【連載第2回】

スマートフォン、SNSの普及に加え、測位技術の発展、さらにはドローンなどの新技術出現によって「位置情報ビジネス」が飛躍的に進化している。そう、世界は今「位置情報3.0」時代に突入しているのだ。 本連載では位置情報を活用したビジネスを取り囲む様々なテクノロジーの現状を大前研一氏が解説します。

記事のポイント

本連載では大前研一さんが「位置情報ビジネス」を中心に、テクノロジーを活用した新しいビジネスモデルの実例を解説します。連載第2回は、「GPS」に始まる位置情報利用がモデル2.0、3.0とどう変わってきたのか、これから位置情報利用市場はどう広がるのかについて大前研一さんにお話いただきました。

著しい進化を続ける位置情報ビジネス

●センサー、至近距離・室内測量技術の進歩で、位置情報ビジネスの進化が加速
●自動運転の車、ポイントキャスティングなどに位置情報が浸透
●位置情報ビジネスが飛躍し続けると、2020年には市場規模62兆円に成長する

*本連載は2016/5発行の書籍『大前研一ビジネスジャーナルNo.10(M&Aの成功条件/位置情報3.0時代のビジネスモデル)』の内容をもとに再編集しお届けします。

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前回までの記事はコチラ

●連載第1回:位置情報×ビッグデータ×フィンテック テクノロジーを俯瞰して捉えることで見えてくるもの

GPS登場から現在まで。位置情報の変遷

●1.0〜2.0時代を経て、暮らしに密接した位置情報の時代が到来

「位置情報」という言葉そのものは、まだ聞き慣れない方もいらっしゃるかもしれません。しかし現実には、この位置情報はすでに、私たちの暮らしと切っても切れない存在になっています。

位置情報は、スマホやSNS、センサー技術、測位技術等を利用して取得する、人やモノの位置に関する情報です。そうした対象物の位置情報を利用し、事業に展開したのが位置情報ビジネスです。位置情報ビジネスは1990年代後半あたりから現在まで、主に3つの段階を踏みながら発展してきました(図-1)。

図-1:位置情報・地理空間情報ビジネスの進化

位置情報ビジネスの黎明期、1.0時代と呼ばれるころのビジネスは主に、GPS(全地球測位システム)技術の利用が中心でした。GPS機能を使ってカーナビが進化してきた時代で、地図の電子化が始まったのもこの時代です。この頃はまだ、パソコンでの利用が中心でした。

その後、位置情報とソーシャルメディアが連動したのが2.0時代。”SoLoMo”=ソーシャル、ローカル、モバイルが三位一体になったスマホ中心の時代です。たとえば、Foursquare というSNS(現在はWebとアプリで展開)の場合。2009年当時、Webサイトを通じて、登録した利用者同士がパーティーなど大勢の人がいる場で出会い、アプローチし合うことができる位置情報共有サービスを導入しました。位置ゲームの普及など、人と人をつなげる用途で活用されるようになったのがこの頃です。

さらに、私も多用しているGoogle マップ。「うまいラーメン店」と入力して検索すると、自分の現在地付近にあるラーメン店がずらりと出てきます。私の場合はさらに「日曜日に空いている店」というキーワードも付け加えて検索し、出てきたところに自転車で行っています。位置情報の中にそれだけ詳細な情報があるのは、大変便利なものです。

●3.0時代、近距離・屋内測位が多様化している

そして現在の3.0時代。位置情報ビジネスは、どのように進化しつつあるのでしょうか。身近なところから、その進化を検証してみたいと思います。3.0時代では、近距離・屋内測位の手法や種類が増え、より身近なものの測位が可能になりました(図-2)。

図-2:Bluetooth(Beacon)を用いた近距離測位方式/その他の主な屋内測位・近距離測位方式

まずは、ビーコンを使った測位。これは昔から無線技術の中にありましたが、代表的なものにアップルのiBeaconがあります。iPhoneなどのデバイスにこのiBeaconが埋め込まれており、室内で1メートル以内、数メートル以内、10メートル以上など、距離が測定できます。

