たとえば結婚を考える時に、容姿だけを見て決める人はほとんどいないと思います。相手の家族構成や職業、所有物、年収、周囲からの評判などを、専門家に依頼しないまでも、徐々に知った上で決めることが多いのではないでしょうか。

M&Aで会社が統合する時も、結婚と同じです。
統合後に「こんな債務があったなんて・・・」「もっと安く買えたのに・・・」といったことにならないように、DD=事前調査をすることが必要不可欠です。

オーナー同士で事前に統合を約束していたり、付き合いの長い会社だと「あそこなら大丈夫だろう」と考えてしまいがちですが、内情は意外と知られていないもの。M&Aを成功させるためにも、しっかりと調べておきましょう。

事前調査でリスクや不測の事態を回避する

Q:前回出てきたDD(ディーディー)について、詳しく教えてください。

A:DDとはDue Diligenceの略称で、事前調査のことを指しています。

M&Aにおいて欠かせない作業にDDがあります。これは、M&Aの対象会社に対する事前調査のことで、通常は基本合意の後に行われます。

ある会社が別の会社を買おうとするとき、買い手としては売り手の話を全面的に信用したいところですが、やはり一度は調べるべきでしょう。そのM&A事前調査のことをDDと言います。
以下がM&Aにおける主要なDDです。

No. DD 内容
1   ビジネスDD   買い手が売り手企業のビジネスの内容について調査するDD。
  ビジネスの商流から、マーケット環境、対象会社の強み、弱みなどを把握する。
  買い手側の経営企画室が実施したり、外部のコンサル会社の協力を得て実施される。
2   法務DD   対象会社の法務について法律事務所が調査するもの。
  設立時の謄本、定款から始まり、幅広い分野の契約書やこれまでの係争事件、潜在リスクなどが調査対象となる。
3   財務DD
(会計DD)
  対象会社の決算書について会計事務所、監査法人が調査するもの。
  滞留債権、滞留在庫や固定資産の評価、簿外債務の有無、正常収益力などを把握する。
4   環境DD   M&Aの対象会社が化学工場を保有しているケースなど、
  土壌汚染リスクや有害物質の存在が想定される場合に実施する必要がある。
5   その他   人事制度について調査する人事DDやITシステムについて調査するITDDなど。

DDではビジネス、財務・税務、法務、IT、人事、環境、知的財産といったさまざまな視点から調査が行われますが、すべてが必ず実施されるわけではありません。
買収規模が大きくなればなるほど多様な調査が必要になりますが、調査が重複して非効率になってしまったり、費用が嵩んでしまうという恐れがあります。こうしたことにならないよう、DDをハンドリングできる人材を社内で確保したり、専門家のアドバイスを仰ぐようにしましょう。

M&Aを中止することが正しい決断になることも

DDを通して問題点が検出された場合は、どう対応をしていくか慎重に検討する必要があります。問題点が大きく、統合前・統合後に不確定要素を解決できないのであればM&Aを実行しないことも良い選択です。

私自身、DDの結果M&Aが不成立だったこともあります。またDDの過程で買い手と売り手で意思の相違が生じてしまい、売り手側からM&Aを拒否することも経験しています。

せっかく検討し始めたのだからM&Aはクロージングしなければ、、、と無理にM&Aを実行するよりも、DDの結果を冷静に踏まえ、M&Aを中止する勇気も必要です。

専門家:江黒崇史
大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。
ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。