【連載第7回】

スマートフォン、SNSの普及に加え、測位技術の発展、さらにはドローンなどの新技術出現によって「位置情報ビジネス」が飛躍的に進化している。そう、世界は今「位置情報3.0」時代に突入しているのだ。 本連載では位置情報を活用したビジネスを取り囲む様々なテクノロジーの現状を大前研一氏が解説します。

*本連載では大前研一さんの新著『大前研一ビジネスジャーナルNo.10』より、「位置情報」テクノロジーを活用した新しいビジネスモデルの実例をご紹介しています。連載第6回は、位置情報を利用した「行動分析」について、です。

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記事のPOINT

●空港、バス停、自家用車…位置情報を利用したサービスの広がり
●廉価で高精度なホームセキュリティを個人レベルで設置できる時代

前回までの記事はコチラ

●連載第1回:位置情報×ビッグデータ×フィンテック テクノロジーを俯瞰して捉えることで見えてくるもの

●連載第2回:市場規模62兆円。車から広告まで暮らしに密接した位置情報の時代が到来する

●連載第3回:空撮から宅配、災害調査まで。ドローンが生み出す新たな市場

●連載第4回:建設から物流、ゴルフ場まで。位置情報技術でビジネスも生活も大きく変わる

●連載第5回:進化した位置情報技術で、いつでも、どこでも、最適な情報・サービスが利用できる

●連載第6回:チケットに位置情報技術を導入しマーケティングの効果をアップ

ビーコンを使って視覚障害者向けの音声案内

観光の話が出たところでご紹介したいのが、米国・サンフランシスコ国際空港の例です。同空港ではiBeaconを利用して、空港内のナビゲーションを提供しています(図-24)。

図-24 サンフランシスコ国際空港のナビゲーション

まずは旅行者が空港内でビーコンの範囲内に入ると、スマホにポップアップで通知が送られます。
視覚障害を持つ方など案内が必要な人には、「20メートル先、左側にスターバックス コーヒーがあります」など、空港設備やサービスカウンター、飲食店などの音声案内を通知します。

空港ではとくに、時間内に目的ゲートまで行くことが重要ですから、ゲートへの誘導という点をサポートしつつ、さまざまな情報を提供しています。

ビーコンはボトルキャップほどの大きさで、価格は約20ドル、バッテリーの寿命は4年。比較的低コストで導入できます。約300個をターミナル周辺に設置して、こうした案内システムを提供しています。

人気の観光路線バスのダイヤを最適化

最近は日本のいろいろな街で、観光路線バスを見かけるようになりました。

そんな中、埼玉県の川越市を走行している観光路線バス「小江戸巡回バス」は、バスに赤外線センサーとGPSを搭載し、停留所ごとの乗降者数や運行時間の遅れなどを把握しています(図-25)。

このバスは最大4台で運行していますが、当初は利用者の行動を考慮せずに等間隔で4台を回していたのですが、乗客数の変動率が高かったようです。

小江戸と呼ばれる川越には観光客も多く、みんなこのバスに載りたい。ところが1台に殺到してしまったりするのです。
そこで、乗車したい人数をセンサーとGPSで可視化することで、折り返し運行や運行本数の増加などフレキシブルに対応するように変えました。
固定ダイヤで単純周回運行していたところを、乗降客の状況に応じて最適化したのです。

最適化によって、バス停で待っている乗客のストレスは軽減されます。また、繁忙期には4台フル稼働させ、閑散期には1台を休ませるという調整も可能になり、運行会社としてはコスト削減というメリットもあるようです。

図-25 イーグルバスのダイヤ最適化システム

「これから行こうとしている場所」を車が予測表示

自家用車においてはトヨタ自動車が、ドライバーの運転履歴から今後の目的地を予測して、あらかじめ渋滞情報などを教えてくれる「T-Connect」というサービスを展開しています(図-26)。

それぞれの車に蓄積された走行履歴、曜日、時間、季節情報などの嗜好データから行き先と走行経路を予測し、まず、エンジンを始動した際に3つの行き先候補地を表示します。
そして目的地を設定する際に「Tルート探索」を利用すると、渋滞を考慮した最適ルートを表示してくれるというものです。

走行中も、事故・渋滞・天候・残燃料の案内をナビ画面で知らせます。便利ではありますが、私などは、日ごろよく行っている場所が知られてしまうことにやや抵抗を感じてしまいます。

図-26 T-Connectの概要

急ブレーキ頻発箇所を把握・人身事故減らす

埼玉県は本田技研工業(ホンダ)と提携をして、車の急ブレーキが頻繁に発生している危険箇所を調べて事故減少を目指すプロジェクトを実施しました(図-27)。

調査にはカーナビから数秒ごとに得られる位置情報データを利用しました。それらのデータを分析し、急ブレーキの発生箇所を地図上にプロットしていきます。
プロットで浮かび上がってきた危険箇所について、道路を全て工事することは難しくても、図の写真にあるようにペンキで道路標示を書いて減速を促したり、通学路であることを注意喚起したり、対策を施しました。

こうして危険箇所を除いていくことで、結果的に1カ月あたりの急ブレーキ発生回数は7割減となり、危険箇所での人身事故の発生は2007年から2011年までで2割減るという成果を上げました。

さらに、埼玉県下の通学路のうち、歩道がない道路については注意喚起の道路標示や看板を設置するなどの対策も取られたようです。

図-27 埼玉県のプロジェクト

警備会社不要の兆し? コスパに優れたホームセキュリティカメラ

セキュリティ分野においては、個人が設置するカメラが既存の警備会社の事業を代替してしまうかもしれない、というところまできています。

セーフィーという会社が開発したSafieクラウドサービスと対応カメラ。
このカメラは精度が高く、170度見守り可能で、本体価格はたったの1万9800円。防水で屋外にも設置でき、Wi-Fiでネット接続すればあらゆるところに設置可能です(図-28)。

月額980円で、7日間分の録画データをセーフィーのクラウド上に保存しておいてくれます。動体を検知したら、クラウドを介して、Safieアプリがダウンロードされた利用者のスマホにアラートを通知。もちろん遠隔地にいてもスマホから様子を確認できますし、その際の通信経路は暗号化処理でセキュリティを確保しています。
手頃な価格でありながら、ここまでサービスが充実してくると、使ってみたくなります。

図-28 Safieのクラウドプラットフォーム

例えば警備員が不在になる週末や、ひとり暮らしの女性の自宅にも便利でしょう。日中、家を空けているときに誰かが近づいて来て、ガタガタ何か怪しい動きをしても、スマホに全て通知されますので、管理人に電話して見に行ってもらうことや、警察に電話することもできます。

何か事件が起こった場合は、7日分のデータがきちんとクラウドに残されていますので警察へ提出すればよい。
また、室内に設置すれば、高齢者の見守りなど介護の面でも役立つかもしれません。

このように位置情報があらゆる分野で利用され始めると、一方では産業の突然死が起きる可能性も浮上します。
ホームセキュリティはまさにその例で、1万9800円でここまでのセキュリティサービスを利用できるなら、セコムなどの事業は不要になってくるわけです。

何か起こったとき、警備会社を待たなくても、いち早くスマホに知らせがくるのですから。これまでの事業を位置情報技術が代替していく可能性は、大いに考えられます。

(次回に続く)

◎本稿は、書籍編集者が目利きした連載で楽しむ読み物サイトBiblionの提供記事です。

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