用途としては例えば、店頭にiBeaconのモジュール端末を設置しておくことで、来店した客のスマホが一定の距離に入ってモジュールを感知すると、「お客さん、ここに30%ディスカウントの商品がありますよ」などと通知できる。さらに、そのディスカウント商品の棚まで誘導する。そんなことができるようになっています。

ビーコンの他にも、①Wi-Fiの複数のアクセスポイントから発せられる電波強度などから測位する、②あらかじめカメラで撮影した画像とデータベース化した周囲の画像情報とを分析して測位する、③さらにKinect を使ってその奥行きまでを測定し、対象物までの距離を測る、④LEDなどの可視光を人間が感知できない速度で点滅させて信号を送り測位する、など屋内測位・近距離測位の方法は実に多様化しています。

私が学長を務めるBBT大学では、スマホなどの加速度センサーを利用した測位で、出欠確認を行うことも可能です。さらに、先生の話したことを「その通り」と思えばスマホをタテに振る、違うと思えばヨコに振る、とすることで、学生の意見を認知できる技術も導入しています。

身近に普及する位置情報技術

●自動運転、物体の検知など、車に利用される位置情報

測位システムとしてはGPSの精度も上がってきてはいますが、今日本でも盛んに研究されている準天頂衛星システム では、さらに精度が上がります(図-3)。

この準天頂衛星システムが、三菱電機の車の自動運転システムに活かされています。ただ、文字通り空から見ているので、道路状況が分かるとはいっても、枯れ葉が落ちているような時に走行可能かどうかまでは判断できない、といったケースもあるようです。

一方、トヨタ自動車や日産自動車の車には、こうした準天頂衛星システムとは違った方法で、自動運転にアプローチしているものもあります。いずれにしても車の自動運転システムは、位置情報技術の進化によって実現され始めたと言えるでしょう。

また、自動運転まではいかないまでも、人やモノを感知して警報を鳴らすなど位置情報を利用した技術を搭載することは、昨今の車においては主流となりつつあります。

図-3:測位システムの精度とカバーエリア

●位置情報の高精度化で広告やデータ解析などの価値も変化

よりきめ細かな位置情報の取得が可能になることで、位置情報そのものの価値も変化しつつあります(図-4)。

大きな変化のひとつは、これまで「全国のみなさま」といったブロードキャスティングであったのが、「今ここにいるあなた」というポイントキャスティングに変化したことでしょう。ポイントキャスティングが可能になったことで、たとえばある特定の街を歩いている人だけに対して、「今来店すれば、こんな値段で食べられます」というような、ピンポイント広告・販促通知も行われるようになりました。

また、位置情報データ解析や遠隔操作・遠隔モニタリングも重要性が高まりました。身近なところでは、交通量情報や道路混雑状況の解析および最適化に位置情報を利用することで、交通渋滞の回避も可能にしています。農業、警備・防犯、保守メンテナンスなどの分野は、もはや遠隔操作・遠隔モニタリングなくしては、成り立たなくなりつつあります。

さらに医療分野では、患者の遠隔モニタリングだけでなく、手術においても3Dで立体的にマッピングを行い、腫瘍の位置を正確に測ったうえで専用のメガネをかけて手術するといったことまで実現され始めています。

図-4:位置情報の価値の変化

位置情報ビジネス加速の理由

●日本のGDPの13%を占める日が来る?

近年、位置情報ビジネスが急速に拡大し始めたのは、なぜでしょうか?

まず、位置情報ビジネスそのものがまだスタートしたばかりの新しいビジネスであるために、隙間もチャンスも多く、未知の可能性を秘めていることが理由として挙げられます。

さらに、「こんなことができるよね」「こんなものがあればいいよね」といった具合に、自らがユーザー目線に立ってアイデアを出し合い、個人やチームの業務改善から運用をスタートできるフットワークの軽さも魅力となっているのでしょう。

このまま位置情報ビジネスが加速していけば、2012年時点に約20兆円であった市場規模は一気に膨れ上がり、2020年には約62兆円になるとも予測されています(図-5)。つまり、日本のGDPの12%〜13%をこの位置情報関連産業が占めることになる。そんな展望が開けているからこそ、今、位置情報ビジネスを考えない手はないのです。

図-5:国内の位置情報関連産業の市場規模

(2016.2.22取材:good.book編集部)

(次回に続く)

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