていると、「あ、この会社は今こんなことをやろうとしているな」ということが分かるようになります。

古川:

テクノロジーの進化はすごいですね。2020年が潮目の一つで、そこから先は今から想像できないような社会になっている、という話も耳にしますが。

中山:

いや、むしろ5年先の想像さえできないですよ。
iPhoneは2008年に日本に上陸しましたが、その5年前の2003年なんてガラケー全盛期で、5年後にスマートフォンなんてものが来るとか、YouTubeで動画をサクサク見ることができる時代が来るなんて誰も予想がつかなかったでしょう。
ペッパーも今もう7000台以上購入されています。2015年の6月から6ヶ月連続で1000台売っています。これはすごいことだと思います。

時代の流れは一つの製品の出現によって一気に変わってしまいます。AppleのiPhoneという製品が世の中の携帯電話市場を一晩にして変えてしまった。今後は、ワトソンやペッパー、AIが世界を変えていくと思います。

人間の仕事はロボットに奪われるのか?

古川:

便利になって効率化されるのはとてもいいことですが、一方で人間の仕事の何割かはAIやロボットに奪われると言われていますよね。
そういうことも考えると、将来的に我々人間はどんな働き方をしていくべきなのでしょうか。

中山:

人類は、これまでもいろいろなものを作ってきました。例えば「そろばん」。
昔はそろばんの使い方を教える先生がたくさんいましたよね。しかしシャープやカシオが電卓を作ったらそろばん塾が激減しました。
実はうちの実家はそろばん塾で、母親がそろばんの先生をやっていたのですが。そろばん塾が消えたあと電卓が盛り上がったかといえば、そんなことはない。今度はエクセルが生まれ、iPhoneが生まれました。

その都度、その時代ごとに人類は新しいものを発明して、使い方を学んで、当然なくなっていく職種もありましたが、逆に、新しいものが出てきたらそれを教える先生が出てくる。
だから新しい道具、新しいデバイスの出現により、それに伴った新しい職種がまた生まれてくるし、それを使った新しいビジネスが生まれてくるのです。そして、その新しいビジネスの中で働く人もまた生まれてきます。
最近よく「あと10年後、20年後には、今人間がやっている仕事の約50パーセントがなくなる」などと言われていますが、私はそんなに心配はしていません。

古川:

その分新しい仕事が生まれると考えていらっしゃるのですね。

中山:

そうです。例えばどんどん人間のやることが減ってきて、早く家に帰れるようになった場合は、自分の趣味などに時間を費やすようになり、今度はそういった趣味の分野の先生が必要になってくるかもしれません。家にいる時間が長くなればテレビを見る時間も長くなり、お笑いやバラエティ番組も盛り上がってくるかもしれません。

あとペッパーみたいなロボットのアプリケーションに関しては、やはり面白い受け答えができないとすぐに飽きられてしまいます。孫はそこをすごく心配しています。そこで弊社は大阪のよしもとさんにご協力いただきました。ペッパーは身振り手振りや返す言葉にも全部ユーモアがなければいけません。

このように、これからはITの分野でもユーモアのある人が求められてくるかもしれません。今までとは求められる質が変わってくると思います。ユーモアエンジニアみたいなものが高い給料で雇われるかもしれないでしょう。人間がこう言ったらこういう身振り手振りでこういうふうに返せ、とか。漫才師ではありませんが、そういうちょっと変わった特徴を持った人が受け入れられる時代が来るかもしれないですよね。

古川:

パソコンなどの、ハードの面ではいかがでしょうか。

中山:

それこそ、あと5年ぐらいしたら世界をガラッと変えてしまうような新しいデバイスやプロダクトが出てくるような気もします。
ロボットが出てきたと思ったら突然ドローンのようなものが出てきたように。その辺りは全く未知数ですね。しかしAIが鍵になることは確かです。

今から3年ほど前には、これからのワークスタイルのキーワードはモバイル、クラウド、SNS、と言っていましたが、これからのキーワードはやはり「AI」ではないでしょうか。

ワークスタイル変革の足かせは経営トップ

古川:

中小企業が自社を成長させたいと思った時、ワークスタイルの変革においてどういうことに気をつけていけばいいでしょうか。
先ほど「できない社員ほどメールが長い」とお話しされていましたが、ではダメな経営者、ダメな会社の特徴とは何でしょうか?

