【連載第9回(最終回)】

スマートフォン、SNSの普及に加え、測位技術の発展、さらにはドローンなどの新技術出現によって「位置情報ビジネス」が飛躍的に進化している。そう、世界は今「位置情報3.0」時代に突入しているのだ。 本連載では位置情報を活用したビジネスを取り囲む様々なテクノロジーの現状を大前研一氏が解説します。

*本連載では大前研一さんの新著『大前研一ビジネスジャーナルNo.10』より、「位置情報」テクノロジーを活用した新しいビジネスモデルの実例をご紹介しています。連載第6回は、位置情報を利用した「行動分析」について、です。

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記事のPOINT

●アイドルエコノミーと位置情報の組み合わせで無限の可能性を探る
●位置情報ビジネスを進めるにあたり踏むべきステップは?

前回までの記事はコチラ

●連載第1回:位置情報×ビッグデータ×フィンテック テクノロジーを俯瞰して捉えることで見えてくるもの

●連載第2回:市場規模62兆円。車から広告まで暮らしに密接した位置情報の時代が到来する

●連載第3回:空撮から宅配、災害調査まで。ドローンが生み出す新たな市場

●連載第4回:建設から物流、ゴルフ場まで。位置情報技術でビジネスも生活も大きく変わる

●連載第5回:進化した位置情報技術で、いつでも、どこでも、最適な情報・サービスが利用できる

●連載第6回:チケットに位置情報技術を導入しマーケティングの効果をアップ

●連載第7回:警備会社は不要?!低コストで安心・安全が買える位置情報技術

●連載第8回:個人情報にプライバシー。位置情報技術は常にリスクと紙一重

アイドルエコノミーとの組み合わせで可能性は無限に

事業を考えるにあたり、もうひとつポイントがあります。
それは「アイドルエコノミー」です。”空きリソース”を活用するアイドルエコノミーに、位置情報が組み合わされば、ビジネスの可能性はどこまでも広がります。

すでに位置情報を活用するアイドルエコノミー企業はさまざまに存在します(図-32)。
Airbnbは、どこに宿泊できるか、近くの空き部屋を探す。
Uberは、付近にいるハイヤーやタクシーを呼び出す。
Spokefly はサービスに登録されている自転車のうち、近くに駐輪してあり誰も使っていないものをアプリから30分前に予約し、カギを解錠する。
akippaは、今いる場所の近隣で利用可能なパーキングを表示する。どの企業のサービスもすべて、位置情報によって、そこにいる「人」と空いているものとを繋いでいます。そして空き状況によって価格を下げるといったことをしています。

こうした事例を鑑みると、位置情報とアイドルエコノミーを組み合わせた商いは、まさに無限です。
例えば、観覧車と位置情報、映画館と位置情報。1日の大半が「アイドル状態」である固定資産は、街の至る所に存在しています。
GPSで周辺を測位し、「今なら半額で利用できます」などの広告を配信していくことで、アイドル状態の固定資産の限界利益を大きくしていくことは、不可能ではありません。

図-32 アイドルエコノミーと位置情報

位置情報ビジネスのチャンスを掴むときは”今”

ビジネスに位置情報を活用するメリットは多様

位置情報というものが、これまでより遥かに高精度かつ低コストで、身近に使えるようになった今、位置情報ビジネスのチャンスがみなさんの目の前に広がっています。
ですから企業はこの機会を逃さずに捉えることが重要です。

前述した通り企業の位置情報の活用は、ユーザーとしての活用と、ビジネスの提供者としての活用の2通りがあると考えています(図-33)。
そして、そのどちらにも、今後ビジネスを発展させるにあたり、多くのメリットがあると私は思っています。

図-33 位置情報ビジネスのチャンス

ユーザーとして位置情報を活用するならば、マーケティングが変わってきます。
位置・タイミング・ターゲットなどを絞ったきめ細かいマーケティング施策が可能になってくるでしょう。

