「自社を買ってください!」
こんな風に自分から売り手としてアプローチすることはあるのでしょうか?
答えはYES。
赤字になっている事業を売却したり、息子に会社を譲る時にもM&Aは必要になります。

そこで今回は、売り手側の注意点を解説します。
買い手とは違い、売り手はベストな相手に適切な価格で譲渡し、従業員や取引先が引き継がれることが「成功」ですので、M&Aの成約がひとつのゴールになります。

だからといって、統合後のことに無関心でいいわけではありません。買い手と協力してM&Aを成功に導いていきましょう。

「売る」ことで、会社や従業員が救われることもある

Q:自らが売り手としてM&Aを選択することはあるのでしょうか。

A:不採算部門の売却や事業承継目的で、自社を売却することがあります。また、将来的に自社が買い手になる可能性もありますので、買い手側からの要求には誠実に対応しておくことが望まれます。

これまでのコラムでは買い手側の視点が中心でしたが、M&Aは買い手ばかりのものではありません。経営判断として売り手となることもあるのです。
売却の大きな目的としては、以下の3つが挙げられます。
1.自社の事業が苦しい時に救済目的としての友好的売却
2.不採算部門を他社に売却することで自社の経営効率化を図る
3.事業承継目的としての売却

会社・事業を売却、というとネガティブな印象があるかもしれませんが、決してそんなことはありません。事業承継はもちろん、自社だけでは苦しいままでも第三者と組むことで劇的な復活ができるのであれば、M&Aは検討すべき戦略です。

自社をよく見せたいという嘘はかならずバレる

次に、売り手になったときの注意点についてお話いたします。

●売却先は価格だけで決めない

自社を売却するとなると、売り手は「より高く売りたい!」という気持ちが生じると思います。
ですが、会社には利害関係者が多数います。決して自己保身のためだけに売却を決めるのではなく、従業員や取引先はもちろん既存の自社のビジネスを持続的に成長させてくれる相手先か、金銭だけではなく気持ちの面でも視野を広く持って売却先を選択していきましょう。

●調査や交渉には誠実な姿勢で臨む

実際に候補先が登場して交渉が始まった際には、きちんと自社の内容を明らかにすることが大切です。

M&Aの現場では、買い手が売り手に対して詳細なDD(ビジネス、法務、財務会計等の事前調査)を行います。この時に何かを隠したり、カッコつけて自社を大きく見せようとしたりしても、買い手側はDDを通して必ず矛盾点などに気付き、場合によっては売り手側に不信感が芽生えてしまい、ディールそのものが不成立になってしまうこともあります。

そのため、買い手側のDDで求められた資料はきちんと提出し、質問にも誠意をもって答える姿勢が必要です。それと同時に、これまでのビジネス経験で感じている潜在リスクや弱みも買い手側に提供し、両社で今後解決していく話し合いなどして、M&Aの交渉を前向きに進めていきましょう。

専門家:江黒崇史
大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。
ノマドジャーナル編集部
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