【連載第4回】

スマートフォン、SNSの普及に加え、測位技術の発展、さらにはドローンなどの新技術出現によって「位置情報ビジネス」が飛躍的に進化している。そう、世界は今「位置情報3.0」時代に突入しているのだ。 本連載では位置情報を活用したビジネスを取り囲む様々なテクノロジーの現状を大前研一氏が解説します。

記事のポイント

本連載では大前研一氏が「位置情報ビジネス」を中心に、テクノロジーを活用した新しいビジネスモデルの実例を解説します。連載第4回は、さまざまな分野で活用が進む位置情報技術についてお話いただきました。

建設、農業、物流。様々な分野で活用が進む位置情報技術

●建設機械、農業機械は位置情報を利用して車両管理&メンテナンス
●建設では今後3Dレーザースキャナーなどを使用した施工作業支援も必須に
●物流ロボットKivaが従業員の指示で動き回るAmazonの倉庫
●エンジニアやチームメンバーの行動も位置情報を使って把握
●ゴルフ場管理費の65%を占める芝刈りコストを半減させる芝刈り機とは

*本連載は2016/5発行の書籍『大前研一ビジネスジャーナルNo.10(M&Aの成功条件/位置情報3.0時代のビジネスモデル)』の内容をもとに再編集しお届けします。

http://g10book.jp/contents/journal

前回までの記事はコチラ

●連載第1回:位置情報×ビッグデータ×フィンテック テクノロジーを俯瞰して捉えることで見えてくるもの

●連載第2回:市場規模62兆円。車から広告まで暮らしに密接した位置情報の時代が到来する

●連載第3回:空撮から宅配、災害調査まで。ドローンが生み出す新たな市場

位置情報3.0時代の業務効率化とは

●コマツの位置情報活用サービスの広がり

前章では、位置情報がさまざまな分野に影響を与えることをお伝えしました。では具体的に、どのような事業において改革が起こっているのでしょうか。その具体例に迫っていきたいと思います。

建設機械のコマツ(小松製作所)は、かねてよりGPSを使った建機のポジティブメンテナンスを行っています(図-10)。
「KOMTRAX」と呼ばれる車両管理システムにはGPS、通信システムが装備されており、車両内ネットワークから集められた情報やGPSによって取得された位置情報が、通信システムからデータサーバに送信されます。

サーバに蓄積されたデータはインターネットを通じて、建機使用者(顧客)やコマツの販売代理店などに提供。このシステムによって、保守管理、車両管理、稼働管理、車両位置確認などユーザーの車両管理業務をサポートしています。

中国では、建機のローン支払いが途中で止まると、建機を動かないようにしてしまう、あるいは盗難にあった場合にエンジンを止めると同時に場所を特定する、といったことにも利用しているようです。

さらに最近では、建設・土木現場の施工作業を支援するスマートコンストラクション「KomConnect」というサービスも拡充させています。
ドローンや3Dレーザースキャナーなどを使ってあらかじめ現場を3Dモデル化し、さらに完成図面も3Dデータ化。土質・地下埋没物などのリスク調査や解析、施工計画の立案を行い、ICT搭載建機を使ってシミュレーション通りに施工していく、というものです。

工事費の削減に繋がることなどから、公共工事においてはこうした手法が必須となっていくことが予測されますので、今後、建設機械分野では取り入れていかざるを得ないでしょう。

図-10 コマツの位置情報システム

●GPS搭載の農機から、いずれは自動田植え機まで進化

農業建機などの製造・販売を行うヤンマーは、「スマートアシスト」というシステムを開発しています(図-11)。
これは、日本の農業従事者の多くがシニア層であることも考慮し、トラクターやコンバインにGPSやセンサーを装着し、農機の位置や稼働情報を遠隔管理することで、農場経営をサポートするものです。

作業内容をログで取っておき、例えば、1年前の×月×日にこんな作業をしました、という履歴が誰でも分かるようにしてくれる。
稼働状況に応じてメンテナンスを提案し、機械にトラブルが起きた場合はエラー箇所を早期に把握するなど、アフターサービスも強化することで、顧客の囲い込みを図っています。

今後はおそらく、自動コンバイン、自動田植え機というように、自動稼働の方向に進んでいくのではないかと思います。

図ー11 ヤンマーの「スマートアシスト」

●アマゾンの倉庫を縦横無尽に走るロボットKiva

物流では、アマゾンに注目です。ドローンによる配達を試みたことでも話題となったアマゾンですが、同社の最も驚くべき点はドローンではなく、ウェアハウス=倉庫です。

アマゾンは2012年にKiva Systemsというロボットの会社を買収しました。
そして、ひとつの配送センター内につき同社の物流ロボットKivaを数千台という数で導入しました(図-12)。

従業員の指示によって、Kivaそれぞれがものすごいスピードで縦横無尽に走り回り、パッキングした商品を運ぶだけでなく、商品ラックごと持ってきてパッキングステーションに下ろすことまで、全自動で行っています。YouTubeでその様子を見ると本当に驚きます。

図-12 Amazonの物流ロボット

ロボットたちには、周囲の物体の動きを検知するモーションセンサーが搭載されていますので、お互いぶつからないように移動ができます。

このロボットを他の企業に使わせないように会社ごと買収するなど、アマゾンほど物流に膨大な投資をしている会社はないでしょう。
日本では小田原に大型物流センターを造り、このKivaを取り入れています。