中山:

ダメな経営者は、一つのことにこだわりすぎていて、新しいことに挑戦できない人ではないでしょうか。そういう人は古い大企業の経営者や幹部社員に多いですね。
こんなことを言うのは申し訳ありませんが、歴史の長い大企業には自分の考えに凝り固まっている人が多いです。ガラケーからスマートフォンに切り替えようとも思わない。きっと自分には使えないとか使いづらいに違いない、と決めてかかっていますよね。「俺はこれでいいんだ」と開き直っているのかもしれません。その思考が前向きではなくて、ただ自分が楽をしようとしているに他なりません。
そういう人たちはこれから徐々に減っていき、私たちの年代の役職がもう少し上がってくると、もうそういう考えの人はあまりいなくなるはずです。

全ての会社にエヴァンジェリストを

古川:

今は先が見えない時代ですが、中山さんご自身は今後、例えばこの先10年、20年はどういう働き方をしているだろう、もしくはしたいという展望はありますか?

中山:

私自身の希望としては、今のこの「ソフトバンクの首席エヴァンジェリスト」という名前をもっと広めていくことでしょうか。
ワークスタイル変革においてもエヴァンジェリストの役割が重要です。私は、どんな分野においてもエヴァンジェリストは非常に重要だと考えていて、各企業に必ず1人はいるべきだと思っています。

私もさらにエヴァンジェリストとしての活動の幅を広げていきたいですね。また今ではなく定年スレスレでもいいのですが本を書きたいですね。そこでエヴァンジェリストの在り方みたいなところをじっくりと語ります。企業におけるエヴァンジェリストの活用についての本を書きながら、あとは講演活動で全国を回っていろいろな会社をサポートできたらいいですね。

エヴァンジェリストをどう育成したらいいのか、そもそもエヴァンジェリストは何をやったらいいのか、または、エヴァンジェリストに限らず新しいデバイスでどうやってワークスタイルを変えていったらいいのかなどを指南するような役割を果たしたいと思っています。

古川:

「なぜエヴァンジェリストが必要か」と問われたら、どのような回答をされますか?

中山:

各企業には営業担当者がいますよね。会社の中にプレゼンのうまいエヴァンジェリストが1人いると、他の営業担当者が勉強するようになり、営業担当者全体のレベルが上がります。
商談の30分、1時間をどういうふうに使い、起承転結でストーリーを作ってお客さまを感動させて「ああ、じゃあ分かった、買うよ」とお客さまにハンコを押してもらえるようなストーリーを作るか。資料の作り方や喋り方も含めてうまいプレゼンを行ったエヴァンジェリストを見習うことで、社員が成長していきます。

ソフトバンクの営業担当者にはプレゼンがうまい人が多いですよ。
自慢のようで恐縮ですが、やはり多くの社員が私のプレゼンを見て勉強しているようですし、もちろん孫がうまいので。孫のプレゼン映像も全て残っていますから、「ああ、ああいうところでああいうことを言うと説得力があるんだな」とか「企業の経営層に響くんだな」といったことを現場で学べます。
他の企業も、そういったところにもう少し力を入れたらいいのにと思っています。将来はそういった啓蒙活動もやっていきたいですね。

古川:

確かに、中山さんや孫さんのプレゼンを見て勉強していくと、営業のやり方が変わってくると思います。

中山:

会社の成長は結局は営業の力にかかっていると思っていますので。たとえいいものを作っても営業部隊がダメだとお客さまの心は掴めません。

古川:

これからの日本は高齢化社会で、体も元気で頭もそこそこ動く60代、70代の人が増えていくと予想されます。
そういう人たちがテクノロジーの後押しによって、年齢を重ねても働きたい人は働けるという社会が来てほしいなと思うのですが、果たしてそんな時代が来るのでしょうか?

中山:

大丈夫です。テクノロジーがそういう時代をつくります。でもそれは、健康な体があってのことですね。体は大事にしないといけません。

古川:

中山さんは1964年の東京オリンピックの年にお生まれになったのですよね。
来る2020年、再び東京オリンピックが開催されますが、なにか20年に向けての抱負はありますか?

中山:

20年ってもうすぐですよね。あと4年しかありません。
4年というスパンで見ると、そんなに大きな変革が訪れるかどうかはわかりませんが、ただ、ロボットにしても人工知能にしても、今あるものは進化しレベルが上がっていき、そうした中でオリンピックを迎えるでしょう。

願わくは世界最高レベルの人工知能のロボットを使ったオリンピックを実現させたいですね。国立競技場の周り、選手村、東京都内がロボットだらけになっていて、世界中の人々をサポートしている。そんなイメージを持っています。

古川:

ロボットがおもてなしをするわけですね。

中山:

そうです。ペッパーが、全世界60カ国の言葉を理解して流暢に喋るようになっているといいなと思います。どこの国の人に道を聞かれてもすぐ教えて、お店で買い物する時も通訳してくれる。そうなってくれるといいなと思いますし、決して夢物語ではないと思っています。

そしてもちろん、今後さらに人々の働き方がよりよい方向に変わっていき、皆が楽しく働く社会が実現し、世界から来る人たちに最高の笑顔を見せられたらいいなと願っています。

(連載 了)

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