これまで、M&Aの手法やスケジュール、買取価格、敵対的M&Aからの防衛手段などについて解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。完璧とはいえませんが、M&Aがどんなものかを知っていただくのに必要な、一通りのご説明はできたと思っています。

最終回である今回は、まとめとしてM&Aを成功させるためのポイントを、私の経験を踏まえてまとめてみました。

もし、自社で実際にM&Aを行う際には、これまでのM&A講座の内容を参考にして、会計士など専門家と相談をしながら、M&Aを進めてみてください。

買い手、売り手が、同じイメージを共有することが、成功への第一歩

Q:前回、M&Aは成功率が低いというお話がありましたが、M&Aを成功させるポイントはあるのでしょうか?

A:契約完了がゴールではなくM&A実施後がスタートであり、当事者全体の価値を上げることを目的として実行することが大事です。

私は、年間20件以上のM&A業務にかかわっています。ただ残念ながら、真に成功したM&Aの事例というのは少ないです。当初2~3年で成果がでる予定だったM&Aが、成果がでるまで4~5年かかったり、残念ながら2~3年ほどで統合を解消した例もあります。また、DD(デューデリジェンス=事前調査)の実施後、事前の情報や統合後の効果が不明となりM&Aが成立しないこともあります。

これほど大変なM&Aですが、長年かかわってきた中で、成功に必要なポイントがある程度、わかってきたように思います。あくまでも私見ではありますが、以下に列挙いたしましたので、チェックリストとしてご活用いただければと思います。

1.検討段階では、情報が外部に漏れないよう気をつける
2.買い手も売り手もM&Aの相手先として十分か、じっくり検討する
3.統合作業に入ったら、売り手は情報を正確に買い手に開示する
4.買い手は疑問をすべて確認し、契約後に齟齬が生じないようにする
5.内部環境、外部環境の変化に強固な組織づくりを目指す
6.お互いの企業文化を尊重し、統合作業及び統合後の作業に時間とコストをかける

6つ挙げましたが、ひとことで言ってしまえば、買い手と売り手との信頼関係をしっかりと築き、コミュニケーションを深くし、お互いのゴールを共有することが、最低限の条件となります。
お互いに協力せずに、たとえば買い手だから強く、上から目線で売り手に対応しているようでは到底、統合は成功しないでしょう。

M&Aは契約のクロージングが目的ではなく、両者のこれまでの良いところを統合し、より持続的に成長をすべきものです。事前交渉、各種DD、DD後の交渉、統合計画の実施とすべての場面において、互いの企業文化や歴史を尊重し統合後の姿をイメージしてM&Aに臨んでいきましょう。

※M&A講座は今回を持ちまして最終回となります。会計講座から8ヵ月に渡る連載をご覧いただき、ありがとうございました。

専門家:江黒崇史
大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。
ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。