行動ログデータなどを分析したり、遠隔地の監視やオペレーションに活用することで、業務の効率化も図れます。こうした活用はきっと、ビジネスモデル全体を見直す好機となるに違いありません。
また、このような新しいビジネスを実行するためには、柔軟な発想ができる人材が求められますので、若手スタッフに活躍の場を与えることにも繋がります。

一方、ビジネスとして位置情報の活用を考えていくならば、センサー設置、アプリ・サービスなどにおいて開発余地が大きく、発掘すべきビジネスは無限です。
また、今後3Dなどの技術開発次第では、さらなる用途・サービスが生まれてくる可能性も高い、発展性に満ちた魅力的なフィールドです。

若手中心に小スケールからスタート。世界的な展開も夢ではない

いずれにしても、位置情報をビジネスに用いていくには、小スケールでスタートし、仮説検証をくり返して運用を軌道にのせていきながら、スケールアップを目指す必要があるでしょう。図-34で、その道筋を説明していきましょう。

図-34 位置情報を新規事業につなげる

第一段階、アイデア創出においては、頭の固いお偉方が集まってやるには馴染みの薄い分野ですから、部門横断で、役職・階層などに囚われず、できるだけ若手の人材を抜擢し、少人数でパイロットプロジェクトとして走り出すのがよいでしょう。

アイデアを創出していくには、位置情報の技術トレンドを理解していなければ、「できない」というバイアスがかかってしまいますので、技術動向をしっかりと知っておくことが大切です。
そのうえで、解決すべき課題のスコープの設定、解決したい課題やニーズの洗い出し、位置情報技術を使って解決できそうな課題の抽出などを行っていきます。

第二段階は、プロトタイプ作成。簡単な技術や、自身の業務など身近な課題を素材に、アイデアを形にしてみます。
そのプロトタイプからさらに、アイデア・インサイトを引き出していきましょう。必要に応じて、エンジニアや専門家など外部の人材を活用するのも手です。

このアイデア出しからプロトタイプ作成までの工程には、社内ハッカソン・イベントのような形式もおすすめです。24時間集中的にみんなで取り組んで考えるというのは、有効な手法だと思います。

そして第三段階、いよいよ運用スタート。プロトタイプを、一部の部門や一部の店舗など、まずは小スケールで実験的に導入します。
そして、実際に運用してみたところでの課題を洗い出し、改善策を実行していきます。
運用の際はとにかくPDCAを高速で回し、モニタリングすべきKPI(重要業績評価指標)の設定も行うとよいでしょう。

十分な実証実験を行ったらいよいよ第四段階、スケールアップ展開です。部分的な導入から、全社・全店的な導入へと拡大します。

自社でしばらく運用したところで、新規事業として他社に提供していくことも考えられます。
自社で十分使ったものというのは非常に販売しやすいです。案件によっては、新設部門の設置や新会社設立といった、部門ごとに切り出して対応する必要も出てきます。さらには、外部パートナーとの提携、M&Aなども視野に入れてスケールアップを目指しましょう。

位置情報を利用したビジネスは空き領域もまだまだたくさんありますし、例えばドローンの可能性といっても、ようやく一部のマニアに浸透してきたという段階です。

くり返しになりますが、位置情報ビジネスのチャンスは無限大です。
このチャンスを逃さず、ぜひ今日から、どのようなビジネスが考えられるか、自身の業務、自身の家庭など、身近なところをヒントにアイデアを創出していってほしいと思います。

(大前研一向研会定例勉強会『位置情報を使った新しい事業~位置情報3.0時代のビジネスモデル~(2015.11)』より編集・収録)

※連載「位置情報3.0時代のビジネスモデル」は今回で終了です。来週からは大前さんの新・講義が始まる予定です。ご期待ください。

◎本稿は、書籍編集者が目利きした連載で楽しむ読み物サイトBiblionの提供記事です。

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