メディアの報道の影響もあり、M&Aというと、なんとなく大企業がするものというイメージをお持ちの方もいらっしゃるかと思います。

ですが実際は、中小企業(未上場企業)間で行われているM&Aは年間600件(2013年)。日本全体の件数の約3分の1にも上ります。
(未上場企業間のM&A件数の推移・・・出典:株式会社レコフ/http://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/hikitugi/2014/141216hikitugi3.pd、M&A件数の推移・・・出典:MARR Online/https://www.marr.jp/mainfo/graph/

事業拡大や新規事業への参入のチャンスを逃さないためにも、常日頃から、統合してメリットがある会社やM&Aの手法・時期について、考えておくといいでしょう。

企業買収には、譲渡や分割も含まれる

Q:M&Aにはどのような種類があるのでしょうか。

A:一言でM&Aといっても、手法は複数あります。

前回、M&Aは企業買収と訳されると説明しましたが、この企業買収には大きく2つの手法があります。

一つは、その企業の株式を取得する手法です。企業は法人であり、物体そのものがあるわけではありません。そこで、株式を取得することで、その会社を支配する権利を得るのです。株式を取得するには、現金または株式交換や株式移転で取得する手法があります。

もう一つは、会社を事業面で分割したり、事業の一部を譲る手法があります。これは、ある企業の一部の事業がほしい場合や売却したい場合に有効です。

以下にM&Aの主な手法をまとめてあります。

No. 手法 内容
1   株式取得   株式を現金で取得する、一番ポピュラーな手法です
2   第三者割当増資   被買収会社が新株式を買収候補会社へ発行し支配権を保有してもらう手法です
3   株式交換   ある会社がそのすべての株式を他の会社の株式と交換する手法です
4   株式移転   ある会社がそのすべての株式を、設立する新しい会社(親会社になります)に移転する手法です
5   事業譲渡   組織化された有機的一体として機能する事業について譲渡する手法です
6   会社分割   会社の事業を分割する手法です。
  新会社をつくる場合と既存の会社に事業を吸収してもらう場合があります
7   合併   ある会社が包括的に他の会社に移転する手法です。
  やはり新会社をつくる場合と既存の会社に事業を吸収してもらう場合があります

適切なスキーム選択には、専門家を交えた議論が必要

Q:どの手法が一番いいのでしょうか。

A:上記の手法は、どれもメリット・デメリットがあり、一概に「これがいい」と決めることはできません。
そのため、M&Aの目的に応じて、どの手法が良いか選択をしていきます。これを実務ではスキーム選択といいます。

また、M&Aの手法を検討する上で盲点となるのが、税金の取り扱いです。第三者割当増資であれば買い手・売り手側とも税金はかかりませんが、株式譲渡であれば売り手側に税金が発生するといった基本的なことはもちろん、専門家でなければ判断が難しい場合もあります。

例えば合併の場合、会計上は資産・負債を引き継げますが、税務上は繰越欠損金を引き継げるか否か、その判定が複雑です。よく「あの会社は欠損金があるから、合併すれば欠損金を活用できる」と思われる方が多いですが、その取り扱いには慎重な検討が必要です。

組織再編税制は非常に複雑ですので、M&Aを検討する際には、ぜひ税務の専門家の意見を交えて手法を選択するようにしてください。

専門家:江黒崇史
大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。
ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。