CNET News – Meet the robots making Amazon even faster – YouTube

http://cnet.co/1v7z11b As Amazon gears up for Cyber Monday and the busy holiday shopping season, it's getting help from thousands of robots that search throu…

●寺岡精工のエンジニア&顧客マッチングのソリューション

全国の小売店で使用されている計量器やPOSシステムなどを製造する寺岡精工は、製品の稼働状況を24時間365日コールセンターで監視し、センターには現場経験7年以上のオペレーターを常時配置しています(図-13)。
何かあればいつでもオペレーターが遠隔で、顧客の端末のメンテナンスを行えるというわけです。

図-13 寺岡精工のサポートサービス

さらに全国140カ所以上の拠点に600名以上のフィールドエンジニアを備えていますので、トラブルを抱えた顧客に最も迅速に対応できるエンジニアを派遣することも可能です。
これは言ってみればオーソドックスなやり方ですが、IoTと組み合わせて、部品ごとの摩耗状態や温度変化などを測って異常を検知していくことで、予防保全へと繋げていくことができます。

 

シスコシステムズなども自社のルーターを同じようなかたちでモニターしています。
いずれにしても、このようなフィールドエンジニアの測位、つまりエンジニアの行動スケジュールの把握と、直近の顧客への派遣というサービス事業が、中核事業のひとつになっているということです。

●継続的な営業から市場動向の把握までを可能にする「GPS Punch!」

レッドフォックスという東京のベンチャー企業が開発した、クラウドサービス「GPS Punch!」は、今後みなさんがすぐに活用できるものではないかと思います。
どのようなサービスかというと、スマホやタブレットなどスマートデバイスのGPSをクラウド活用し、営業・保守・建設など、あらゆる現場の業務効率アップを支援するものです(図-14)。

図-14 「GPS Punch!」

例えば法人営業の場合。当日行く予定の営業先をスマホに入れると、ルートが出てきます。そして、その通りに行っているかどうかを、チーム内でリアルタイムに共有します。
営業後は、どのような商談をしたのか、電子報告書に記載すれば、そのまま日報として上司やチームメンバーが閲覧できる。チーム全員がこれを行うことで、業務の効率アップが図れるということです。

また、現状では営業マンの引き継ぎというものは難しいものがあり、せいぜい担当顧客の名前を引き継ぐくらいしかできないのですが、このサービスを利用すれば、訪問履歴や商談内容を含めて、次の担当者に引き継げます。
そのようになれば、会社としても継続性のある営業ができることになるのです。

●GPS Punch! 位置情報を活用して現場の売上を最大化する

また「GPS Punch!」の保守・メンテナンス業務のソリューションとしては、同サービスを使うことで検査員が位置情報とビフォー・アフターの写真付きで検査報告ができます。

また、外勤スタッフの出勤、訪問、休憩などを記録し、位置情報と合わせることで勤怠のエビデンスとして残すこともできます。さらに、報告書を利用し、製品の市場からの反応を現場担当者から収集することで市場動向の把握にも役立ちます。

おそらくこのクラウドサービスは将来的に、まだまだ多様なソリューションが生まれていくでしょう。
例えばSNSと連動することで、顧客の関心やローカル情報を関連づけたセールストークが営業活動で可能になる。

また、センサーとの連動で機械の故障等を自動検出するなど、保守業務の効率化。さらに、市場動向に合わせて店舗在庫を自動検知して自動発注するなど、あらゆる業務で可能性を秘めているように思います。

●ゴルフ場管理費の65%を占める芝刈りコストを半分に

ゴルフ場の芝刈りも位置情報の利用で効率化が進んでいます。
電子機器事業などを手がける東京のマミヤ・オーピーと米国の芝刈り機メーカー大手Jacobsenが共同で、自動芝刈りロボットを開発しました(図-15)。

図-15 ゴルフ場用芝刈り機

マミヤ・オーピーの自律移動制御モジュール「I-GINS®」は、3軸ジャイロセンサー、GPS、無線通信、障害物検知機能を搭載しています。
この「I-GINS®」とJacobsenの芝刈り機を機器間通信することで、自動制御の芝刈りロボとなるわけです。

どのようなことができるかというと、GPSでゴルフ場の高精度地図を生成し、フェアウェイ、ラフ、グリーンなど、自動生成した軌道で予定通り夜のあいだに芝を刈ってしまう。時速10kmで芝刈りしながら走行するのですが、設定した軌道に対して3〜5cmという精度を維持できるというから驚きです。

タブレットなどで簡単に操作できますし、もちろん必要に応じて自動から手動へ切り替えて、通常マニュアル運転も可能です。これがあると、たったの20分ほどで1ホールの芝刈りが完了します。

導入価格は1台で7〜9万ドル(1000万円前後)。通常ですとゴルフ場管理費の65%を芝刈り費が占めるとも言われますが、そのコストを半減することができるため、導入すれば3年で償却できる計算です。

ゴルフをされる人はご存知かもしれませんが、ゴルフ場は意外と、位置情報に支えられている場所なのです。
芝刈りのような裏方のメンテナンスはもちろん、表のプレイヤーのほうも位置情報にサポートされることがあります。私が以前行ったオーストラリアのゴルフ場では、GPSを使ってプレイヤーに「ピンまであと何メートルです」と知らせるようなサービスもありました。

(次回に続く)

◎本稿は、書籍編集者が目利きした連載で楽しむ読み物サイトBiblionの提供記事です。

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